番外11 初めてダンナと新零を並べて見た時、この男と並べるのは彼女だけだと思っていたのに、こうも綺麗な人間がいるのかと、ため息が出た。精巧につくられた人形。いやもっと神聖な例えが似合うのかもしれない・・・そんな2人が何かしらをきっかけに出会ったのだから、世間とは狭いものだと思わずにはいられない。もともと新零の話は聞いてはいたが、この姿は予想していなかった。 「兄妹みたいですよ、本当」 『前に、親子って言われたわ』 「それは、おかしな話ですね」 『同じなのって髪色だけじゃない。瞳の色だって違うのに。そもそも、あの男について行こうなんて思う、女がいるのかしら?』 「それを貴女が言うんですか?」 『・・・異性として彼を選ぶ人がいるのかという話』 「それは失礼。しかしまぁ、貴女が娘だと紹介されたら少しは驚きますけど納得しますかね」 『・・・・』 「年相応に見えない容姿を考えれば、ダンナの若さゆえの過ちの産物と考えればいいだけですから」 『・・・・』 「もしかして、理解できてません?」 『わからなくもないわ』 難しそうな顔をしたまま抱えた膝の上に顎を乗せている。 『もし、親子だったら兄妹だったら聖護は小さいころから私の面倒を見てくれたのかしらね?』 「・・・どうでしょうね」 『・・・・・・家族の概念が私にはわからないから、何も想像できないの』 「かわいい妹なら、見てくれたかもしれませんよ」 『聖護にとっての、かわいい妹ってどんな子よ』 「新零みたいな子じゃないですか?」 『だったら、あの人は面倒なんて見ないわね。違う環境で育ったその子は、新零にはなれないもの』 「その、新零になるというのは、どういった意味で?」 『私として確立したうえで、聖護と出会った女の子という意味。別の境遇で育った私は、新零にはなれないわ。それは、新零ではなくて、きっと菖蒲なのよ』 「それはまた難しい話ですね」 『そう?』 「そうですよ」 薄く開けられていた瞳は閉じられて、長い睫少しだけ揺れた。新零は、彼女のようには笑わない。少なくとも自分の前では。ダンナに対しては、もっと多くの顔を見せているのだろうか? 「髪の毛、ぼさぼさじゃないですか」 『何よ今更』 再び開けられた瞳は不服そうにこちらを見た。いつものことだとでも言いたそうなところを見ると、綺麗に整っている時はダンナが梳いてやったのだろう。と、すればそこらにあるだろうと適当に引き出しを開ければ、中々味のある櫛が入っていた。 「触りますよ」と一声かけてから彼女の髪に櫛を入れた。なんとなく声をかけたものの新零の返事はなかったが嫌がるそぶりもないので、元に戻りつつあるそれを少しずつ梳かした。 『聖護も上手くやるのよ、それ』 「器用そうですからね」 『貴方も十分上手ね』 「お褒めに預かり光栄です」 『・・・・ねぇ、貴方にも家族がいるんでしょう?』 「・・・・・・」 『聖護は、そう言う話を一切しないから』 「そうですねぇ・・・まぁ、いました。が、正しいですが」 『そう・・・』 「貴女の場合、家族いるじゃないですか」 『・・・・確かに、父と母に当たる人物は生きているわ。でも、あれはきっと家族じゃない』 「貴女がそう思いたくないだけじゃないんです?」 『・・・・・』 「自分を研究材料として見ている父親と、自分を娘と思わない母親。それを貴女は、家族だと思いたくない・・・。勝手に描いた理想の家族に当てはまらない。だから、あの人たちは家族じゃない。そう自分で決めつけているように聞こえますよ」 『・・・・だったら何?』 「・・・・・」 『だったらいけないの?』 そっとこちらを振り返った新零は、少しだけ強がっているように見えた。自分から突き放している、拒絶しているのだと、そう言いたげだ。幼さゆえの感情は、まだ新零の中に残っているのかもしれない。戻れるのなら戻りたい、それが不可能なことだと分かっていても描いてしまった家族への憧れを捨てきれていない。・・・そんなことを思った。彼女の事をも理解しきれない自分が、新零のことを理解できるなどありえないことだと分かっている。 「いいや」 『・・・・・・貴方、たまに私に誰かを重ねるでしょう?』 「・・・・・」 『その誰かに、今と同じように髪を梳いたのね』 「・・・・」 『姉か妹か、それとも娘?』 「・・・・・俺に、子供はいませんよ」 『なら、妹ね・・・・。兄というのは、そんなに妹に左右されるものなの?』 「どうですかねぇ」 『・・・・・・・』 「・・・・・・・」 『その妹は、幸せね』 「・・・・どうして?」 『こんな風に実の兄に髪を梳いてもらえるんだから』 「・・・・そうですかね」 もっとやれと言わんばかりに背を向けた新零の髪に再び櫛を入れた。新零の言葉は、自分を励まそうとしただとか、発言に対してフォローを入れたわけではなく、ただ素直にそう思ったのだと言うことがわかる。そんな風に人と人の関係に気を使うような環境で育っていないのだ。人のご機嫌伺いなんて面倒なものはしない。 「彼女は、歌や舞が得意だったんですよ」 『・・・・・』 「・・・・・」 『・・・・・』 「・・・・・」 『私にどこか、似ているの?』 「それがびっくりするくらい全然似ていなくてね」 『・・・彼女の最期がどうだったのか聞いてもいいかしら。今後の参考にするわ』 「・・・またえげつないこと聞きますね。まぁ、貴女の参考にはなりませんよ」 『そう・・・』 それだけ言えば、わかったのか口を閉じた。 振動した端末を見ればダンナからの着信だった。そろそろ時間だっかと、新零を部屋に置いて指定の場所へ向かうことにした。手にしていた櫛をテーブルに置けば、座っていた新零が床に転がった。せっかくやったのにという思いもあったが、これが新零なのだから仕方がないと思った。・・・・・似ても似つかない新零に重ねた彼女の姿は知らないうちに見えなくなるようになった。急に現れた幼い少女に感化されて昔の記憶が引っ張りだされただけだったのかもしれない。 ←→ 目次 |