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思わず引っ張ってしまったため、自分の上に椿が乗っかっている。罰ゲームがあると言い始めた辺りから、何としてでも逃げ切らなければならないと思ったのだ。助けに行くという選択肢は既にない。じゃんけんで刑事役を決めたとはいえ、木兎さんが1発で決まり、もう1人もすぐに決まった。散々「なんでお前、刑事じゃねぇんだよ!!」と言われたが、椿にまで言われるとは思わなかった。密着しているだとか、体勢だとか考えたくなくとも無意識に意識する自分を無理やり切り離して、木兎さんの声と足と音が遠ざかるのを待った。

「・・・・っ」
「・・・・・」

木兎さんが電気を消したのか、暗くなったのと同時に椿がピクリと体を揺らした。そう言えば前にも似たようなことがあった。しがみつかれているとはいえ、小柄な彼女なら何ということもなく、箱の蓋を開けて体を起こした。開けたところで暗いのだが、それでも扉の隙間から灯りが見れるので電気はすぐにつけられそうだ。

「椿、箱から出るから」
「・・・」
「ちょっと離れて」
「・・・・・・」

慌てて放された手を申し訳なく思いつつ、慣れてきた目で放された手を確認して、そっと取れば1度ピクリと反応してから遠慮がちに握られた。木兎さんが言っていた通り、暗い場所が苦手なのだろう。

「箱跨げそう?」
「え・・・あ、どうだろう」

自分が先に出て電気をつけに行けばいい話なのだが、椿の手が放れそうにない。信用されているのは嬉しい限りだが、もう少しの警戒と余裕を見せてほしい。
結局、自分が箱を出て椿が出るのを手伝って電気をつけた。付けた瞬間に放された手を眺めて、「なんで、私まで!!」と声を上げた椿を見下ろした。悪いとは思っているが、照れるという反応よりも不機嫌という反応が先行していることが少しだけ気に入らなかった。

「別に私がいるからばれるってことないでしょ!!大体、私が着替えてれば、さっさと出てくだろうし」
「・・・・・・」
「ほらっ、光太郎行ったし、早く赤葦も出てよ。着替えられない」
「え?」
「え?」
「まだ終わってないから、」
「・・・・だったら。目つぶって、箱に入ってて」
「わ、わかった」

言われた通りに箱に入れば、蓋を閉められた。目を閉じているなんて確証なんてないのに、外から布の擦れる音がする。椿が俺をどう思っているか知らないが、わかりにくいと言われる自分も例外なく男子高校生ということを忘れないでほしい。ため息をついて、耳をふさぐことにした。
着替え終わったと言って倉庫を出て行った椿がしばらくして戻って来た。何かと思えば、もうバレー部のほとんどが捕まっている様子だったそうだ。もう出て行っても、それほど逃げる必要もないかと椿と部長さんにお礼を言って弓道部から離れた。こっそりと様子を覗けば椿の言った通りで、ほぼ捕まっているのが分かる。ゆっくり近づいても捕まった人間を助けようという考えはやはり起こらず、適当に逃げて捕まった。この人の機嫌が悪くなる前に終わらせるのが得策だろう・・・ここで、変に解放してしまえば、せっかくの気晴らしもそうでなくなってしまう。

「お前、どこにいたんだよ!!」
「どこでもいいじゃないですか」
「・・・お前、弓道部にいただろ」
「木葉さん」
「俺、見てたからなーお前が弓道部入ってくの」
「赤葦っ!!」
「・・・・まぁ、そうですけど」
「俺、見に行った」
「そうですね。木兎さんが来たの知ってます」
「けどよう」
「俺が頼んでたんで、いないって言われたんでしょう?」
「そうだけどよ。倉庫は新零が着替えてるから開けるなって言われたつうのに、お前も新零もいなかったんだけど、どーいうことだよ」
「・・・・・・・」
「へぇ〜ちょっと赤葦、詳しく聞かせろよ」
「木葉さん、離してください」
「倉庫で、その子と何してたんだ?」
「何もしてませんよ」
「へぇ?」
「つーか、木兎も女子が着替えてるって言ってんのに入るなよ」

にやりと笑った木葉さんと、どういうことだよとうるさい木兎さんが徐々に鬱陶しくなったころ、監督がそろそろ戻れと体育館から声をかけた。助かったと息を吐けば、部活終わったら全部吐けよと振り返った木葉さんに、今日一番のため息が出た。いかにして、捕まらずに帰宅しようか


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