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美術室を黙って出て行った新零を見送ってから少しして後を追った
階段を下りたところで見覚えのある生徒が目に入った
その腕中にいる白い髪に視線を向けた

今は自分の腕の中にいる彼女を見下ろして
息をはいた

何を自分は安心しているんだ

「・・・・・」




椿菖蒲という少女は、思っていたよりも聡いようだ
彼女と何を話していたのかわからないが
自分との会話の中で、答えを導きだしたのだろうか

このままいくと、椿菖蒲は、潜在犯落ちするかもしれない
家庭環境、自分の置かれている立場
考えれば考えるほど深みにはまる

彼女は、新零の替わりだ
替えの効く存在
新零の代わりに、あの家の娘になる必要性は彼女にはない
別に誰でも良かったのだ







『聖護?』
「起きたか」
『・・・・ここは?』
「泉宮寺邸の一室・・・前にも泊まった部屋だ」
『・・・どうりで見覚えがあるはずね』
「体調はどうかな」
『・・・平気よ。特に気分が悪いというわけでもない』
「そうか。なら、安静に寝ているといい・・・明日は休みにしておこう」
『ねぇ、椿菖蒲はどうしていた?』
「・・・君のことを心配していたよ」
『そう』
「会ってみて、どうだった」
『・・・とてもいい子だったわ。両親が義理であることは知っていたけど
 それ以外については、特に知らないみたいだった』
「君の発作の原因は、母親に関してかな」
『・・・・そうかもしれないわね』

いちいち聞かないでくれと視線で訴えられた
酷く眠そうな、ゆっくりとした瞬きを眺めて流しつつ
長い髪に触れた


『不思議ね、菖蒲に会ったら何か思うかと思ったけど、特に何も感じなかった』
「羨ましいとも思わなかったのか?」
『・・・羨ましいというより、彼女も被害者だと思った。
 それと、あの人に吹き込んだのはきっとあの男なのよ。だとしたら、私はシビュラとあの人よりも
 そう仕組んだ、男の方を恨むべきなのかしら』
「確かに、仕組んだのは、君の父親だ。だが、どのみちシビュラシステムは君を世界から弾きだす。
 それに、神経質な君の母親なら、黒でなく白であっても拒絶したと僕は思うが」
『シビュラと男を恨むことにしよう・・・それにしても、私があの家に残る選択肢はないわけね』
「残念そうだ」
『当たり前よ、好きで家を出たわけじゃない』
「御尤も」
『・・・ここには、貴方が直接運んだの?』
「ああ、君が倒れているところに遭遇してそのままね」
『教師が生徒をお持ち帰りとは』
「明日には学校中の噂か」
『・・・・・?』
「どうした」
『趣味じゃないとは言わないのね』
「・・・君も17だからね」
『・・・・・・・・』
「冗談だ。話をつけてきたから問題ない」
『そう・・・・・聖護とゆっくり話すのも久しぶりね』
「淋しかったか」
『全然』
「そこは、素直になりなよ」
『・・・・・・』
「・・・君が思っているよりもずっと、僕は新零のことを特別に思っている
 王陵璃華子や、藤間とは違う。泉宮寺さんやグソンよりもね」
『・・・・・』
「5年前、必要だと言ったことを忘れたか?」
『あれは、仮定だった』
「なら、その仮定は、取り消すよ。そうでなければおかしい」
『・・・・・』
「5年間、僕を見てきた君ならわかるだろう?」
『・・・・』
「特別が好きと同等であるのなら、僕は君が好きだ」

触れていた髪にキスを落とした

『・・・・・・・・貴方のそれには意味があるの?』
「もちろん」
『・・・・・なら、この前のも?』
「あぁ」

この前とは、首筋の事を指すのだろう

『・・・・・随分、気に入られているのね、私』

少し視線を外して、泳がせてからまた自分の方を見た
その表情からは、戸惑いが窺え
なんだか可愛らしい

「好きだよ、新零」
『!!・・・・・・・面白がっているでしょう!!』
「照れる君が微笑ましくて、つい」
『・・・照れてない』
「それは、失礼した」
『・・・・・私も聖護のことが好き。特別という意味で』
「最後の一言は余計だな・・・・それに、口ではなんとでも言える」
『そうね、貴方の場合は、一応5年間見てきたから納得できる
 でも私だって同じでしょう?この5年間、私には聖護しかいなかった。
 あの場所から連れ出したのだって、貴方だわ。これを特別じゃなかったらなんていうの?』
「・・・・君は、また話を逸らすのか」
『?』
「何でもない、・・・その様子なら、食べられそうだ」
『!!』
「相変わらず君は、これが好きだな」

彼女のお気に入りのシュークリームの箱を見せれば
目を輝かせた


落ち込んでいるのかと思えば、そうでもないようで
むしろ彼女に同情しているようだった


しかし、難しいものだ
彼女はここで満足してしまう、その手の話を振っても
考えはするが興味がないのか深追いしないようだ







「新零が応えてくれない?ですか?」

「ああ」

「・・・どういう状況か知りませんが、それっていわゆる片思いですよね」

「・・・・・・・」

一方的に切られた通信機を眺めながら息をついた
思うように動かない新零が気に入らない・・・ということだろうか
槙島の旦那は、彼女に何を求めているのだろうか

「・・・・・・」

冗談のつもりで言った“片思い”という言葉と共に切られた通信
そんな、まさか・・・

「・・・やっぱり、ロリコンじゃないですか」

色々思い返してみても
旦那が彼女に片思いをしていると考えるとしっくりきた

猫じゃらしを振っても構ってくれない
餌をやれば寄ってくる

その関係に満足がいかないと・・・


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