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「日直なの?」
「そう、早く部活行かないと木兎さんうるさいから、先に書いておこうと思って」
「ふーん、じゃぁ、明日私か。面倒くさい」
「さぼるなよ」
「さぼらないよ」
「そうだ、俺の後ろ、黒板見える?」
「・・・・それくらい見えるし」
「見えないなら言って」
「平気、見える。窓際だし、問題ないよ」
「ならいいけど」

新年度が始まって、最初の席替えで椿が自分の後ろの席になった。去年からの席替えの中で1番、彼女との席が近くなった気がする。朝、教室に行くと自分の席に椿の友達が座っていることもあり、教室で話す回数も一段と増えた。

「ただ毎日、目の前に壁がある感じはする」
「それは、すみませんね」
「別にいいけど」
「・・・椿って、彼氏作る気あるの?」
「あるって・・・前言わなかった?」
「覚えてない」
「・・・・・」

後ろの席に座った椿が無言になった。

「さっきもなんか聞かれてたから、実際どうなのかと思って」
「・・・あるけど、どうだろ。面倒だなって思うところもある」
「へぇ」
「・・・赤葦は、バレーが彼女だっけ」
「まぁ・・・部活に影響がでないならありかもな」
「へぇ」
「・・・・」

今度は自分が無言になった。途中書きで止まっていた日誌の続きを書き始めた。次の授業はなんとなく範囲はわかるので先に書いてしまって問題はないだろう。違っていれば、明日椿が書くときに直せばいい。

「正直、好きになるのも、好きになられるのもトラウマ」と、後ろからぼそっと聞こえた。中学のときの話を思い返して、まぁ、そうなっても仕方がないかとシャーペンを2回ほど回した。

「椿の名前ってこれであってる?」
「ん?」

ついでになんとなく明日の日誌担当のところに“椿新零”と書いてみた。思いのほか他人の名前、しかも女子の名前を書くというのは緊張するものだった。木兎さんの変わりに書類の提出をすることはあるが、彼の名前を書いてもなんとも思わなかった。

「あってる。ついでに明日もよろしく」
「しないから」
「いじわる」
「・・・・・・」
「他人の名前書くときって、緊張するよね」
「そうだね」
「今、した?」
「した」
「へぇ」



トラウマという言葉を聞いたのは初めてだったような気がする。
まだ色々なものを引きずっているのだろうか?自分に話すときは、いつも多少落ち込みがちではあるが、笑い飛ばすような口調でもあったのに、まだ知らない部分がたくさんあるということなんだろう。春休みのときに、“構ってくれる人”と言われたが、あれはどういう意味だったんだろうか
他人から彼女の話を聞くような野暮なことはしたくないが、気にならないわけじゃない
1年のときは、木兎さんと椿の関係が気になったが、こうしてみていると本当に仲がいいだけで別に何もないというのがよくわかる。木兎さんの性格なら、椿のことが好きなのだとすれば、その感情を隠すようなことはできないだろう。それでも、彼女の彼に対する遠慮のなさを少し羨ましいと思ってしまうのは、自分が彼女に惹かれているからなんだろう。

「!!」

背中を何かでなぞられる感覚に、ぞわっと鳥肌が立ち慌てて後ろを振り返った

「何」
「背中広いなぁと思って」
「・・・・」

何でもないという顔で、急に振り返った自分と目を合わせた椿に、ため息をつきたくなる。しかもその後、少し面白いものを見つけたという顔をした・・・つまり、次の席替えまで何度か同じことをされることになる。

「だからって触るな」
「冗談。これ、前に回して」
「・・・なら、そう言えばいいだろ」
「赤葦、呼んでも気づいてくれなかったじゃん」
「え?」
「何、何か考え事?」
「ちょっと、ぼーっとしてただけ」
「ふーん、恋か」
「違う」
「・・・赤葦って、ずっとクールだと思ってたし、いけ好かないって思ったけど、そんなことないよね」
「・・・よねって本人に同意を求めてどうすんの」
「クールで、人をバカにしてるように見えたけど、全然そんなことなかった」
「そんな風に思ってたの?」
「思ってたよ?私、赤葦のこと好きじゃなかったし、こいつはないなって感じだった」
「あ、それは俺も」
「そこは同意しないでよ」
「・・・で?」
「いや、そう思ったからなんとなく言っとこうと思って。1年のとき言ってたじゃん?私のこと遊んでると思ってたけど、そうじゃなかったーって、あれのお返し」
「それは時間差で、どうも」
「この前の試合見てたけどさ、赤葦も相当な負けず嫌いだね。スポーツやってる人って、そーいう人多いけど」
「来てたの?」
「来てたよ?」
「前も来てたけど、よく来るの?」
「行かないよ?」
「・・・じゃぁ、なんで」
「赤葦と光太郎がチームやってるのも今年で最後だから今年は見に行かないと、と思って」
「最後って、まだ冬まで一緒だから」
「春高も頑張って」
「来年は来ないの?」
「赤葦が来てほしいなら行く」

にやりと笑った椿に笑い返して、前を向いた



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