32 死ぬことは怖い 1人は淋しい 人の体温は、これほどに温かいものだった 触れている指先から、彼が生きているのだとわかる 「どうかしたのか?」と顔を上げた聖護と目があった 『・・・もう、会えないと思っていたの』 「あぁ・・・僕もそうだ。嬉しいよ新零、君は最後まで僕の期待を裏切らなかった」 『あら、裏切りたかったのだけど?』 「思っていたより、元気そうだな」 『そうでもないわよ、手の冷たさわかるでしょう?』 「・・・そうだね」 『・・・ねぇ、私が、死んだら・・・淋しい?』 「・・・・・・・・・・」 ふっと笑った聖護が伸ばしていた手に触れた 『最期くらい返事をくれてもいいでしょう?』 本当は聞きたいことがたくさんある 今、私のことをどう見ているのか その顔は、他の人にも見せているのか 私は、この物語を最後まで読むことができない 読み始めた物語の中で死ぬのだ この人の最期を見ることはできない できるかもしれないけれど その選択はしない どうして?と聞かれても上手く答えられないが それでも、なんとなく邪魔をしてはいけないような気がするのだ 「答える前に1つだけ聞きたいことがある」 『?』 「今、僕に何か言いたいことはあるかな」 『質問ではなくてということかしら?』 「あぁ」 『・・・・・・』 「あまり時間がない、1つだけ」 『・・・1つだけ』 1つだけ 何か、言いたいこと 何か、してほしいこと 聴くことだけはできること 聖護の表情を読むことは難しい こちらを品定めするような、どう出てくるかを窺うような そして、それを楽しんでいるような もしかしたら、本当に何でもいいのかもしれない この数年、彼からもらったものは大きかった もらったものの価値と彼がいることの価値 ノナタワーの上で、私は何を思った なぜ無茶をしてでも逃げなかったのか・・・ 『行かないで』 そう、呟けば 彼は満足そうに口角を上げた ←→ 目次 |