02
1通ずつ届く“行けなくなった”の連絡を眺めながら、待ち合わせ時間5分前に到着した椿に視線を移した。顔には、なんで!と書かれているのがよくわかるし右手にはスマホが握られているので状況はわかっているらしい。なにかしら裏であったのだとすれば、彼女は自分のことを好きだということになるが、そんな仕草を見た記憶はない。とすれば、おもしろそうだからという理由しか残らなかった。もしかしたら、どこかで見ているのかもしれないし、買い物を終わらせて教室に戻れば、どうだったのかと聞かれるのかもしれない。
まぁ、何でもいいから買い物を済ませて教室に置いて帰ればいい。たまの部活の休みに、面倒なことではあるが、普段参加できない分これくらいはと改札の方へと足を進めた。椿の声に適当に返していれば、急に声が遠くなったので不思議に思って振り返れば、改札に引っかかって慌てている姿があった。電光掲示板と時計を見比べて椿に声をかければ、あからさまに不機嫌にこちらを睨んだ。
周りからの彼女の評価は、小柄な背と、整った容姿だとか軒並み平凡な褒め言葉。結局のところ見た目がいいからモテるのだろう。本当にモテているのかどうかは、自分の知ったところではないが、友人が言うにはそうらしい。確かに、容姿に関して、この距離だと分かりやすいのだが、如何せん文句が多い気がする。あと、すぐになんで!と声を上げるのもいただけない。
「赤葦、近い」
「普通の満員電車だと思えば、いつものことだと思うけど」
「そうだけどっなんで向い合せなのっ!!」
「俺が囲ってないと、椿さんあっという間に潰れてるけどいいの?」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「それは、どーも」
周りを見てから、状況を理解したのか視線を下げてぼそりと礼の言葉が聞こえてきた。なんだかんだ女の子らしく恥ずかしがっている様子を眺めていると、ちらりとこちらを見て、ふいっと逸らした。ガタリと揺れた車内で背中が壁から離れてしまった椿がこちら側に倒れ込んでくることもしばしばあったが、自分も背中に当たる人の鞄やらでそれどころではなく駅を降りたころには酷く疲れていた。おそらく、この先の駅でイベントか何かがあるのだろう。
「赤葦って、何部だっけ?」
「バレー部だけど?椿さんって何やってたっけ?」
「弓道部」
「へぇ・・」
「・・・というか赤葦って、バレー部だったの?ポジションは?」
「セッター」
「・・・バレー部でセッターか。あー・・・・」
「?」
「何でもない」
「椿さんって」
「何!」
「何でもないよ」
「言いかけてやめないでよっ?!」
そこまで過剰に反応する必要があったのかと不思議に思った。バレー部に何かあるのだろうか?
「今日、バレー部休みだもんね」
「何で知ってるの?」
「え、あ・・・あー、赤葦いるし」
「まぁ、そうだけど。そっちも?」
「うん。でも、もともと土日は出てなかったから」
「?」
「道場通ってて土日は、そっちに行ってるの」
どうやら本格的にやっているらしく、ふいに真面目な視線を下から向けられた。なんで、なんでと聞く割には、学校での成績は上位層らしいということを思い出して、彼女を少し馬鹿にしていた自分に見方を変えるように言い聞かせた。
「そうか、赤葦のことだったのか」という独り言に気づきながら聞こえないふりをして、目的地へと進んだ。時折、振り返ると少し後ろに椿がいる。先行っていいよと笑うけれど、そういうわけにも行かず、いつもの調子で歩いていた自分の歩く調子を変えることにした。
「赤葦、彼女いないでしょ」
「バレー一筋なんで」
「うわぁ、青春をスポーツに捧げるなんて健気だねぇ」
「そういう椿さんは、いないの?」
「今はいないかなー。中学の時はいたけど、高校違うし別れた」
「そんな理由?」
「そんな理由、おかしい?」
「別に」
「好きでもないのに付き合ってたよ、向こうがそう言ってきたから」
「好きでもないやつと付き合うって楽しいの?」
「どうだろう、遊びに行くくらいなら楽しいかな」
「・・・・」
「ちょっと意外って顔したでしょ」
「まぁ、意外だったんで」
「最近は、弓道ばっかりだったから私も人の事言えないや。・・・バレーも小学校のころ少しだけやってたんだよ。まぁ、別のことに興味あったからやめちゃったけど」
そう言って、ぐぐっと背伸びをして、でもバレーって楽しいよねと付け加えた。その後も色々と詳しい椿の話しを聞いていた。おそらく自分との話題を見つけたので話しているのだろう、別にこちらとしては無言でも良かったのだが、向こうはそうでもないのだろう。それにしてもよく話すし、よくそんなに話すことがあるなと感心する。
「椿さん前見てないとぶつかる」
「ん?!」
少し前を歩いていた彼女が自動ドアの前に立っても反応せず、俺が追いつけば何のこともなく扉は開いた。「なんで?!」と不機嫌ですとわかりやすく顔に書かれた椿を追い越して店に入ればカートに籠を乗せた椿が再び横についたので、取りかけた籠から手を放した。
「キックボードみたいなことしな・・・」
「え?」
カートに掛けられた足を見て、顔が引きつった。似たような人をもう1人知っているような気がして、知らないふりをした。
「それ、やるなって教わらなかった?」
「・・・お、教わりました」
「じゃぁ、なんでやるの」
「な、なんとなく?子供じゃないし、周りに赤葦以外の人いなかったし」
「・・・・・屁理屈?」
「うっ・・」
言葉に詰まった椿を余所にメモが保存されているスマホを眺めた。大体の周る順番を考えていると、横から椿が同じ画面を覗きこんでいた。自分のスマホにも保存されているのにわざわざ高い位置にある俺のを見る必要があるのだろうかと思いつつ、カートにのせられた籠を引っ張った。椿が押しているように見えて結局のところ俺が引っ張っているのだから彼女はただの飾りではあるが、似たような商品を手に取れば、こっちとはっきり物を言った。そのおかげか、さくさくと買い出しはほぼ終わった。残り2つの見つからない商品を探そうかと店内図を眺めていた。
「赤葦、さっきのメモ貸して」
「いいけど、自分のあるならそれ見れば?」
「充電少ないのっ!」
「あぁ、それで。昨日充電しなかったの?」
「したけど、待ち合わせの前に半分切ったから帰りに電池ないと困るからさ」
おそらく友人たちがこの場に来ないことに、なんで、なんでと聞きまくったのだろう。俺のスマホを片手にさっさと店員の元へ駆けて行った椿を見送って、籠に入っている品物を眺めた。俺1人では持ちづらそうな物もあるので椿が来て良かったと思う。逆に椿1人では、とても持てる重さではないだろう。そう思うと、あんな大勢で来る必要なんてなかったような気がする。戻って来た椿が、あっちだってとカートを押した。
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