26 自分がしくじったということは・・・ 身体の状態と置かれている状況をとっさに把握するが 得られる情報は少なかった 「・・・・・」 グソンは、おそらく消されているだろう ・・・新零はどうだろうか 上手く言い逃れられれば・・・いや、政府には彼女の父親がいるのだ それは無理かもしれない 逃げられる身体だとも思えない ノナタワーへ向かう前から 体調が万全でなかったことには気づいていた 彼女は、何を選んだろうか・・・。 「久しぶりだね。聖護くん。」 全身だるさと鈍い痛み 目を開けるのさえやっとだった 『・・・・・・・・』 突然現れたあの男に 腕を掴まれ 注射器で何かを入れられた 逃げることも 声を出すことも 抵抗することさえできなかった ・・・人のことを言えない 腕に取り付けられた点滴を抜き取り 少しずつ、身体を動かしていく 何を入れられたのかわからないが 動くには動くが、妙に硬く少しだけ痛みを伴った いやに静かな自分の心臓に不安を感じる 病室だろうか それにしては違和感がある それとも私がおかしいのだろうか 『・・・・・っ』 身体を起こすだけで、随分と疲れた あれからどのくらい経ったのだろうか・・・ 外も見えず、時間も確認できない 服は、着ていたワンピースのままだ 「あぁ、起きたのか」 『・・・・・・・・』 「久しぶりだな、菖蒲」 『・・・・・・・・』 「表情が硬いな、せっかくの父親との再会だ。もう少し喜んだらどうだ?」 『貴方を父親だと思ったことなんてない』 「それは、嘘だ。突き放されて悲しいと思うのは、私を親と認めているからだ」 『いつの話よ』 「随分前だ・・・しかし、本当によく、ここまで大きくなったな その点は、槙島くんに感謝しておく事にしようか」 『・・・・・』 「勝手に連れ出されたときは、どうしようかと思ったが 彼に預けて正解だったかもしれないな・・・まぁ、目的としていた素材提供にはならないが」 『・・・・・』 随分と柔らかい話し方に、寒気がする にこにことしているが、話している内容は何かおかしい 「あ、そう言えば、彼は菖蒲を病院には連れて行かなかったのか? 今にも死にそうな身体だから驚いたじゃないか。・・・まぁ身体なんて関係ないんだけど」 『・・・どういう意味よ』 「あ、やっぱり気になるか。何も話さずにやっちゃうこともできたんだけど せっかくだし、親子の会話も楽しもうかと思ってね。」 『・・・・・・』 何が、親子だ 「これが、菖蒲の色相と犯罪係数だ。濁りも一切ない。係数も0、いや測定不能と言った方が正しい。 なぜだかわかるか?本来、あの状況下でこの数値はおかしい」 『・・・・・なら、私はどうして』 「あぁ、よく覚えているな。さすが僕の娘だ。・・・もちろん、濁ったことも潜在犯になったこともないよ あの女には、上手く言ってごまかしたが・・・、大事な素材だから隔離して大事に育てたくてね」 『・・・・・・』 「僕や、菖蒲、槙島くんみたいに、サイコパスから犯罪係数が測れない存在を一部じゃぁ免罪体質なんて呼んでいる。」 『・・・・・・免罪体質』 「だからね、あの女や、凡人達から引き離す必要があった。 じゃぁ、簡単に説明するよ、菖蒲なら理解できるだろうからね」 ・ ・ ・ ・ 『・・・・つまり、私にシビュラの一部として生きろということ?』 「物わかりがよくて助かるよ」 酷い話だ あの人たちが信じているものがこんなものだなんて 私を拒絶したものがこんなものだなんて 「まぁ、そういうことだったから。知識を得るための本と一緒に隔離して シビュラの届かないところで安全にある年齢まで過ごしてもらおうと思っていたんだが 純粋培養とはいかないにしても、同じ免罪体質の槙島くんに拾われたのが救いだな。 まぁ、あんなところにいる子供を連れて帰るような人間は、どこか違うんだろうが」 なら、私はシビュラの素材として・・・? 「生まれたときに、僕の免罪体質を引き継いだことが運が良かったか悪かったか 菖蒲にとっては、どっちかな?」 『・・・・』 「シビュラには、同じ存在は必要ない。特殊な考え方や育ち方 そのバリエーションが多い方が情報量も増える。僕も目を付けられていたが なんだかんだでここまで、この身体を有することになった。」 『私で取引をしたんでしょう?』 「正確にいえば、菖蒲だけじゃないがな」 『・・・・・・・・・』 「今頃、槙島くんも外科的な手術を済ませているんじゃないかな」 そんなはずがない 聖護がそれを受け入れるとは思えない 「一応、聞くよ。その身体じゃぁ、もう1か月も生きられない 1か月・・・いや、数日?さっき薬を使ったから、時間の問題か」 シビュラとして生きる・・・? 生きるの? それを生きるというの? いくら自己を保てても それは、生きているなんていえない 縛られて生かされているだけじゃないか それも、終わりが見えないなんて そんなこと 「生きる選択ができるんだ、嬉しいことだろう?」 嬉しい? 違う 私は、そんなの望まない そんな冷え切った世界になんて行きたくない 「菖蒲が生まれた価値は、シビュラの一員になってこそだと思うんだけどな。 いずれ僕もときが来れば同じになるさ。今は、まだ研究員として仕事をしているけどね」 『・・・・・・』 ・・・・・・・・・・・・私は、シビュラの一員になるために生まれたの? シビュラのために生きてきたの? 違う・・・違う、そんなはず・・・・・ 「菖蒲」 違う、違う 私は、菖蒲じゃない・・・ 私には名前なんてない・・・ 関係の切れた今じゃぁ、新零でもない 私は私であるために 生きてきたのに こんなの受け入れられない それなら、いっそのこと死んでしまった方がいい 拳銃で脳を潰してしまえば、使われることもない ・・・結局、何もできていない 「槙島くんになら、向こうで会えるさ」 『・・・・・・』 聖護は、おそらく生きている そんな気がする いつも言われていた動物的な直感だろうか ・・・まだ、間に合う? こんな身体で? ←→ 目次 |