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ヴァーチャル空間
コミュニティーフィールドに、アバターを作り
疑似空間を体験する

流行っているらしいが
どうにもこの仮想空間が気に入らない
本を読んでいた方が、ずっと有意義ではないだろうか

「お気に召したかな」
『私が、召すと思ったのかしら』
「やはりか、だが、そういう割にはアバターにはこだわったな」

自身の白い髪を耳に見立てた、白い垂れ耳を持つ少女のアバター
瞳の色も自身のそれと合わせ、衣装も自身の部屋着に合わせており
他のアバターよりも段違いに可愛らしく仕上がっている
故にコミュニケーションを取ろうとする者も多い
だが、本人はそんな気もなく、独自の空間を構築中である

知らないうちに上達していったプログラミング技術は
おそらくグソンが絡んでいるのだろう
何度かパソコンで資料を見ているのを見かけた

コミュニティーフィールドに独自空間を構築し
人を呼ぶつもりはない本人の意思に反して
仮想空間においての観光地となりつつある


思ったより目立ちすぎている気がするが、つまらないといいつつも
空間をつくることに対しては楽しんでいる様子なので
まぁ、いいかと思う





「お宅の子猫、いや子兎の空間、なかなか繁盛していますが、よろしいんで?」
「構わないよ、新零も楽しんでいるようだからね」
「それはそれは」
「君だろう?新零にプログラミングを教えたのは」
「身を護るために知りたいと言われましてね。少しだけ力を貸しました・・・いけませんでした?」
「いや、彼女の知識の幅が広がったんだ。喜ばしいことだ」
「彼女、なかなか筋がいいんですよ。
旦那が、傍で教えているのかと思ったんですけど、違ったみたいですね」
「おかげで、驚かされたよ・・・・それで、例の件だが」



グソンとの通話を終えて新零の様子を見に行けば
セットを外して、床に転がっていた

「飽きたのか」
『なんだか人が押しかけてきて面倒になったわ』
「僕が少し触ってもいいかな」
『ご勝手にどうぞ。ただの仮想空間じゃない』

そう言いつつ、夜中の間ずっと触っていたのか
眠そうに床を這って別の部屋へと移動していった
ひと眠りするのだろう

彼女にとっては、いつもやっているゲームと一緒なのだろう
レベルMAXにすることを楽しんでいるのと似て
満足が行くまで作りこみたいと言ったところだ





ソファに転がった新零の寝顔を眺めた
彼女との付き合いも、もうすぐ5年になる
出会った頃より、ずっと大人びた

あれだけ不規則な生活をしているというのに
肌荒れ一つしない白い肌に
カールした長い睫
作られたかのような顔立ち
少しだけ空いた口が、どうにもあどけない

握れば簡単に折れてしまいそうな四肢に
赤の映える白

もし、今ここで首を絞めたら
カミソリで首を斬れば

自分は、喪失感を受け取ることになるのか

それもまた一興

『身の危険を感じたのだけど気のせいかしら』
「少し考え事をしていただけだ」
『考え事にカミソリが必要なのね』
「!」

ばっと起きた彼女が、カミソリを奪い取り
そのまま自分を押し倒した

いくらでも防げたというのに、されるがままになった

これまた一興

腹部に乗っかった新零が、どうにも軽くて笑ってしまう

『・・・・・・』

首元に当てられたカミソリ
震えることのない手
揺るがない瞳を見て

この少女は、人を殺せる人間だと思った

彼女の手に自分の手を添え、少し自分の首に押し当てる
動揺しない

痛みが走った
少し切れたのだろう

『・・・・血が出てるわよ』
「冷静だな」
『・・・・こんな簡単なことで人って死ぬのね』
「君は、この場で人殺しになるのかな」
『・・・・・ならないわ・・っ・・』
「・・・形勢逆転だ」

カミソリを弾き、上下逆転した
床に彼女の白髪が広がった

細い首に手をかけ少し力込める
息苦しさに表情が険しくなった

「・・・・・君に、この死に方は似合わないな」

すぐに手を離して上からどいた

『・・・・・・』

息を整える新零を置いて
着替えるために、その場を離れた



聖護が部屋を離れる音を聞きながら
息を整えた
酷く楽しそうな顔だった

もし、私に殺されかけたなら、彼はどうするのか疑問に思った
相手が力を抜いていたのはもちろんわかっている

血の付いたカミソリに目をやった

再び触れることにためらいを感じた
あの男は私に殺されようとしても楽しそうな顔をした
それは、私には殺せないといいたいのか
ただ純粋にそれでもいいと思ったのだろうか

あの時、あのまま刃を走らせたら

『・・・・・・・・・・』

妙な焦りを感じ、血を拭こうと手を伸ばせば
自分の指から血が出ていることに気づいた
先ほど、弾かれた時に切れたのだろうか

・・・結構、ざっくりいってる
静かながらに興奮していたのか、遅れて痛みが来た

傷ついた指を舌でなめた
流れた血を少し舐めとって
傷口を少し吸った
舐めとけば治るだろう


「・・・?」

タオルを首にかけ
新しいシャツに袖を通し、前は開けっ放しの姿で
同じ場所に座ったままだった私のところまで来た

『少し、切っただけよ』
そう言えば、未だに血が流れ出る傷口に目をやった

「さっき弾いた時か」
『多分・・・っ?!』
「・・・」
『・・・・・・』

にやりとする目の前の男に
驚いて口が開けっ放しなのは自分でもわかった
かなりの間抜け面だ

強い力で手首を引かれたため
腰が浮いている
傷口に他人のそれを感じ
むずがゆい



「間抜け面だ」

『知ってる』

聖護がしゃがんだため
再びペタリと床に座り込んだ
依然傷口は、彼の舌が這っている

自分でやるのはともかく、他人がやるものではない

「舐めとけば治ると言いたいが、洗って消毒することを勧めるよ」
『・・・なら、舐める必要なかったじゃない』
「君がどんな顔をしてくれるのかと思ってね」
『・・・・・・・良かったわね、間抜け面が拝めて』
「もう少し、別の反応を期待したんだが」
『?』

手首を開放して、ゆるく笑った

「君らしくていいよ」
『貴方の方は、もう止まったみたいね』
「舐めるかい?」
『誰が舐めるかっ!!』

声をだして笑う聖護に、わずかながら殺意がわいた


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