04
「めめちゃん、今度ごはん行こうよ」
「他には、誰が来るんですか?」
「俺は2人で行きたいけどなぁ」
「じゃあ、お断ります」
「えー?いいじゃん、たまには2人でも」
「全然よくないですよ。メンバー集まったら、また誘ってください!楽しみにしてますね」
「お待たせしてすみません。あぁ、取り込み中でしたか?」
「入間さん、早かったですね。もう終わったんですか?」
「それが、書類の不備がどうのこうのと理由を付けて受取を拒否されました。まったく、困ったものです。」
「面倒ごとは引き受けたくないんでしょうね」
「椿、いいんですか?そちらの彼は」
「あ、私は仕事に戻るので、機会があったらまた誘ってくださいね」
「あー・・・うん。わかった」
じーっと自分の方を見て来る視線が大変鬱陶しい。ここは署内で、自分は彼女の上司で、仕事の話をしているだけだ。当然のことをしているだけだというのに、何を恨めしく思っているのか勘違いも甚だしい。組対へ来る前の彼女と知り合っている輩は、椿めめを仕事に不真面目な奴だと思っており、自身と同類だと勘違いをしているらしい。署内でも年齢に関係なくやたらと話しかけられるが、仕事の話ではなく食事や遊びの誘いばかりだ。全てを断っているわけではなさそうだが、基準を聞いたことはない。
まぁ、まさか、彼らがしてきただろう彼女へのセクハラ、パワハラ、モラハラの一部始終が録音または録画でデータ保存されているとは夢にも思わないだろう。そして、そのデータを入間銃兎が持っていると思うはずもない。そういう自分も椿から、「上手く活用してください」と言って渡された時は驚き、随分と良質な情報提供にお礼を言った。それに、そこには彼女が意図していないだろう会話もご丁寧に録音がされていた。
「また、貴女がくれたアレが役立ちそうですね」
「それは、良かったです。存分にいじめてあげてください」
データの中身を確認したときは彼女のことを心底心配した。“本当にやばかったことは、一度もないですよ”と困ったように笑っていたが、よく耐えたなと褒めてやりたかった。だが、そのころには彼女がそういった言葉よりも、データを有効活用した方が喜ぶだろうことがわかるようになっていたため、遠慮なく目的のために使わせてもらっている。
「新作入ったらいりますか?」
「それは上司として相談に乗りますよ。貴女があのような目にあう必要は本来ありませんから」
「・・・・」
「何かおかしなことでも?」
「いえ」
「可愛い部下に手を出されて黙っているわけがないでしょう?」
「では、良い情報が偶然手に入ったら報告しますね」
「えぇ、それは是非。ただし無理はしないでください」
「はい!それは、もちろんですよ」
椿に信用を置ける1つの理由として、“無理をしない”という言葉を正しく理解しているというのがある。身体の限界を把握していることも、自分が傷つくことで家族や友人、知人が心配することをよくわかっているのだ。もしかすると、“無理”や“無茶”といったカードを使うべきところも、感覚的にわかっているのかもしれない。
「ところで、椿」
「なんでしょうか?」
「同じ署内で交際した人間はいますか?」
「いませんよ。全部断りました。ただしつこい人たちはいるんですけど、入間さんと歩くようになってから少し静かになったような気がします」
「効果があったようで、良かったですね」
「・・・ご存じでしたか」
「えぇ、毎度恨みったらしい視線を向けられることにも慣れましたから」
「すみません」
「謝罪は不要ですよ。負け犬の顔を見るのは嫌いじゃない」
「ありがとうございます」
彼女に寄ってくる男が減っていくことに悦を感じていたことは心の内にしまっておくことにした。
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