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「入間さん。独歩さん、本当いい人ですね」
「・・・昨日の検査はどうだったんですか」
「結果が出るのに時間がかかるみたいなので、また連絡を貰うことになってます」
「貴女は、どういう結果を望んでいるんですか?」
「従兄妹がいいですね。仮にですよ兄妹だったら気まずいじゃないですか。事情が事情ですし。でもとても良い人なので、少しでも縁があったら私は嬉しいです。・・・入間さん、不満そうですね」
「そんなつもりはありませんが?貴女の気のせいでしょう」
「私がシンジュクに行くのが不満なんですか?別にヨコハマを裏切ってるわけじゃないですよ」
「そんなことは思っていませんよ」
「可愛い部下が他人に取れた気分」
「思っていません」
「それはどっちを否定しました?」
「可愛い部下だとは思っていますよ」
「それは嬉しいことです・・・あ、もしかして名前ですか」
「さっきから何が言いたい」
「入間さんが何を不満に思っているのか知りたいだけです」
「・・・・・」
「銃兎さんの方がいいですか?」
「私は構いませんよ。むしろ部下の中で私を苗字で呼ぶのは貴女だけでしたからね」
「これは私が勝手に思ってたことですけど、私がここへ来た時にデスクにウサギのぬいぐるみを置いたり、ウサギ柄のハンカチや、万年筆を使ってるのを見て怪訝な顔していたので嫌なのかと思ってました。左馬刻さんに、ウサポリ呼ばわりされると怒ってましたし」
「それは馬鹿にしているからです。そもそも貴女がウサギを好きなことに不満があるわけでもありません。それが私を馬鹿にしているわけでもないこともわかっています。第一、両親に貰った名前を私は大切に思っています。だからどうぞ好きに呼んで頂いていいですよ」
「・・・・・・・」
「どうかしましたか?」
「では、銃兎さんって呼びますね」

急に声のトーンが落ちた。すぐに元に戻ったが、一瞬口角が下がったのを見てしまった身としては気になって仕方がない。自分で言ったことを思い出しながら、彼女が気にしそうなワードを探してみる。該当するとすれば“両親”くらいだろうか。

「銃兎さんも、私の幸運のウサギですね。ここへ来れて良かったです」
「私も、貴女のような仕事のできる方が来てくれて嬉しいですよ」

少しだけ寂しそうに笑ったのが気になった。
それから2週間後、椿めめと観音坂独歩が従兄妹関係にあることが鑑定結果によって明らかになったと彼女から報告があった。その報告を受けて、ほっとした自分がいた。


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