30
「その後ずっと後悔ばっかりで、いつもぼーっとしてた」
「・・・・・・」
「人間関係なんて、たった一言でなかったことになるんだなぁって・・・怖いよね」
「・・・・・・」
「私が、あんなこと言わなかったらどうなってたのかなって」
「あんなことじゃないだろ」
「え?」
「椿の思いは、あんなことじゃない」
「どうかな・・・今思えば、友達を誰かに取られたくなかっただけかもしれないし」
「・・・・・友達を取られたくないやつはさ、そんな顔で泣いたりしないだろ」
「・・・っ、そうかな」
「そうだよ」
「・・・でもね、あの時は自分のことばっかりで相手のことを考える余裕がなかった。あの人の悲しそうな顔を思い出したらさ、私はあの人を傷つけたのかなって」
「俺は椿の味方だから、今の話を聞く限りじゃ椿は悪いことをしてないと思うよ。純粋に自分の気持ちを伝えただけ」
「・・・・・・・・」
「俺の意見は変わらないよ。それは男の方が根性なしってだけ」
「・・・・・・・・」
「椿より自分がかわいくて仕方がないって感じ」
「普通は、そうだよ」
「俺は、自分がかわいいから、好きなものは手放したくない」
「・・・・・」
「でも、俺はその人を知らないし、置かれていた立場も何も知らないから、何とでも言えるけど」
「・・・どう、なのかな・・・・・」
「・・・椿には悪いけど、もしかしたら、その人にとっては、」
「赤葦、言わないで」
「・・・・・・」
「言わない・・・で・・・・っ」
結局、自分も彼女のことを泣かせている。拭ってやれるほど関係は近くなく、震えて泣いている彼女を抱き寄せるなんてこともできない。話している途中から涙声だったが、今はもう泣いている音だけが聞こえてくる。好きな相手に無視され続けたら辛くて当然だろう。それでも、会いに行った椿は、どんな気持ちだったんだろうか。
話を聞いている限りじゃ、椿に落ち度はない。好きな相手に好きだと言って、理由を聞いているだけ。言おうとした言葉は椿にさえぎられたが、そいつが椿のことをそれほど好きじゃなかったのであれば、頷ける。好きでもない奴付きまとわれるのは嬉しくないどころか嫌悪感がある。だが、そうじゃない・・・それにも関わらずに椿を拒絶した理由なんて何があるんだろうか。きっと、彼女もずっと考えていたのだろう。納得したくても納得できず、相手と話すこともできず、無視されて拒絶されて、3年経っても泣いている。もし今の彼女を見たら、そいつは何を思うんだろうか。
「椿、まだそいつのこと好き?」
「・・・・好きじゃない」
「・・・え?」
「好きじゃない、もうそのあたりは大丈夫。・・・そうじゃないと、進めないし。でも、色々思い出すと泣いちゃうし、急に話を持ち出されたらいい気持ちはしない。あの時のあの人の顔が怖くて、辛くて・・・」
「・・・・・」
「早めに光太郎とは仲直りするから」
「・・・そうしてくれると、ありがたいです」
「赤葦にも苦労かけますなぁ」
少しだけ明るくなった声は、それでもまだ涙声だった
「あーあ、赤葦にこの話も全部するなんて思ってなかった」
「俺も、あの時の全貌を聞くような関係になるとは思ってなかった」
「確かに、」
「あの人たちに感謝しないと」
「私なんて、今じゃあの2人に頭が上がらない」
「へぇ、今も仲いいんだ」
「うん、この前も練習試合見に行った時に・・・・・」
「ん?」
「なんでもない」
「そういうのずるい」
「ずるくない。あ、その時、黒尾さんと話したよ」
「・・・・・髪型の話したんだって?」
「赤葦も聞いてたの?」
「黒尾さんに、責められたよ。なんで、髪型の話しかしてないんだって」
「でもすごいよね、あれが寝癖なんてさ。何あの造形美」
「・・・造形美って」
「でもいい人だね、なんか頼りになる先輩って感じ。光太郎とは違う感じでさ。ちょっと胡散臭そうだけど」
「・・・っ」
「赤葦?」
「いや、寝癖を褒められるし、頼りになるって言われながら胡散臭そうって言われてると思うと、褒めてるのか、貶してるのかわからないなと思って」
「一応、褒めてる」
「黒尾さんに伝えとく」
「いや、黒尾さんにはこれ以上私の話はしないで」
「?」
「あの人、光太郎と仲いいんでしょ?従兄妹なのバレたくない」
「他校でも駄目?」
「ダメ。本当、あいつの交友関係おかしいから、街歩いてて知らない制服の人からも、もしかして新零ちゃん?木兎の従妹のって言われるんだよ・・・本当、信じられない」
「あの人、人と人との壁とかないからな」
「スパイクと一緒だね、ぶち破ってく感じ」
「確かに。ま、俺も黒尾さんに椿の話はしない方がいいかもって言ってから思ったから、言わないでおく」
「?」
「椿と木兎さんって、従兄妹にしては仲がいいよね」
「歳も近いし、家も比較的近かったしね。姉妹仲も良かったから、小さいころから遊ぶことも多かったよ」
「へぇ」
「私も、光太郎のこと好きだったから喜んでついてったし」
「・・・・・ん?」
「ん?」
「今、なんて?」
「仲が良かった?」
「いや、今、好きとかなんとか」
「あぁ、光太郎のこと好きだったよ?幼稚園くらいの時」
「・・・・」
「初恋ってやつ」
「・・・・」
「あんまり覚えてないけど、男の子らしい男の子って感じでかっこよくて好きだった。まぁ、今もバレーしてる時は、かっこいいんだけどね」
「へぇ・・・」
「あれ、ちょっと引いてる?」
「引いてない」
「・・・光太郎の昔の写真かわいいんだよ。今は、あんなんだけどさ。今度見る?」
「木兎さんの子供のころより、椿の子供のころの写真のが絶対かわいいよ」
「えー、どうだろ?小さいころの男の子の写真は格別だと思うけど」
「椿のが絶対かわいい」
「うわ、昔の私に嫉妬しそう」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「今の椿も十分かわいいよ」
「・・・泣きっ面覗き見るなんて、最低。今、全然かわいくないし。しかも、今の間なに!」
ふいっと顔をそむけた椿が、ブランコを漕ぎ始めた。スカートでブランコ漕ぐなよ、せめて立って乗れよと内心思いながら、もどかしい距離感に息を吐いた。自分の身長では漕ぎづらいブランコを少しだけ揺らした。もう30分くらい経つだろうか、椿を家に送り届けて、家に着く時間を考えながら一応、親にメールを入れなければと、どっちでもいいようなことを考えていた。そうでなければ、自分が今の関係に踏み込みすぎてしまう気がした。
「そういえば、今日の朝声をかけてきた人、結局来なかったよ」
「あぁ、それなら俺が適当に帰らせたから」
「・・・・・え」
「駄目だった?」
「いいえ、ありがとうございます」
「ならよかった」
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