31 「新零、着いたよ」 『?』 眠ってしまわないように 呼ばれるたびに返事をして 聖護に名前を呼ばれるたびに 自分が、ちゃんと私としていたのだ 彼の目には、私は、誰でもない誰かではなく “新零”という一個人で・・・ 『ここ・・・』 「中は、昔のままだ」 『・・・なんで』 立ち入り禁止のテープなど なかったかのように奥へと入っていく 白い床の中 一部だけが、少しだけ道の様に床の色が見えていた 「ここなら、わかるだろう」 『・・・?』 顔を持ち上げて 聖護の顔を見上げる 整った顔がちらりとこちらを見た 少しだけ口角を上げ 階段に足をかけた 見慣れた景色 私の檻籠 この男が連れ出すまで ずっと ここで独りだった 独りぼっちだった 誰もいない ここは、すごく寒くて 何もない 見たくない 『嫌』 また、少し笑って奥へと進む 「これらは、すべて君への餌だった」 『・・・・・・』 「見たくもないかな」 『・・・・・・意地悪』 「なら、君の代わりに」 そう言って、私を左腕に抱え 右足を振り上げて本棚を横へと倒す 白く舞う積もった埃など気にせずに 全て蹴り倒していく 本の落ちる音 本棚の倒れる音 舞う埃 開けられた窓から入る風に さらに巻き上げられ やがて気にならないほどに落ち着いて行った 「新零」 『・・・・・・・・・あ、ありがとう?』 「どういたしまして」 『・・・そういえば、思い出したわ』 「何をだい?」 『ヘルメットで殴られた貴方、すごく間抜けでかっこ悪かった』 「・・・・・・・・・・」 『今のは、かっこよかったわ。汚名返上ね』 「それは、どうも」 振り落とされないように首に回していた手を 聖護の後頭部へ持って行った 『痛い?』 「・・・もう、思い出させないでくれないか?」 『あら、貴方だって、私に思い出させてるのだから、お互い様だわ』 「・・・・僕にとっては、君に出会った場所だ」 『・・・・・・・・・そうね』 「痛いだろうが、足の手当をしようか、いいかな?」 『平気、さっきから痛みなんて感じてない』 「・・・そうか」 さらに奥へと進めば、私がいた時とそのままの場所があった 降ろされた場所は、あの時のベッドだ だが、シーツは新しいものに取り換えられ古めかしさも 埃っぽさもない 前とどこが違うかと言えば テーブルに置かれた花瓶と花だろうか 前は、こんなものなかった 本物だろうか? ベットに腰掛けた私に跪くように手当を始めた聖護が 「生花だよ」と、落ち着いた声でつぶやいた 手を伸ばして彼の頬に触れれば酷く熱く感じた ←→ 目次 |