2

『・・・・・・』
「プリン、食べますか?」
『・・・!!』
「槙島のダンナは、もうすぐ帰ってくると思いますよ」

ソファの隅で読書中の少女に声をかければ
初めは不信そうに、こちらを見ていたが
プリンの言葉に、反応して本を閉じた

『チェ・グソンだったわよね』
「はい」
『次は、シュークリームね』
「わかりましたよ、お姫様」
『・・・聖護に力を貸しているんでしょう?新零でいいわ』
「新零」
『なに?』
「いえ、呼んだだけですよ」

そう言って、プリンを差し出せば目を輝かせた

「新零は、今いくつですか?」
『16』
「随分と若いですね・・・いつからここに?」
『・・・、3,4年前かしらね。貴方が考えているような関係はないから』
「それは、それは失礼を」
『ねぇ、クラッキングって難しいの?』
「興味あるんですか?」
『・・・少し。一応、自分の身を護れるようにと思って・・』
「ダンナのためですか?」
『?』
「・・・そうですね、少し、教えましょうか」
『いいの?』
「構いませんよ」


簡単に話せるような手順ではないが
何をするのかだけを伝えれば
意味が分からないという顔をされた
1つ1つ説明するのは面倒に感じ、今度資料持ってくるということで片付けた

「とりあえず、貴方の場合は機械に慣れてください」
『・・・・そうね』





『聞いてもいい?』
「何ですか?」
『・・・聖護って、私以外にも居候作ってたりするの?』
「気になるんですか?」
『気になるわ?』
「どうして?」
『どうして?・・・そうね、誰か1人に固執する人には見えないから』
「まぁ、確かに飽きたら捨てる人ですからね。俺も気を付けないと」
『聖護は、貴方のこと気に入っていると思うけど』
「それまたどうして?」
『ここにいるからよ。私、何度か、あの人について行ったことあるけれど
 取引相手?協力者?に実際に会って話をしたのは貴方が2人目よ』
「1人目は、泉宮寺さんですか」
『えぇ』
「心配いりませんよ。あの人の口から出る女の話は、貴女のことばかりだ」
『・・・私のことを話したりするの?』
「意外ですか?・・・子猫呼ばわりされていますけど」
『これでも身長伸びてるのよ・・・いい加減、子猫はやめてほしい』
「子猫がどうしたって?」
「遅い登場ですね槙島のダンナ」
「少し手こずってね。・・・・随分と懐いているようだね」
「嫉妬ですか?」
「いや、珍しいなと思っただけさ」
『ねぇ、いい加減、子猫って言うのやめて』
「君は、どれだけ経っても子猫だよ」

何を言っているんだ、という顔で彼女の頭をぐりぐりと撫でる
少し意外だ
確かに彼の口から、この少女の話が出ることはあった
お気に入りであるようにも聞き取れたが
こうして目にしてみると、兄妹のようだ

可愛い妹をいじる兄と抵抗するもされるがままの妹

ぐしゃぐしゃになった髪を
手で梳いて元に戻し、彼女の背後から手を伸ばして
先ほどまで新零が読んでいた本を手に取る
わざとらしく彼女の頭に顎を載せて、ぱらぱらとページをめくった

「また、君は懐かしい本を読んでいるね」
『そうなの?適当に選んだだけよ』
「たしか、どこかに続きがあるはずだから、探しておくよ」
『・・・これ続き物なの?』
「あぁ、シリーズ全4巻」
『なら、しばらくは、この世界に浸れるのね。そうだ、貴方ゲームできる?』
「ゲームですか?」
「新零は、なかなか強いよ。僕も最近勝てないんだ」

指差した先の、片付けられずに置かれた旧式のゲームに目をやる

「また、古風な物を」
『古風とは失礼ね』
「しかも、格ゲーじゃないですか、これ」
「昔に手に入れたんだが、今は新零のおもちゃだ」
「いいですよ、やりましょうか」




「上機嫌だね」
『勝ったんだもの、嬉しいわ』
「初心者相手に容赦ありませんね」
「久しぶりに僕もやろうかな」
『負ける気がしませんね』
「お手柔らかに頼むよ」



ダンナの「あ」という言葉と共に、彼女の必殺技が決まった
ぐっと刻まれた眉間のしわに思わず笑いそうになった

『私の勝ちですよ、聖護さんや』
「そのようだね」
『・・・ふふっ、悔しそうね』
「・・・・・・・新零、たまには違うキャラを使いなよ」
『一応、一通り使ったのよ。でも、この子が一番かわいいもの』

テキパキと次のゲーム画面へと進めるダンナに少し笑えば
一瞬視線を向けられた気がした




「じゃぁ、俺はもう帰りますよ」
「あぁ、例の件よろしく頼むよ」
「はい」
『・・・・・・』

出入口まで来たところで、事の確認をしていたところ
ダンナの腰に後ろから細い腕が絡みついた
横から顔を出す新零に、目で次はシュークリームを買ってこいと訴えられた気がする

一方的かと思えば、そうでもないようだ
俺は、兄妹の家に遊びに来た親戚のおじさんか、と思いつつ部屋を後にした




「新零、グソンに何か頼んだのか?」
『・・・秘密』
「シュークリームかな?」
『・・・・・・』

ピクリとして腰に回っていた腕が離れた

「そこは、別の物にしておきなよ」
『?』


目次
ALICE+