02
左馬刻の相手を椿がしていると聞いたのは、自分が署に戻ってすぐだった。自分が不在にしている間にあいつがしょっぴかれ、指名された自分の代わりに椿が役を名乗り出たらしい。何も起きていないといいがと、道中嫌な汗をかいた。
「椿、何を勝手なことをしているんですか!!」
「おいおい銃兎。いきなりデケェ声出してんじゃねぇぞ!めめが驚いてんだろ!!」
「2人ともうるさいですよ。こんな狭い場所で出す声量じゃないです」
「おい、めめ。お前、あんなウサポリと仕事してて疲れねぇのか?」
「入間さんは指導も適切で、良い上司です」
「はっ、その良い上司が俺とつるんでてもか」
「真っ白な人間が何かを成せるほど世の中綺麗じゃないと思ってます」
「ほう、言うじゃねぇか」
随分楽しそうにしている左馬刻と、全く動じていない椿を見て、ため息をつきたくなった。数分前の自分があほらしくなる。気に入られたな、こいつ。まぁ、自分が不在の時のつなぎとして彼女が使えるのはありがたい。
「椿、私が変わりますから、もう戻っていいですよ」
「わかりました。では、左馬刻さん失礼します」
「おう」
「・・・・・」
「こえー顔、おまわりさんの顔じゃねぇな」
「はぁー・・・」
「良い部下じゃねぇか」
「あぁ。随分と仲が良さそうだったな」
「・・・・・そんなことはどうでもいい。さっさとここから出せや」
最低限何があったくらいは聞いてやろうと思ったが、椿が残していったメモには必要事項がすでに書かれていた。この男が、彼女に話したのかと少し驚いていると、「ちんたらしてんじゃねぇ」とイラつき始めた左馬刻に急かされ、自分も機嫌が悪くなる。然るべきところへ連絡を入れて、扉を開けた。
「全然似てねぇくせに、思い出させやがった」と左馬刻がぼやいたのを聞いたが聞こえないふりをした。
「あ、入間さん」
「貴女、何も言われませんでしたか?」
「名乗る前にボロクソに言われましたよ?スラング?が多くてあんまり理解できてないですけど」
「・・・そうですか」
暴言に対して、きょとんとした椿を見て左馬刻は毒を抜かれたのだろう。「話し始めたら、そんなに悪い感じでもなかったので大丈夫ですよ」と何ということもなかったように彼女は笑った。共に仕事をするようになって、そこそこ時間が経ったが自分のやり方に対して彼女が何かを言ってくることはなかった。今もそうだ、左馬刻がやったことを知っていながら、あいつをどうしたのかとは聞いてこない。
「しかしまぁ、貴女が、そんな風に思っているとは知りませんでしたよ」と言葉を残して、メモを書いた際に忘れたのだろう万年筆を彼女の手に返してやった。
どれだけ巧みな相手であれ、椿の前ではボロを出しやすい。自分がどれだけ時間を掛けても何も出なかった相手が、休憩のために入れ替わった椿の前でボロを出してお縄になったことも何度かある。相手の性別に問わず、椿の前で油断してしまうのはわからなくもない。怯えた被害者を落ち着かせて情報を得ることも、興奮した相手の話を聞くことも彼女は長けている。見ている限り警察官でなくとも、彼女が活躍できる場はたくさんあるだろう。けれど、この職を選んだ理由を聞いたことは一度もない、聞かれたことも一度もない。
「銃兎さん、お疲れ様です。先日の件、また椿の手柄になりましたね」
「えぇ、我々がいくらやっても何の成果もあげられなかったというのに。たった15分でボロを出しましたからね」
「見習いたいところですが、あれは彼女でないと難しそうだ」
「そうですね。まぁ、それゆえに人質にされたこともありますからね。幸い怪我も軽く済みましたが」
「やっぱり、抜けてそうに見えるんですかね・・・わからなくもないですけど。正直、少しだけ心配で」
「そうですか?彼女は勝算が無ければ動かないタイプだと思っていますよ。むしろ安心して任せられる」
「そ、そうなんですか?!」
「そんなに驚くことでもないでしょう」
「・・・そうですか。俺、妹がいるんで少し重ねてるだけかもしれないですね」
「貴方もですか」
「あなたも?」
「いえ、こちらの話です。」
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