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『変態』

「見るつもりはなかった」

『なら出て行ってくれないかしら』

「顔を洗うだけだ、少しくらい待ちなよ」

『待つのは、貴方よ』

顔を洗うつもりで、扉を開ければ
風呂上りの新零と出くわした
とっさにバスタオルで隠すようになったことに感心していれば
出て行けと言われた

まったく年頃の娘というのは難しい

『・・・・着替えられないから、早くしてよ』

「僕は気にしないから、着替えなよ」

『・・・・・・・・』

背後で聞こえたため息を聞きつつ
軽く髪を止めて顔を洗い、タオルで水気を拭きとった

「着替えたのか」

『着替えたわよ』

フリルのついた白いワンピース姿を鏡越しに確認する
白い肌に少し色がつき健康そうに見えた

ついでにと、歯ブラシを咥え振り返って洗面台にもたれた

タオルを頭にかけ
わしゃわしゃと雑に動かす様子をなんとなく眺める
あのサラサラの髪があんな扱われ方をしていると思うと妙な気分だ
羨む女性も多いのだろうと思うが
実際、気にしている人間よりも気にしていない人間が
それを持っていたりするので世の中不思議なものである
色白で、きめの細かい肌荒れ一つない素肌に関しても同じことが言える

こうして見てみると
ここに来た時よりも、ずっと大人びたな・・・と
過去の姿を思い返す

彼女が世に出て容姿で得することなどあるのだろうか
シビュラの元に置いての容姿は、さほど関係ない
結局は、シビュラの下す相性診断のようなもので決まるのだ
善良な市民に置いては。
そう思うと、容姿で寄ってくる人間は色相が思わしくない者か・・・
それなら自分が引き取ろうと、わずかながらに考える
実際、目の前にいるわけなのだが
それを選んだのは彼女なのだから、引き取ったという言い方は間違っている

『・・・・・・』

「・・・・・・」

タオルと髪の隙間から見える瞳が
まだいたのかと、言いたげだった

口をゆすぎ、髪を軽く整えた

「お詫びに、髪を乾かしてあげようか」

『・・・・・・』

動きの止まった手に、
先に向こうで待っているように言えば
タオルを頭にかけたまま出て行った



『これで、許すとともったら大間違いよ』

「なら、君も少しは女性らしく声を出したらどうなんだ」

『きゃーと言えというの?嫌よ』

棒読みに苦笑し、柔らかい髪を手で梳く

「君だって、僕の着替え中だろうと中に入ってくるじゃないか」

『言ったでしょう?殿方の身体を見て、きゃーなんて言わないわ』

「それは、君のタイミングがいいだけだろう?」

『・・・・・・・・・・』

言わんとしていることを察したのか
すぐに返事はなかった
官能小説なんてものに手を出している割には
その手の話は苦手なのかもしれない

『・・・・卑猥だわ』

「失礼だな」


彼女にとって、予期せぬこととは一体なんだろうか
彼女の髪にドライヤーを当てながら考える

例えば、彼女の母親が彼女を引き取り、愛を注ぐ
例えば、僕が・・・いや、これは前に実行して未遂に終わったか

・・・なかなか難しいな


「なぁ、新零にとって、予期せぬことは一体どういうことなんだ?」

『・・・うん?予期せぬこと?』

「あぁ」

『・・・そうね』

少し顔を上げたので、ついでに前髪に風を当てれば
すっと目が細められた

「例えばで、構わないよ」

『やっぱり、明日地球が滅ぶとかかしらね?』

「随分と壮大だな」

『・・・もっと身近だとしたら
 うーん、・・・槙島聖護が感情を込めて、かっこよく、愛の告白をする。本気でね』

「ありえないな」

『予期せぬことでしょう?』

「ふっ・・・あぁ、そうだね」

『聖護は?何かあるの?』

「・・・そうだな。」

ドライヤーの風を一度冷風に変え
熱くなった髪を冷やす

『規模が大きいものはなしよ。聖護のことだから、起こせそうだもの』

「買い被りすぎだ」

『そう?・・・・公安の人間からしてみたら、今この現状が予期せぬことでしょうね。
 自分たちが追っている人物が、10代後半の娘の髪をドライヤーで乾かしているなんて』

「確かにそうだな。自分でも驚いているよ」

再びドライヤーを温風に切り替える


『それで?』

「―――――――――――」

顎を上げて、こちらを見た新零の顔近くに風を当てた

『・・・?』

ドライヤーを切った
音がなくなり、急に静かになった

『何て言ったかわからなかった』

「ちゃんと言っただろう?聞きとらなかったのは、君の方だ」

『人には答えさせておいて、自分は教えないなんて狡いわ』

実際、聞こえるような声で言ってはいなかったが
『まぁ、いいですよ』と、あまり興味があったわけではないのか
あまり食いついてはこなかった


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