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お礼だからと言われても、嬉しいというのが正直なところだ。木兎さんが貰っていることは知っていた。手作りだとか市販だとかは、どうだっていい。他にも渡したのかと聞こうとしてやめた。どちらでもいい、今自分が受け取ったことが嬉しいのだから、それでいい。あの人が意外にもらっていることに驚いたが、木葉さんたち曰く、何でも嬉しそうに受け取るからという理由でくれる女子が多いらしい。仮にもエースという人間なだけはあるのだろう。

「・・・・・」
「・・・・・」

声をかけようと、視線を上げたところで、椿の顔が赤いことに気づいて開けた口を閉じた。そういう態度は人に期待させるからやめてほしいなんて言えない。こんな椿は電車の時以来だろうか?熱を持ち始めた耳を見られたくないが避けようがない、さっさと道場の外に出てしまおうと再び声をかけようとした時だった。ガコンと音がして照明が落ちた。近くで息を吸う音が聞こえて、とんと身体に小さな振動が伝わった。

「わりぃ!!間違えて切っちまった!!新零、呼び出し終わったから、帰るぞー!!」

また、音がして少しずつ照明がついた。自分に伝わった振動が誰によるものなのかなんていうのはわかる。人の体温が傍にあるのだ。なんとなく彼女の頭の上に置いてしまった手を退けて、大丈夫かと聞けば返事はなかった。

「おー、赤葦もいたのかって、新零は?」
「ここに居ますよ。脅かしてどうするんですか!!」
「わりぃわりぃ。赤葦、」
「何ですか」
「ラッキースケベってやつだな」
「違いますよ、大体誰のせいだと思ってるんですか!」

肩にぽんと置かれた手を払って椿の方を振り返る。殺気立った目が木兎さんに向けられていた。悪い悪いと謝りながら、わしゃわしゃと彼女の頭を撫でれば、さらに殺気立った目が木兎さんに向けられた。

「ほら、帰るぞ」
「・・・・・」
「ほら、新零泣くな」
「泣いてない!!馬鹿じゃないの!!もう何回目だと思ってんの?!」
「昔から暗い部屋とか廊下とか嫌いだもんなお前」
「うるさい!!わかってるなら、やるな」

ぎゃぁぎゃぁとうるさい2人の喧嘩はいつ終わるのかと眺めていたけれど終わりそうにないので、声をかければ椿が謝って来た。謝られるようなことはされていない、むしろ・・・。そう思いつつ、切りがないからと急かすように道場を出て帰路についた。こうやって3人で校門を出るのは初めてかもしれないが、右に木兎さん左に椿というのは、正直勘弁してほしかった。

「あんたら、少し黙ってください」
「「ご、ごめんなさい」」
「・・・・・」
「光太郎のせいで、赤葦に怒られた」
「あ゛?!お前がうるさいからだろーが!!」
「もとはと言えば!!」
「黙れって言いましたよね」

急に静かになった両側の様子を見れば、2人そろって顔をそむけていた。仲がいいんだか悪いんだかわからない。おそらく、黙ってられないだろう木兎さんが先に口を開くだろうと予想しつつ、寒空を見上げた。来月のお返しはどうしようか、椿が何を好きかというのは知らないし木兎さんを当てにするのも癪だ。そんなことを考えつつ足を前に出す。椿のペースに合せているのは自分だけでなく木兎さんもで、自分たちだけでなく、ここに椿がいるのだという感覚に慣れない。

「赤葦は、新零から貰ったのかっ、痛ってえぇええ!!!!」
「光太郎は、余計なこと言わなくていい」
「・・・・・」

振り返れば、椿が木兎さんに蹴りを決めている。本当に、仲がいいんだか悪いんだか。

「もらいましたよ。ね、椿」
「・・・・何で言うわけ?」
「やっぱりなー!!そうだろうと思って、俺は空気を読んだってーいうのによー。新零ちゃんは、俺が電気消したぐらいで怒りやがって」
「「・・・・・」」
「木兎さんが、空気読んだんですか」
「ありえない、何それ気持ち悪い」
「なんで、そうなんだよっ!!」
「でも、先生に呼ばれたのは本当でしょう?俺いましたし」
「そこは、黙っとけよ赤葦っ!!」
「嘘か、びっくりさせないでよ」

部活終わりでも相変わらず疲れ知らずだなと感心しつつ、反対側を歩く椿の様子を盗み見た。マフラーに手袋に、今はされず、鞄に掛けられている耳当てからして寒がりなのだろう。正面を見たまま、少しだらりとしているのは疲れから来るものだろうか?

「じゃぁ、俺向こうなんで、また明日」
「うん、また明日」
「あ、そうだ赤葦っ!」

また明日と言えるのは、あと少しだろうか?来年も同じクラスになればいいのにと思って手を振ったのだが、木兎さんが何かを思い出して声を上げた。駆け寄ってきた木兎さんから渡されたソレを椿が見たかどうかはわからないが、何かしら思ってくれたらなんて都合のいいことを思う。これをくれた人には、悪いが直接渡さない貴女には興味はわかない。木兎さんが椿の方に戻るのを見送ってから背を向けた。



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