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肉や魚は無理だが。野菜と水分は比較的戻さずに胃にとどめることができるようになった
あの日、いつもよりもたくさん的場と話をして、空きすぎた溝が埋まって行くのを感じた。
それでもまだ、私と的場の間には人が2人座れるスペースが出来てしまったように思う。
彼は、私を助けたことを気にしていた。昔から私のことを気にかけてくれていた。わかっていた、それが幼馴染だからだけでないことも...
そんなことをぼんやりと考える余裕が出てきた
魘されて眠れない日もあるとはいえ、鏡を見ることもできるようになった
“明翠は力があるからこうして生きて戻って来れた”
“他人のためにと言うが、その力を自分に使ったって誰も咎めたりしない”
“だから、明翠が今までの努力を蔑む必要なんてどこにもない”
昨日、的場はそう言って長期の仕事に向かった。
部屋の周りをうろついていた式たちも姿を消したせいか、拍子抜けするほど静かになった
なぜ式を片付けて行ったのだろうか、とその時、不思議に思ったのだが今日になって、その理由を知ることになった。
「久しぶりだな、明翠」
『七瀬さん...お久しぶりです』
「あらかた的場から聞いている」
『そ、そうでしたか』
「そう、気構えなくてもいいだろう?」
『.........』
昔から、七瀬さんにはお世話になっていたけれど、どこか苦手だった。嫌いというのとは違う。女性でありながら男の多い門下の者を指揮する様子に凛としたかっこよさを感じ、子供ながらに憧れているところがあった。だから、苦手というよりも緊張するというのが正しいのかもしれない。
的場め、教えてくれればいいのに
「よく戻って来たよ。まったく、的場が連れ帰ったときは冗談かと思った」
『.........』
「辛かったろう?頑張ったな、明翠」
鼻の奥がつんとした
涙は出ないけれど、その言葉が欲しかったわけじゃないけれど
強がっていた部分をほどかれるような感覚
しょうのない奴だなと肩を落として笑って頭を撫でる七瀬さんに、
幼いころに母がくれた安心感のような心地よさを感じて
しばらく、そのまま甘えてしまった
「一門の者を抑えておくのにもそろそろ限界だ。的場は上手くやっていると思うが、それでも明翠が本当に戻って来たことを示さなければならない」
『はい、わかっています。近いうちに会合に参加するつもりです。それまでに身の振り方を決めようと』
「的場一門に入る以外にあるのかい?他に当てがあるとは思えないが」
『そうなんですけど。いつまでも、ここに居座るわけにもいかないですし。どうやって生活していくかも』
「ふっ...そんなこと気にする必要ないだろう?的場のところにいればいいし、本人もそれ以外の選択肢は認めないだろうな」
『..........』
「前回の会合で、明翠について聞かれた的場が何て答えたか知りたいかい?」
『?』
「明翠は的場一門ではなく、的場家に席を置きます。どこにも渡すつもりはありません。そう、言って笑っていたよ。あれは、独占欲の塊だな」
『.........』
「迷惑だなんて余計なことは考えなくていい、私もそれが1番良いと思うが?」
『そう、ですね』
「相変わらずだな。まぁ、状況が状況だ。今はゆっくり休めばいい、大きな会合もしばらく先になることだしな」
『はい、ありがとうございます』
「あぁ、言い忘れていたが、的場が不在の間。私がここに居ることになったから、しばらく頼むよ」
そう言い残して、私のいる部屋を出て行った七瀬さんに、うんともすんとも言えず茫然と壁を眺めていた
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