06
「左馬刻さん、お久しぶりです」
「おー・・・って、んでテメェまでいやがんだ。おい、銃兎」
「私が理鶯と友達だからですよ。入間さんが行くと聞いたので、久しぶりに会いたくて」
「銃兎、テメェわかってんのか」
「あぁ、こいつが譲らなくてな」
椿がいることに不満があるわけではなく、理鶯の作る食事を椿に食わせるつもりかという意味で左馬刻は自分に苛立ちをぶつけてきている。もちろん、彼女には説明したが「大丈夫ですよ」とケロリとしていたから、慣れているのかもしれない。
「左馬刻さん、助手席座るなら変わりますよ?」
「後ろでいい。てめぇはそこ座っとけ」
「椿、灰皿を後ろに回してくれ」
「了解です。どうぞ、左馬刻さん」
「おう」
「そうだ、椿。貴女はどこで理鶯と?」
「うちの実家が牧場やってるって話したじゃないですか」
「えぇ」
「うちで働いてる人達って元軍人だったり警察官だった人が少なからずいるんです。家系的にもそういった職に就いていた人が多くて。私の兄も元海軍所属だったので、理鶯の上官だったことがあるんです。だから、そのよしみで解散後に牧場の手伝いに来てくれたことがあったんです。私もそのころに丁度実家に戻っていて」
「そうでしたか。なら家族ぐるみで理鶯とは仲が良いんですね」
「そうですね」
「1つ聞いても?」
「なんですか?」
「貴女、あの混乱期に実家に帰ってたんですか?」
「2週間ですよ。上にもちゃんと許可はもらいました。それに、それからは入間さんのところで一生懸命仕事してたじゃないですか。そんなに睨まないでくださいよ」
あの大混乱の忙しい年に実家に帰っていたことが信じられなかった。確かにそれまで彼女が最前線とは遠い仕事をして、いやしていなかったのかもしれないが一体誰が許可したんだ。
「入間さんの部下である間は、もう2週間もお休み貰えなさそうですね」
「当然です」
「新婚旅行にも行けませんね」
「し、新婚旅行ですか?・・・まぁ、それくらいは考えますが」
「何、動揺してやがんだ?」
「うるせぇな」
身体を起こした左馬刻が助手席側に腕を回して右手に持っていた煙草を灰皿に押し付けながら、左手で椿の頭を撫でた。視線は自分の方へとからかう様に向けられていた。
「左馬刻さんって、妹さんいますか?」
「・・・・・・・・おう」
「私、3人兄がいるんですけど皆、同じように頭を撫でるんですよ。もういい歳なんですけどね」
「実の兄ですか?」
「違いますよ。血の繋がりがないのは私だけなんで。O型なの、私だけなんですよね」
「まさか、自分で気づいたんですか?」
「もちろん高校に入るくらいの時に、両親が教えてくれましたよ。でも小学生のころには気づいちゃったんですよね。課題で血液型について調べて来いみたいなのがあって、調べてるうちにおかしいなって。それに、なんとなく実の母に置き去りにされた時のこと覚えてるんですよ。1歳くらいの時のことなんて覚えてないのが普通じゃないですか。だから、あれは夢なんだくらいに思ってたんですけどね。まぁ事実だったわけです」
「・・・・不便は、なかったのかよ」
「何も。今思えばびっくりするくらい。左馬刻さんも手、大きいですね」
「・・・・・」
「入間さん・・・私、地雷踏みました?」
「気にしなくて大丈夫です。それより、さっさと頭に乗っている手を払いなさい」
遠慮気味に左馬刻の手を下ろしたのを見届け、信号が青になったのを確認してアクセルを踏んだ。
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