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気温がぐっと下がって、雪がちらつくような寒い日がやってくるようになった。そう言えば、ファミレスの帰りに随分と強気なことを自分で言ったなと帰り道に思った。それを思い出したのも、あれから少し経っても電話が来ることはなかったからだ。嫌われたのかと思ったけれど、前よりもクラスで椿と関わることは増えたように感じる。掃除中に遊んでいた男子に一括したせいか、やや男子から恐れられるようになったと椿が楽しそうに愚痴って来たり、男手が欲しい時にまっさきに声をかけられる。・・・友人にパシリにされていると言われたが、本人はその気はないのだろう。信用ならない男子は頼らないということだとなんとなくわかった。

「あ、赤葦?」そう、不安そうにかかってきた電話に1コールで出た自分を笑うしかない。向こうも少し驚いているのが分かる。夕飯の誘い。母には申し訳ないと思いながら、断りを入れて家を出た。再びかかってきた電話に落ち着いて出れば、席が取れたから着いたら連絡してとのことだった。

「久しぶり」
「ほぼ毎日会ってると思うけど?」
「じゃぁ、私服の赤葦久しぶり」
「・・・・」
「連絡待ってたの?」
「え?」
「電話出るの早くて驚いたんだけど」
「ちょうど触ってただけ」
「そうですか。まぁ、うちのお姉さまが、彼氏と別れて珍しく次までに時間がかかったのでね」

当然の様にテーブルに置かれている緑の液体に視線を持って行きながら、そういうことかと納得する。メニューを見て、ファミレスとあまり金額も変わらずに、それなりの量が食べれることに気づいた。男子高校生の胃を知っての事かどうかは、わからないがありがたい。

「今日は、クリームソーダだった」と視線に気づいた椿が言った。濁っているのはそのせいかと既にないクリーム部分の残骸を見た。前回よりも、服装も気合が入っており、化粧もある。どこかの服屋の袋もあるので買い物帰りなのだろう。自分にあった化粧を知っているのか、濃すぎない自然さにも関わらず、少しだけ大人っぽく見えるのが不思議だ。女は化けると言うのは良い意味でも悪い意味でも事実だと思う。

「この前の練習試合、見に行ったよ」
「っんぐ・・げほっ・・・・」
「ちょっと赤葦?!」

慌てて差し出された水を受け取って、詰まったそれを押し流す。椿が来るなんて聞いていない。そもそも、なぜ試合があったことを知っているのかと思ったものの、すぐに木兎さんかと気づき息を整える。練習試合とはいえ、見られていたことを思うと少しだけ焦る。おめでとうの後に続いた言葉は褒め言葉と共に指摘もついて来た。嫌に思わないのは、その通りだったからだ。偉そう?と最後に付けられた言葉を否定しておいた。

「赤葦、このままいくと、完全に世話役になるよ。今なら、まだ戻れる」
「いや、無理だと思う」
「いいの?」
「次の主将、木兎さんだろうし・・・まだ正式には言われてないけど」
「副主将?」
「まぁ、そんな感じ」
「・・・・同情すればいい?」
「応援の方がいいかな」
「がんばれ」

そっけないなと思いつつも、それでいいかと思う。「ソフトクリーム作れるなら大丈夫」と言いながら自分より後に運ばれてきた料理に目を光らせるのだから、先輩のマネージャーと上手くやれるんじゃないかと思った。あまり、彼女から弓道の話を聞くことは少ない。こうして会うと必ず男女の関係についての話になるのは、なぜだろうか?

「また、弓道場行ってもいい?」
「・・そういえば、前に来てたね・・・来るならそう言ってほしい。まぁ、あいつに無理やり連れてこられたんだろうし、別にいいけど、見るならちゃんと道場に上がってきてね」
「この前みたいに?」
「うん。あいついなくてもいいよ。覗き見だけは、許さないけど」
「・・・気づいてるんだ」
「知ってたの?」
「体育館出た時に、たまに窓から覗いてる人がいるのは見えた」
「本当、あーいうの気持ち悪いからやめてほしい」
「それだけ見たいと思わせる方がすごいと思うけど」
「・・・・・別に誰かに見せるために弓道やってるわけじゃない」

木兎さんが自慢げに話しているのを聞いただけではあるが、高校1年目の夏の時点でなかなか良い成績を収めているらしい。公式戦を見に行きたいなどと言えば来るなと言われることを予想して言わずに置いたが、1人あの道場での姿を見たら公式戦よりも、あの姿をもう一度見たいと思った。できることなら、木兎さんのいない時にと。

食事が終わって椿がデザートを食べ終えたころに彼女の姉からメールが届いた。家まで彼女を送り届けてからの帰り道、前に見せてもらった見覚えのある男とすれ違った。おそらく間違いではない、隣を歩いていた女子は椿が言っていたようなかわいらしいふんわりとした子だった。ただ、男の勘としては、彼女が男の方に告白したのだろうと、その関係の一方通行に息を吐いた。



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