08

「明翠...寝てしまいましたか?」

『.........』

寝たふりをして、その場をやりすごすつもりだった。部屋には結界が張られ外には的場の式がふらふらとしているせいか、昼間の疲労と相まって酷く体が重たく感じ、膝を抱え、肩にかけていたシーツを深く頭にかけた。

部屋にそっと入ってきた的場が、すぐ傍に来る音が聞こえる。目を開けるわけにはいかず、被ったままのシーツが不自然に動かないようにじっとしていた。

「さっき、貴女の姿を見たという噂を聞いたと言って、片桐さんから連絡がありました。無事なのかと、とても心配していましたよ。すぐにこちらに戻ると言っていましたが、会える状態ではないと伝えたうえで、いずれ連絡させると言っておきました」

柚晴が・・・?

「4年前、貴女が消えた時、彼女は目を腫らして私のところに来ました。明翠は無事なのかと胸元を掴まれて揺すられた。貴女の友人も、貴女が救ってきた人たちも貴女の帰りを待っています。それを忘れないでください」

『...的場』

被っていたシーツから思わず顔を出した

「やはり、起きていましたか」

『柚晴は、元気にしてるの?』

「していますよ」

『...そう、なら良かった』

「明翠」

『何?』

「私が助けた事、怒っていますか」

『.........』

「夏目貴志の言葉を聞いて、私は貴女を生かす選択を取りました」

『怒ってなんかいないわ』

「そうですか。...その言葉を聞いて安心しました」

『本当は初めに言うべきだった......今からでも遅くない?』

「何を?」

『助けてくれて、ありがとう。的場』

「......おれも、最初に言うべきだった」

『......』

「お帰りなさい、明翠。貴女が無事で本当に良かった」

『......っ』

「貴女のいない4年間、おれの周りも色々と変わったんです。あの時と同じもの、変わったもの、自分では分からない変化が明翠にとっては違う人物に見せるかもしれない。それでも、私は的場静司という貴女の記憶の中にいるおれと同じです。...人の4年はそれだけの時間だ」

『......』

ふいに抱き寄せられてバランスを崩した
私の知っている的場の匂いに、ふっと肩の力が抜けるのがわかる

『......?』

「もっとおれのことを頼ってください」

『...的場』

「この4年、おれがどんな思いだったかも知らないで、もう、あんな思いはしたくない」

『......』

「......」

『的場?』

お酒臭い
4年経って、22歳...
どこかふわふわとしているのに、切なくなるような声色にどうしていいのかわからない。少し体温の高い身体に抱き込まれ、頭部に擦り寄り肩口に的場の頭がふれた。

「1年、2年経って、明翠は死んだのだと言い聞かせるようになった。普通に考えたら生存率は0、期待するだけ無駄なのだとわかっていても、それができなかった。自分の中でけじめをつけるつもりで、妖を探し追い詰めて、消すつもりだった」

『......』

「もしあの時...」

その続きは言葉になることはなく、背にまわっていた手が強くシーツを握ったのがわかる

もし、彼がいなかったら、自分は私を殺していた
きっとそう続いていたのだろう

...こんな的場は見たことがない
弱音なんて聞いたことがなかった
いつもどこか強気で余裕そうな顔をして
何を考えているのかわからない、そんな幼馴染だったのに

「.........」

急に重みのかかった身体に、まさかと思って体勢を変えて覗きこめば目を閉じていた
微かに聞こえる寝息に、この酔っぱらいがと肩を落とした


翌朝、私の借りている部屋の布団で目を覚ました彼が、部屋にいない私を探して縁側へやってきた。姿を確認して安心したのか、息を吐いてまたこちらを見てから、気まずそうな顔で、ぐしゃぐしゃのままの髪をかきあげた。

「昨日は失礼しました」

『いきなり来て、言いたいこと言って寝るなんて』

「昨夜はどこで」

『別の部屋、起こしても起きてくれないから家の人にお願いしたわ』

「そうですか」

『ねぇ、的場』

「なんですか...」

『二日酔いなら部屋戻って寝てたら?』

「よくわかりましたね」

『見るからに体調悪そう』

「そっくりそのまま明翠に返します」

『今日、仕事は?』

「幸い、出かけの用件はありませんが、貴女の見張りのため部屋に行くことはできません」

『逃げないわ』

「どうだか」

『なら、さっきの続き』

「続き?」

『この4年間で何があったのか教えてください』

「椿のことですか?」

『的場のこと』

「......」

『的場静司のこと』

「まずは己からということか」

『この4年間を埋めるためには、それがいいと思って』

「そうですね、わかりました。少し長くなりますよ」

『いいの?』

「構いません」

『ならまず、一人称はおれで、敬語は半分くらいに減らすところから』

「今更おれと言うのも」

『昨日、おれって言ってたのは、どこの誰よ』

驚いた顔をして、片手で顔を覆った。札のせいで一切顔が見えない

「どこから話しましょうか」

『減点1』

「...手厳しいな」

隣に座っている的場の横顔を眺めているとふいに目が合った
怖くなかった
なんだ平気じゃないか


ALICE+