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「赤葦は、そこで待ってろよ。すぐ取ってくる」
「早くしてくださいよ」
なぜ自分が、木兎さんの忘れ物を自宅まで取りに付き合わなければいけないのか。他の先輩が変わってくれればいいものを、お目付け役の仕事とばかりに押し付けられた。
通されたリビングは、人がいないのか電気はついていなかった。休みの日とはいえ、木兎家はリビングでくつろぐ習慣はないのだろうか?と思いつつ、部屋を見渡した・・・・
「・・・・・・・」
思わず凝視
ショートパンツから伸びる素足に目を奪われた。そこから順に視線で追った先に、無防備な椿の寝顔があった。玄関にあった靴が彼女のものだとは気づかなかった。木兎さんも一言くらいあっても良かったはずだ。それとも来客に気付いていなかったのか。
日当りのいい窓辺のカーペットの上で、転がっているクラスメイトにどうしていいのかわからなかった。
ただのクラスメイトならいいが、先輩の家で、先輩の従妹で、自分の意中の相手が、なんて状況、そうないだろう。
「赤葦、あった!!」
「木兎さん、静かにしてください」
「は?なんでだよ、ここ俺んちなんだけど」
「椿が起きるじゃないですか」
「え、新零来てんの?」
近づいてきた木兎さんが、「セーフセーフ」と言っている。さすがというかなんというか、あの声でも起きないのか・・・。よくあることなのか、「これ新零専用のやつ」と言いながらタオルケットを彼女にかけた。寝返りを打った椿が日に背を向けて、小さく丸まって、寝息が聞こえた。
「赤葦、いつまでも見ていたいのはわかるけど、そろそろ部活行かねぇと」
「誰のせいで、遠回りしてると思ってるんですか」
「でも、そのおかげで、新零の寝顔を拝めたんだろーが、俺に感謝しろよ!」
「・・・・・」
「・・・・・んっ」
「あれ、新零起きた?」
「木兎さんの声が大きいんですよ」
「んなことねぇよ」
「ん・・・光ちゃん、うるさい」
「光ちゃん・・・?」
「わりぃわりぃ、もう部活行くから寝てていいぜ」
「んん・・・ん?」
寝ぼけた様子のまま、体を起こした椿の目が寝起きの声の色っぽい可愛さに震えていた俺に止まり、固まった。家では、光ちゃんって呼ばれてるのか、寝ぼけていたからなのかわからないが、恥ずかしさからか、予想外の人物がいたからなのか、赤くなった椿がタオルケットを頭からかぶった。
「なんで、赤葦がいるの。というか、光太郎、なんで」
「忘れ物したんだよ」
「忘れ物くらい、1人で取りに来てよ。小学生じゃないんだから」
「椿の言う通りですよ」
「2対1なんて卑怯だぞ」
「スパイク打つ瞬間は、そうなりますよね」
「それとこれとはちげーよ!!・・・あ!!お前また、そんなエッチな脚で来やがって」
「エッチな脚とかいうな!!ちゃんと靴下履いてきたし、寝るとき脱いだけど」
「・・・・・」
頭隠して、脚隠さずだった椿が体操座りで脚もタオルケットの中にしまった。もぞもぞと動く塊を見ろしてから時計を確認した。そろそろ、学校に向かわなければ間に合わなくなる。
「木兎さん、そろそろ」
「おー、そうだな!!じゃぁ、新零、玄関締めといて」
「・・・わかった。いってらっしゃい」
木兎さんに続いて玄関を出ようとすると、タオルケットをかぶった椿が玄関先まで来ていた。見送りではなく、戸締りのために来ているのだろうが、やはり言って損はないだろう。
「いってきます」
「・・・い、いってらっしゃい」
今日の部活は、いつもより気合が入る気がした
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