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恋愛イベント的なことは滅多に起きない。少女漫画のハプニングの多さに冷静になって読んでしまうときがあった。日常生活、そんなに色々なことは起きない。だから、些細な変化に一喜一憂するのだろう。
あの時と同じだ。仲が良くて、その人が異性で、他の人に奪われたくなくて・・・・少なからず自分に興味を持ってくれている。私からは、きっと進めない。だから、気づいてほしくて、できなくて、ぎこちなくなってしまうのを逆に捉えられたらどうしようと不安になる。赤葦といると期待ばかりしてしまう。そんな探り合いが嫌だと不思議と思わないのは、なぜだろうか。彼なら、友達としてもやってくれるだろうからか。そんな些細なことに安心してしまう自分にため息が出る。
「椿」
「ん?」
「今日、練習試合あるけど来る?」
「んー・・・・どこと?」
「音駒」
「よく来るね」
「梟谷グループだからね」
「そんなのあるの?」
「うん」
「あ、じゃぁこの前の写真の寝ぐせのすごい人来るの?ちょっと見たい」
「・・・・今年は主将だから間違いなく来るよ」
「へぇ・・・、今日、部活ないし行こうかなぁ」
最初はちょっと嬉しそうな顔してたくせに、急に嫌そうな顔になった。どこからだろう・・・寝ぐせの人の話をしたくらいだろうか?「新零さん、そんなに惚れっぽくないですよ」と冗談交じりに言えば、無言でじっと見つめられた。
「何」
「黒尾さんの趣味とは合わないと思って」
「私、品定めされたの?何、献上するか決めないでよ」
「え?」
「え、じゃない」
真顔で、その反応されると、何を思っての言葉かわからなくて、思わず首を傾げた。
クラスの友達に声をかけてみたが部活で忙しいらしく、梓沙にメッセージを飛ばせば、すぐにOKが帰って来た。さすが写真部。他の部活の子とは違う。
「で、どうなの新零」
「赤葦?」
「うん。結婚式のときは、私らが愛のキューピッドですって紹介していい?」
「何それ、恥ずかしい」
「えー?じゃなくて、どうなの?」
「仲良くしてる」
「その先は」
「・・・・」
「前の試合のときも、赤葦かっこいいって顔でコート見つめてたくせに」
「だって、かっこいいし。別に赤葦だけ見てたわけじゃないし」
「好きなんでしょ」
「・・・・とられたくない」
「はい、好き」
「もう、梓沙!!」
「だって、新零かわいいんだもん、いじりたくなるじゃん」
「・・・・」
「本当、新零って仲良くなると変わるよね。なんか攻略できた感じして、嬉しいけど。勘違いしてる人、多いよ。きっと」
「いいよ、わかってくれる人が少なからずいてくれたら」
「・・・・・新零。そうだ、これ見て」
「?」
「私と会ったころの新零の写真、それから1年のときに赤葦としゃべってるときの写真。それで、これがこの前の試合で撮った写真」
「なっ!!え、ちょっと待ってよ。いつ撮ったの?!」
「えー、内緒」
「・・・恥ずかしすぎ」
「いい被写体ですなぁ・・・・本当に、この写真なんて。恋する乙女ってタイトルつけてコンテストに出したいレベル」
「勘弁してください」
「モデルがいいから、余計ずるいよね」
「・・・・・」
「今は、出さないけど。付き合ったら、許可頂戴ね」
「・・・・」
「そんな新零に、プレゼント」
「え、今度は何が出てくるの・・・?」
「ほら赤葦の写真、欲しくない?」
「え゛」
「・・ふっ新零、顔真っ赤」
「・・・っ、梓沙の馬鹿。いらない」
「せっかく持ってきたのに」
「持ってるのばれたら恥ずかしくて死ぬ」
「その方が、手っ取り早い気がするけど?」
「一歩間違えたら、ただの変態だよ」
「何だと?!新零のフェチに合わせてきたのに」
写真の赤葦が男前すぎて持っていられなかった。私の写真含めて、梓沙の写真は人物に焦点を当て、さりげない表情を綺麗に捉えている。最初、写真部と聞いて、たいしたことないんじゃないかと思っていたのを心の中で謝ったのは1年の冬頃だった。
「あ、あの人だ」
「何が?」
「音駒に、すごい寝ぐせヘアーの人がいてさ、写真見せてもらったけど実際に見て見たくて」
「寝ぐせ?あの木兎先輩と話してる人?」
「そう。黒尾さんっていうんだって」
「新零、赤葦がこっち見てる」
「・・・・え?」
ほらと指をさされた方を見れば、赤葦がこっちを見ていた。別に何というわけでもなさそうだったのは、用があるわけではないのだろう。
「あれで寝ぐせとか、すごすぎ」と、いつの間にか望遠レンズに取り換えたカメラを構えている梓沙の独り言で、やっと私は黒尾さんへ視線を戻すことができた。・・・あれで寝ぐせなのか。光太郎はワックスで固めてるのになぁ・・・私、下してる方が好きなんだけどと言ったのはいつだっただろうか。
「新零は、このままでいいわけ?」
「うう・・・」
「最近、新零って告白されること減ったよね」
「そういえばそうかも。嬉しい限りです」
「それってさぁ、赤葦が効いてるんじゃない?」
「どうなんだろ。私、中学のとき彼氏いても告白されたけど」
「まじか。でもそれって、新零は好きじゃなかったんでしょ?」
「うん、まぁ、恋愛感情はなかったよ」
「だからじゃないの?男だって馬鹿ばっかじゃないからさ、隙があるならって思うでしょ」
「・・・・・」
「あんたも赤葦も馬鹿じゃないんだからさ」
「・・・じゃぁ、私は待ってるよ。やっぱり」
「・・・・・・なんか、あったの?」
「え?」
「そ―いう顔してる」
「本当、梓沙ってそういうところ目敏いよね」
「お褒めに預かり光栄です。・・・私は新零の味方だよ。何かあったら遠慮なく言ってよ」
「ありがと。私も梓沙の応援してる」
「うん、ありがと」
「年上かぁ・・すごいなぁ」
「新零は、年上はどうなの?木兎先輩と仲いいじゃん?」
「年上と付き合うくらいなら、年下がいいかな」
「なんで?年上のが可愛がってくれるでしょ?」
「なんだろう、いいイメージがないんだよね。たかが数年生まれたのが早いだけで、大人ぶってるのがいただけない」
「そー言って、大人っぽい赤葦のこと嫌ってたくせに」
「ちょっと、また話戻さないでよ」
「えー?」
「えーじゃない」
そんな話をしている間に、試合が始まった。
梓沙とは試合と関係ない話も多かったけれど、途中からは黒尾さんの寝ぐせが、あの運動量でもなぜ崩れないのかという、どうでもいい会話が中心だった。もちろん、他のメンバーのことだって見ていたし、音駒のセッターと何やら話している赤葦が少し新鮮だった。そういえば、向こうも2年なんだっけか。
客席は、それほど人がいるわけじゃない。みんな各々自分の部活があるわけで、ここに来ているのはお目当てがいる女子だったり、3年と仲のいい人達だけだ。あの中に、赤葦のことを見ている子もいるんだろうか?なんてよそ見をしているうちに試合終了のホイッスルが鳴った。「最後は、木兎先輩のスパイクで決まったよ」と梓沙に聞いた。
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