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バレンタインシーズン到来である。今まで本命に渡したということはあるとはいえ、本命とはわからないように誤魔化して渡した気がする。父親と、くれとうるさい光太郎と・・・悩んだ自分は馬鹿だと思う。自覚がないわけじゃない。でも、考えすぎだと頭を振って手にしようとしたそれをもう一度棚に戻した。

「話を聞いてくれる、お礼ってことならいいかな」

騒がれたくないから、どのタイミングで呼びだしたらいいのかと頭を悩ませる。教室でもだめだ、バレー部もだめ。光太郎にばれるのが一番広まるスピードが速い。・・・また、食事に誘うか。当日はずらそう、別の日にしようと、どれにするかよりも、そのことを考えることに時間を割いた。
当日になって、一応持ってきてしまったそれを上手く誤魔化すように荷物で隠した。光太郎には昨日のうちに、そのまま持って行ったから学校で渡す必要はない。もし、何か良い機会があれば・・・と思っただけだが、すでに部活終わりの時間なので別の日に改めようと思う。
今日も、光太郎に家まで送ってもらう約束をしている。私が決めたことというよりも、こればっかりは親同士が決めたもので、私の意見はどこにもない。光太郎も迷惑などと思わず了承したこともあって、帰りが暗くなる冬の間だけ送ってもらうことになったのだ。自主練の時間に合わせるためにこうして、残って少しだけ遅くまで弓道場にこもる。前に、時間に気づけなかったので目覚まし時計をかけるようにすることにしたのだが、気づかないことも多い。

「木兎さん、先生に呼ばれたから遅くなるって」
「・・・・・・・」
「椿、聞いてる?」
「・・・・・・・」
「新零、聞いてる?」
「・・・・ん?」
「だから、木兎さん遅くなるから」
「え、あぁ・・・ありがと」

鳴りっぱなしになっていた目覚まし時計を赤葦が止め、弓道場が静かになった。遅くなるとはいえ、先に着替えておこうと片づけを始めた。赤葦は、そのまま道場内にいて、なんとなく見られているような気がした。・・・渡してしまおうか?後日より、光太郎のいない今がちょうどいいような気がする。

「体育館の方で待ってた方が近いと思うし移動、」
「赤葦ちょっとストップ」
「ん?」

振り返った赤葦に少しだけドキリとした。そこから目を離して、鞄の中から、ラッピングされたそれを取りだしたころには赤葦は身体ごとこちらを見ていた。

「これ、今までのお礼ということで、お受け取りください」
「・・・俺に?」
「うん」
「・・・・・」
「もともと赤葦に渡すつもりだったやつだから。不信がらなくてもちゃんと」
「これ、木兎さんにも渡した?」
「あいつは毎年上げないとうるさいから・・・でも、中身はあいつと、お父さんのとは違うやつ」
「俺だけ?」
「ん?」
「いや・・・なんでもない。ありがとう」
「うん、あ、市販のやつだから、安心して食べてください」
「・・・・・・」
「他の子からも貰ってるでしょ」
「・・・・まぁ」
「女子がみんな手作りで渡してくると思ったら大間違いだから」

少しだけ目を伏せた赤葦の口角が上がるのが分かった。身長差から自然と覗きこむ形になるけれど、それを確認した瞬間に、なんだか急に恥ずかしくなって巻いていたマフラーに顔を埋めて視線を落とした。赤葦も黙ってしまったので体育館の方へ向かおうと荷物に手をかけた時だった、ガコンと音がして道場内の照明が落ちた。



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