0 ここで待っていろと言われて大人しくしていた 藤間幸三郎という桜霜学園の教師と何やらしているらしい 何やらと言っても、実際知っているのだが 良い趣味とは言えなかった 「君は、これを見ても平気なのか」 『気味が悪いのは事実だけれど。人間こんな風になるのかと驚いてるわ』 「少し意外だな。もっと怖がるかと思ったんだが」 『期待を裏切れて光栄です』 実際に切り裂いているところは見ていないが されると思うと、ぞっとする。痛そうだ 何度か、この廃棄区画には足を運んだこともあって 大体今いる場所はわかるが、どうにも治安がよろしくないので 少しばかり不安にはなる ずれてきたコートのフードをかぶりなおした 何が目的で、私は連れ出されて放置されるのだろうか・・・ 私で何を釣ろうとしているのかわからないが 聞いたところで誤魔化されそうなので、いくつかの考えを巡らせるところで止まっている 「お嬢さん、こんなところで何してんだ」 『・・・・・・・』 「ここに住んでんのか?」 『・・・補導するつもりかしら?』 この区画には不自然なスーツ姿の男に、公安の人間だと目星をつけて尋ねたところ やはり、そのようだった 「そりゃぁな、こんな身なりの整ったお嬢さんが、廃棄区間にいるなんて不自然だ」 『そんなことないわよ、身を追われて逃げ込んで住み着いていることだってありえるわ』 「身売りでもしてるのか?」 『なぁに、そうだったらお兄さん、買ってくれるの?』 「もう少し大きくなったら考えてやってもいいかもなぁ」 『あら、失礼ね』 「将来、かなりの美人になるよ、お前」 『それは、どうも』 「って、わけで。お兄さんと一緒に来てくれるか?」 『遠慮します』 「んだよぉ、お前もか」 『?』 「なら、1つ聞く」 『知らないわ、私はここに来て間もないの』 「察しがいいな」 『こんなところに公安の人が来るなんて、事件が人探しくらいでしょう? もう、いいかしら。そろそろ待ち合わせの時間なの』 「・・・・・・」 探るような目に、何事もないかのように背を向けた 動くなとは言われたが このままでは補導されかねない 追ってくるかと思ったが、そうでもないようだった 今のが監視官?それとも執行官? そういえば、聖護がセキュリティ突破のために人が欲しいと言っていたことを思い出した 人というより、物が欲しいのだろう 「新零、今どこにいる」 それからしばらくして、耳に付けていた通信機から彼の声が聞こえた 『公安の人に補導されかけたから移動したわ』 「公安の人間が?」 『えぇ』 「そうか・・・・なら、今どこにいる」 そこからどう動いたかを伝えれば、こっちへ来てくれるようだった 確かに、こちらの方が、あの人のいる部屋には近いだろう 実際に会ったことはないが 先ほどすれ違った男から血の臭いを感じた それと同時に、その銀髪に、先ほどあった少女を思い出した この2人になんらかの関係があるのだろうか 待ち合わせというのは、あの男ではないのか・・・? 追いかけたい気持ちもあるが、目の前の常連犯をほっておくわけにもいかなかった あの時、補導しておくべきだった 「新零」 『ごめんね』 「君の方が近かったからね、それに、君が補導されるのは嬉しくない 僕が向かえに行くわけにもいかないだろう?」 『そうかしら、案外、兄ですと言えば通るかもしれないわ』 「そうもいかないな、さっき僕も、それらしき男とすれ違った」 『それは、残念ね』 廃棄区画をうろついている身なりの良い兄妹など、怪しまれるのは間違いないだろう 彼の後ろをついて男のいる部屋へと向かう 「君に声をかけたのは、短髪でたれ目の男かな」 『そうよ。それにしても、なぜ見逃したのかしらね、私のこと』 「今頃、捕まえておくべきだったと後悔しているだろうさ」 あの日以降、私はしばらく廃棄区画には行かなかった 行かなかったというよりは、行くなといったところだろう 一度補導されかけたのがいけなかったのかもしれない 上機嫌で帰ってきた彼を横目に見つつ 本をペラリとめくった あの部屋から漂っていた薬品の匂いが微かに臭ったが それから当分の間、嗅ぐことはなかった 「新零を補導しようとした男は、佐々山光留という執行官だったよ」 過去形と言うことは、あの時の彼が犠牲になったということか ちょうどいいかもしれない、顔を見られたことだ そんな考えをした自分に、結局、私も犯罪者か・・・なんて思った ←→ 目次 |