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この1か月で、思ったよりも身体に負荷がかかったのだろうか
学園から戻っての数日で、こうも動けなくなるとは思わなかった

自然とため息が出るのは
この世界に未練があるからだろう

本も読み切れていない
読み足りない

『・・・・そういえば』

あの本の結末を知らない

今どこにあるかもわからない
今度、聖護に聞いてみようか


端末が音を立てる

机の上に置いたままのそれを取りに行くために身体を起こすのが
どうにも面倒で、机に着いたときには
静かになっていた

ソファに座り、本を開けば
また端末が音を立てた


「連絡にはすぐに出てくれないか」

『使い方がわからないのよ』

「嘘は、よくないな」

『私が、死んでいるとでも思ったのかしら?』

「・・・元気そうでなによりだ」

『用件は?』

「機嫌が悪そうだが、何かあったのか?」

『お互い多忙の身でしょう?』

「・・・・・僕と話す1分より、本を読む1分を選ぶのか」

『いけないかしら』

「少し妬けるな」

『それは、どうも。それで?』

「あぁ、用件だったね。・・・そうだな」

『・・・・・・・・・!』

「ただいま、新零」

『・・・・おかえり、聖護』

顔を合わせて通話をする必要性を誰か教えてほしい

通信を切る操作をしていると
ふわりと優しく頭を撫でられた

「本棚のホロがそんなに好きか」

『本に囲まれていると落ち着くのよ』

“落ち着く”とそういったはずなのだが
ためらいもなく、変更した聖護を少し睨んだ
外の時間に反して明るい室内に少し目を細めた
元々地下なのだから時間など関係ないのだが

「もう当分食べられないだろうから、買ってきてもらったよ」

視線を向ければ、見慣れたシュークリームの箱に機嫌も直る

『やっぱり、常守朱に顔を見られたのは痛かったのね』

「出歩く分には問題ないが、店に入るのは少しね」


来月の頭に数年前から計画されていたそれを実行するそうだ



シュークリームに手をつけ
咀嚼していると
なんとも柔らかい笑顔に顔が引きつった

『・・・・・何よ、その顔』

「君も、綺麗に食べるようになったなと思ってね」

『・・・・・・』

「最初は酷かったな。手も口周りもべとべとにして」

『その話はもういいでしょう!!』

「事実を言っただけだ」

『・・・・・』

本当のことだから何も言えないが
これがしばらく食べられなくする原因が目の前にいるのだから
複雑な心境だ


『ねぇ、私が最後に読んでいた本って、ここにあるのかしら』

「・・・今更だな」

『本のことは、知っているのね。ここにあるの?それとも図書館?』

「さぁね、もう覚えていないな」

『・・・・・・』

知っていて隠しているのはわかるのだが
正解がどちらかまでは見抜けない

「それを読んだら、君は死ぬのか?」

『少しは、未練が残らないかと思って。あの本の結末を知らないのよ』

「・・・・・・」

何かを考えるように、ふっと視線を遠くへ投げ
また少し笑った

私が先ほどまで読んでいた本を開き
時たま何も言わずに、食べている私を眺め
また視線を本に戻した


咀嚼しつつ
本に視線を落とす聖護を眺めれば
本当に整っている男だと思った


なんだか変な気分だ


またシュークリームにかぶりついた


・・・。



「クリームがこぼれそうだ」

『!』

慌てて、その部分を口に運んだ

目の前の男はまた笑った

「僕はいらないから、全部食べなよ」

『・・・1つは食べてよ』

「珍しいな」

『・・・・・・・っ』

「?」

『い、いらないなら食べる』

「いや、珍しい君の誘いだ。断ったりしないよ」



どうして、今日はこんなにも笑うのだろうか


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