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言った本人は、気づいていないのだろう
瞳が揺れていることも、声が震えていることも

寒さだけじゃない何かが
彼女をそうさせている

そっと頬に触れていた手をとり
その白い指先に唇で触れた

ピクリと反応を示す
彼女はその意味が分かっている

髪は思慕
首筋は執着


「・・・」

『・・・』

手を辿って、頬に触れ
顔を寄せた
まだ、何か言いたそうにしているが
それを言ったところで何も変わらないと分かっているのだろう

「・・・淋しいよ、新零」

『・・・っ』

「君は、僕にそう思わせた」

額を付けて、目を閉じる
君の勝ちだ
そう告げれば

新零が小さく息を吸った

『置いていくのに?』

「君は、来ないのだろう?」

『えぇ、行かないわ』

「だから、僕に行くなと言った」

『そうね、でも』

「?」

『単に私は、貴方に死なないでほしいと思っただけだわ』

「僕が死ぬ?」

『特に深い意味はないの、そう思ったから、そう言った
 もちろん、淋しいから・・・1人も死ぬのも
 でも、もういいの。聖護が私の特別でいてくれるからいいの・・・っ』

「新零」

目を開けて少し距離を取れば
瞳に涙を溜め少し困ったように笑う彼女がいた

こんな顔もできたのか

数年前、ここで人形よろしく座っていたと言うのに・・・


新零は捨てたのではない、ここに置いて行くのだ

本も人も何もかも捨てられたのに
やはり彼女だけは捨てられなかった
切り捨てることもできなかった

シャツのポケットに入れた刃をちらりと見て
また、新零に視線を戻した

「そろそろ、行くよ」

『そう』

「もし、動けるようなら
 キャリーケースの中に服が入っているから着替えなよ」

『うん・・・・ありがとう、聖護』

「・・・新零」

『なぁに?』

「花言葉は知っているか?」

『・・・あまり詳しくはないわね。生花を見ることが、まずなかったもの』

「それもそうか」

花瓶に挿しておいたダイヤモンドリリーを1輪抜き取り
彼女の髪に挿した
不思議そうにしている新零に褒め言葉と花の名前を伝え

再び顔を寄せた
これが最期だ

額に口づけを落とし
名前を呼んだ



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