05
「入間さんとランチに行くのも久しぶりでしたね。最近、缶詰め状態で昼間の外の空気を久しぶりに吸った気がします」
「デスクワークばかり任せてすみませんね」
「いえいえ、それが仕事ですし。現場の方がつらいのはよくわかってますから。あ、今度時間が合ったら、同じ店がいいです」
「気に入りましたか?」
「頼んでみたいメニューがいくつかあったので、攻略しておきたいです・・・・あれ?」
「ん?」
「入間さん、たぶん向こうが話しかけて来ると思うので、状況を見て一応退路を塞いでもらえますか?あいつ…」
急にそんなことを言う椿の視線の先に、1人の男がいた。誰だかわからないが、椿には心当たりがあるらしい。軽く返事をして、彼女に合わせることにした。軽く腕に触れて来たということは、そういう設定らしい。無難でよく使う手ではある。彼女に身を寄せて、崩れた髪を直す振りをしながら彼女が言いかけた言葉を拾った。
「もしかして、めめか?!」
「やっぱ、そうだよね!!あっきー久しぶりじゃん。えー、何、結局、田舎捨てたの?」
「捨ててねぇし、色々あって今は出てきてるだけだよ。お前、あんま変わってねぇな」
「そういうそっちは超痩せてて、声聞かなきゃわかんなかったじゃん」
「めめの知り合いですか?」
「はい、高校の時の同級生です。あの、少しだけ話しても」
「いいですよ。先に車に戻ってますね」
「ありがとうございます!」
「おいおい、今のまさか」
「彼氏」
「超ハイスペックじゃん。うわぁやべぇー」
「だから言ったじゃん、あっきーは全然私のタイプじゃないって」
「それ言われると何も返せねぇー。え、めめは今何の仕事してんの?」
「彼氏の事務所のOL」
「へぇー、彼、何の仕事してんの?」
「税理士さん」
「また手堅いところを捕まえやがったな」
「そういう言い方しないでよ」
「わりぃわりぃ。じゃあ俺、約束があるから行くわ。久しぶりに会えて良かったぜ」
「うん、じゃあね」
椿の会話を聞きながら、先ほどの男の特徴を部下に連絡し指示を出す。ここで捕まえるよりは、現場を抑えた方がいい。戻ってきた椿と打ち合わせをして、男の様子を見ながら私服警官の尾行が追い付くのを待ち、停めていた車に乗り込んだ。
「なぜ、あの男が売人だとわかった」
「売人名簿を見て、1人だけですけど並び変えたら同級生の名前だなって。そしたら、随分痩せていたので間違いないなって。あれは本人もやってるパターンですね」
「よくやった。しかし、同級生の顔と名前なんてよく覚えてましたね」
「田舎の高校だと人数も都会ほど多くないですし、自分に告白してきた男子くらいはさすがに覚えてますよ」
「・・・・・恨まれていたら危なかったとは思いませんか」
「さすがに高校生の時の話ですよ?それはないと思います。そこまで執着されたわけでもなかったですし」
彼女の言うことは最もだ。可能性としてはかなり低い。それでも、それでもだ・・・舌打ちでもしそうになったところで連絡が入った。
「現場を無事に押さえた。私たちは先に署に戻りますよ」
「了解です」
「今回の件は、ひとまず別の者に任せます」
「あれ、いいんですか?ブタ箱でいじめなくて」
「・・・・今回は、貴女が巻き沿いになる可能性があるので様子を見てからにします」
「お気遣いありがとうございます」
「本当、お薬って怖いですね」と、車の天井へ視線を向け彼女がぽつりと呟いた。級友が手を染めているとは思いたくなかったのだろう。
「あの時、仲が良かった連中も少し危ないかもしれませんね。ちょっと母に聞いておきます」
「危ない橋は1人で渡らないでくださいよ」
「何かあればすぐに入間さんに報告します」
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