13 『ねぇ、1つ聞いてもいいかしら』 「何かな」 『・・・あんな小細工、誰が考えたのよ。貴方たち男でしょう?』 「君には必要ないものだ」 『失礼ね』 「悪いとは言ってないが?」 『それは、どうも。このロリコン』 聖護の少し後ろを歩きながら、このゲームの結末を考える 狡噛慎也は生き残るだろうか・・・ 初対面でない故に、少しだけ興味がある まぁ、彼が死のうが生きようが、どうでもいいのだけれど 「君は、狡噛を応援するのか?」 『いいえ、どちらも応援しないわ。どちらが勝とうと関係ない』 「はは、それもそうだ。君が見ているのは、彼らではなく僕だったな」 『そうね』 「これは渡しておくよ」 『?・・・っえ・・』 振り返ると同時に聖護の手から何かが、放り投げられた 嫌がらせの様に少し手前に落下するそれを、手を伸ばし前のめりに受け止めたが そのまま体勢を戻すことができない 「手を出したら、足はでないのか」 トンと足音がした 『手渡ししてくれればいいじゃない』 投げる必要がどこにあったのかと、下から睨めば 少し笑って、彼に突っ込んだ状態の私を押し返した 投げられたそれが、双眼鏡だと分かり ためしに薄暗い底を覗き込めば、ご丁寧に暗視付だった キャットウォークの少し先を歩いていた聖護が、ぼそりと 「新零が運動音痴なのは、痛い目を見ないからか」と、言うのが聞こえた 確かに、前に本を捕ろうとして椅子から1度落ちたが、2度目はその必要がなかった 階段から落ちかけた時も、避けるのが遅れた時も・・・・ 『・・・筋力がないだけよ』 「聞こえていたか」 『えぇ、運動音痴で悪かったわね』 「少し甘やかしすぎたかな」 カツンカツンと音を立てて、また先へと進み始めた そろそろゲーム開始だろうか いや、向こうではすでに始まっているのだろ 聖護のさらに奥に見える泉宮寺の姿を双眼鏡越しに見つけ そちらへと足を再び動かした 頭上で交わされる会話を、なんとなく聞きながら 大人しく座っている猟犬ラヴクラフトの隣にしゃがみ 作り物の猟犬を見ていた 2体が参戦するのを見送り 壁際に座り込んだ ゲームの様子を審判の様に眺める男の姿を 後ろから双眼鏡で見た 近すぎて、真っ白だが 単にピントが合っていないだけかもしれない 「君なら、どう生き残る?」 『罠にはまるつもりはないけれど、追いかけっこはできないから。 かくれんぼね、見つかったら終わり・・・私も、放り込まれるの?』 「いや、・・・・君なら、どうするかと思ってね」 『・・・そう』 「それより、双眼鏡で見て、楽しいのか?」 『全然。白くて面白くない・・・でも、楽しそうね』 双眼鏡をずらせば、こちらを向いていた聖護と目があった 眼下で繰り広げられている狩りを楽しんでいるようだ 『泉宮寺豊久を捨てるほど、狡噛慎也に価値があるの?』 「君は、狡噛が勝つと思っているのか」 『もしもの話よ。それに、そろそろ公安の邪魔が入るんじゃないかしら』 「・・・・・本当に、君の勘は、動物並みだな」 妨害電波が破られた そう、泉宮寺に伝える男の横で、双眼鏡で下を覗いた そろそろ、ゲームも終盤と言ったところなのだろう 実際、遊びで済むような話ではないのだが 死ぬか壊れるか 泉宮寺を初めて見たとき 人とは思えなかった 生きている自分と、同じ分類にしたくなかった 刺激のない世界で 身体に走る痛みが、生きていると実感するために必要だった 延命のために、心臓を機械仕掛けにし 弱い身体を痛みのない身体にし そこに、生を感じられるとは思えなかった 「新零」 ぼーっと考え事をしている間に 移動していた聖護が、名前を呼んだ 前は死と痛みだけに生を感じた 今は、違う 人の傍にいることで、話をすることで 名前を呼ばれることで、触れられることで 生を感じる 少し先を歩く聖護を追って足を進めた 銃声と破壊音が聞こえる キャットウォークを離れ、先ほど覗いていた空間へと足を付けた スタスタと先を歩いている男の背を見失わないように歩く速度を上げた 『・・・?』 立ち止まって ため息をつく 考えているそばからこれだ 視線を上げれば、もう誰もいない 指に付いた鮮血をハンカチで拭きとり そのまま鼻に当てた 本来なら上を見るべきなのだろうが 不思議とそれができなかった どのくらい時間が経っただろうか? ほんの数分、数秒だったかもしれない 血が止まったことを確認して、ハンカチをしまった 悲鳴に似た声に、ふと視線を上げれば 舩原ゆきを連れた聖護が、不思議そうに歩いてきた 「何かあったか?」 『少し疲れただけよ』 「・・・そうか」 『・・・・・・』 震えている彼女と目があった 彼と普通に話す私を見て、彼女と同じ立場でなく 彼の仲間だと判断したのか どうして?といった様子だった 彼の左手にある猟銃は、泉宮寺のものであり 本来なら追ってくるだろう狡噛の姿はない ただ彼女だけが、手錠をはめられ無理やり歩かされていた 狡噛慎也は、生きているのだろうか そんな疑問を持ちつつ 少し距離を置いて 2人の後ろを歩いた ←→ 目次 |