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椿新零に興味が湧いたのは学祭の買い出しの時と答える。ただ、いつから特別として意識したのかというのはわからない。けれども、食事をしたり、電話をしたり、他人よりも信頼されることに優越感を持つようになって、気づけば触れたいと思うようになった。すごく自然なことだったと思う。何がいい、ここが好きという決定打ではなく、一緒にいられたらなんて思うようになった。だから、木兎さんと話す椿を見たくないと思うようになったのは、ただの嫉妬だと答えはすぐに出た。

「赤葦、今日、どっかの学校と練習試合なんでしょ?」
「どっかっていうか、音駒」
「どこでもいいけど、まぁ、がんばれ」
「・・・」
「?」
「もっと、可愛く言ってみて」
「・・・頑張って」
「・・・・」

「何が不服なわけ?私に、頑張れって言われるだけでも、ありがたいと思いなさいよ」と冗談ぽく言って、肘で横腹を突かれる。漫画のようなドキリとする感覚が味わってみたいのだとは言わないが、彼女に期待した自分が間違いだったかとポケットに手を突っ込んだ。だから油断していたのかもしれない、体育館の方への分かれ道で制服を掴まれ振り返れば、上目使いの椿と目があった。

「応援行けないけど、頑張ってね、赤葦っ!」そう言って、何もなかったかのように弓道場の方へ歩いて行った椿から、さっと視線を逸らして部室の方へ早足で向かう。温かくなったとはいえ、まだ肌寒い日が続く中、練習前だというのに酷く体温の上がった身体に焦りを感じる。早く引けと思っても体は言うことを聞かず、笑った椿と声が何度も目の前に流れた。あれが、わざとであっても嬉しいのだから、現金なものだ。

「赤葦、どうかしたのか?」
「何でもないです」
「そうか?」
「さっき、弓道部の女子と話してただろ?」

俺、見てたからなと木葉さんがまたにやにやと笑う。この人は、気づいているような気がする。前にもそんなそぶりを見せていた。

「弓道部のって、新零か?」
「新零ちゃんて言うのか、へぇ〜なぁ赤葦」
「同じクラスなだけですよ」
「同じクラスつっても、あと数日だな」
「・・・・そうっすね」
「赤葦〜相談なら、いつでものるからな」

そう話していた春休み前、部活漬けの休み明け、始業式前に発表される新しいクラス。前半クラスが混んでいたので、後ろのクラスから見始めた。一番上か、その前後を見れば良いというのは楽なものだ。普通からすれば、そこそこある身長を日常生活で便利なものだと思う瞬間かもしれない。春休みの間も何度か椿とは顔を合わせたし、電話が来ることもあった。いつまで友達でいられるのだろうかと家に帰って自問自答する日だってあった。加速するなんていうけれど、本当にそれだなと思った。

「赤葦、ちょうどいいところに」
「新学期早々、それはどうなの?」
「いいじゃん、私のクラスわかる?見える?」
「・・・・・」

自分の名前のある6組だけでも見るかと、自分から順番に下へ視線やれば椿新零の名前があった。間違いではないかともう一度繰り返してもやはりある。

「同じクラス」
「え?赤葦と?」
「そう」
「そっか、今年もよろしく赤葦」

他に知ってる名前はあるかと聞かれたものの、彼女の知りたい名前などわからないが1年の時の彼女の友人はいないと告げれば、少しだけ顔を引きつらせた。クラス数が多いのだから当然だろう

「何かあったら、赤葦にヘルプする」
「木兎さんだけで手いっぱいだから勘弁して」
「光太郎だけなんて、ずるい」

何が狡いのかわからないが、お互いが同一人物に嫉妬するなんて、変な図式だ。教室まで一緒に行こう?と誘われれば断る理由などどこにもなく椿の横を歩いた。去年の今頃なんて、椿をクラスの女子の1人くらいにしか思っていなかったのにと肩を落とした。

「椿さん、6組なの?」
「うん」
「よろしくね、私の席1つ前なの」
「あ、うん、よろしく」

俺にはぎこちなく見える笑い方の椿と別れて、1番前の席に荷物を置いた。「やっべ、椿さんいるじゃんか」「やっぱ、他の女子とは違うよな」「パーツ1つで女子だってわかる」「背が低めっていうのもいいよな」なんて、言葉が聞こえてきた。何を持って女の子らしいと言うのかはわからないが、その言葉が当てはまるのは彼女の姉だと、写真で見た女性を思い出した。

「椿さんって、やっぱり彼氏っているの?」
「いないよ」
「え、まじで。作らないの?」
「考え中」
「噂じゃ、いるって聞いたんだけど」
「噂?」
「そう、部活帰りに男子と一緒に歩いてたって」
「あー・・・あれは、彼氏じゃない」
「そうなの?」
「うん」
「じゃぁさ、よく去年一緒にいた背の高い子は?」
「赤葦なら、今年も同じクラスだけど?」
「付き合ってるの?」
「付き合ってない」
「本当に彼氏いないの?」
「うん」
「なら今度一緒に合コン行かない?大学生の人とか来るんだけど」
「ごめん、あんまり興味ないから」
「いいじゃん、来てくれるだけでいいから」
「遠慮遠慮、そう言うの好きじゃないし、部活忙しいから」

椿が適当に周りにいた女子と話しながら教室を見渡しているのに気付いた。春休みの時に話していたそれだ。最初に集まって来た子とはそこそこに上手く話して悪い関係は作らないまま、その時いなかった女子に目をつけておく。色恋沙汰にあまり興味のない子と友達となるにはそれがいいと言っていた。
「噂で私のこと知ってるからか知らないけどさ、たいてい新しいクラスに行くと、さも友達ですって顔で話しかけてくる子がいるんだけど、その子たちを邪険にするとのちのち面倒だから、上手くやりつつ友達になれそうな子を探すの」と言っていたが、本当にそうなっているのを見て椿も苦労しているんだなと思った。終始にこやかに見える椿が、本当はそんなにいつもにこやかな女子でないと彼女たちが気づくのはいつになるのだろう。



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