8 「君が噂の新零という娘か」 『・・・・・・・・・』 「まるで、君の妹の様だな」 「よく言われますよ」 泉宮寺豊久の元に、彼女を連れてきたのだ 長年の付き合いもあり、これからも付き合う相手とあって 一度は顔を合わせておくべき人物である 「見ての通りの人見知りでしてね・・・・」 『・・・・・人間じゃないわ』 「面白いことを言う子だ」 外見が機械の人間は、いくら脳や神経が人間のものであっても 彼女の人間というカテゴリーには入らないようだ 事前に泉宮寺について、新零に伝えてはいたが 近寄りがたいようで、僕の少し後ろに立ったまま動かなかった 泉宮寺の義眼が彼女を上から下まで何度も往復するが 彼女の興味は既に別の物へと移っており 視線を気にすることはなかった 「彼女に話を聞かせてもいいのかい?」 「構いませんよ」 「子供には難しい話だろうな」 「いえ、新零は理解できますよ。泉宮寺さんが思っているほど幼い娘ではない。 だからこそ、今日は連れてきたんですよ。少しは僕の計画を知ってもらおうかと」 『私は、知りたくないわ』 「仲がいいな」 「そうかな」 横に座って、本を読み始めた彼女を一度見て 本題に入ることにした ページのめくりがいつもより遅いことから こちらの話もそれなりには聞いているようだった 「今日は、泊まっていくのだろう?」 「はい、お世話になります」 「部屋は、別室かな」 「はい」 『・・・・・』 「彼女は、不安そうだが?」 「?」 『別室でお願いします』 「同室が良かったか?」 『遠慮します』 「君を置いて行ったりしないから安心しなよ」 『・・・・・・・・別にそういうわけじゃない』 「・・・新零?」 『何でもない』 持っていた本を抱きこんで、宛がわれた部屋へと入って行った 何でもないといった風には見えなかったが 避けられてしまえば、それまでか・・・と、残っている別件を確認しに 次の約束ごとへと向かった 慣れない場所は苦手だ 人も怖い 病院も検査も嫌いだ この部屋の内装も嫌い 過去にいた部屋と似ている 先ほどまでの山小屋風とは違ってアンティーク調のそれらが、思い出したくない情景を引き出してくる ホロで塗り固められた自室が嫌いだった そこには何もないのだ 子供部屋でもなんでもない簡素な家具 ぬいぐるみと見せかけたただの塊 ホロを使わなければ、ただの檻だった スキャニングだらけの観察室 今思えば、あの場所から出た時点で色相はクリアだったのかもしれない クリアになったから、出されたのだろうか・・・ 『・・・・・』 息が苦しくなるのを感じ ベッドに転がって、本を開いた 最近は、SF物ばかり読んでいる気がする あの図書館には数がなかったので、少し珍しかった 『・・・犯罪係数を誤魔化す・・・か』 以前、病院に連れて行かれた際も 色相はクリアカラー あの時の医者?曰く、槙島聖護も同じらしい なら、あの男が私を側に置くのは 同族意識だろうか これから私は、どうするべきなのだろうか 犯罪の片棒を担ぐの? ・・・それも違うように感じる 犯罪・・・? 今日の話を聞いていて今の世間から外れたことではあるが 異論よりも同意見の方が多かった あと数年の寿命をどう使おうか このまま本を読むだけというのも楽しいが 怠惰と言ってしまうこともできる 彼の計画に興味がないかと言われるとそうでもないのは事実だ 犯罪?と知っていながらも まるで本の中のような、この世界においての枠に外れたこと 本の中では起きうること いっそ乗ってしまおうか それも悪くないかもしれない 少しだけ口元が上がった この物語は、どこで終わるのだろう 「良く眠れたのかな?機嫌が良さそうだ」 『そうね、ちょっと考え事がまとまっただけよ』 「そうか、それは良かった」 『・・・貴方を、もう少し信じることにするわ』 「昨日の話に賛同してくると?」 『犯罪の手伝いは、したくないのだけれど』 「君は、本当に」 『最近、少しだけこのままでいいのか考えていたのよ。だからと言って何ができるわけでもないし 寿命を全うすることが今の目標だし、本を読むのはやっぱり好きよ。 でも、この世界を見るのはつまらないわ。私を見なかった世界と向き合ってあげるほど強くないの だから、貴方を見ることにする。その方が楽しそうだわ』 「確かに、君はプレイヤーには向いていないかもしれない」 『動けば、即死ね』 「ふふっ・・それは間違いないな。君が僕の元を離れると言うなら、その場でゲームオーバーだ」 『あら、酷い話』 「いいよ、好きにすればいい」 『ありがとう、聖護』 「・・・いい顔をするね」 『もう少し前向きに生きますので、改めてよろしくお願いします』 「こちらこそ、新零」 やけになったわけではない 今まで散々だったのだ なら、見てくれる人がいる今を同じように過ごすのは、もったいないと感じたのだ 見てくれるのなら、見ればいい 本の中で生きていた彼女らしい答えなのかもしれない さらに外から見てしまえば、弱小のプレイヤーになるだろうが 彼女なら、事の真意を見ることができるだろう 見せてあげたい気分にもなる ←→ 目次 |