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「新零と赤葦は、興味のあるものに対しては明るいのに、それ以外のことに対しては無頓着で、ぼーっとしてるところが似てると思ったんだよね」と、あの時の理由を梓沙に聞いたのは、2年になってからだった。今思えば、あの時からすでに赤葦は特別だったのかもしれない。いけ好かないクラスメイトという時点で私は赤葦のことを特別視していた。さらに、光太郎のお気に入りのセッターというお墨付きということも判明した。赤葦は自分の周りにいた男子とは違うタイプだった。話し方も返ってくる返事も、自分とどこか似ていた。「お互いぼーっとしたまま話していられる」と梓沙に伝えれば、その返答は「特別なことはなくて、言葉のやり取りだけで、さらには無言でいても気にならないって最強じゃん」だった。その通りだった。



「・・・・・・」
「赤くなってはいるけど、切れてはないから、とりあえず濡らしたタオルで冷やして」

そう言ってくる赤葦は、目の前にいた。ブランコの着地でしゃがみこんだ私は額を柵に打ち付けた。鈍い音がした後、ぼーっとしている私の肩を掴んで名前を呼んだ赤葦は、慌てた顔で前髪のかかっていた額を問答無用で確認していた。あぁ、近いなぁ・・とか、肩と頭に触れている手の大きさだとか、普段遠い顔の距離だとか、どうしてこう、男子のパーツに弱いんだろうか。そんなの他の男子にだって当てはまるのに、特別な人の、そういうのはひどくドキドキする。さっきの今で、私も現金だ。よく、男子より女子の方が後を引かないというのは本当なのかもしれない、なんて思う。

「椿」
「うん・・・」
「はぁ・・・そういうところは木兎さんに似なくていいから」
「光太郎なら、柵、超えただろうね」
「・・・・・なんでもいいから、ほら早く冷やす」
「う、うん」
「痛いよね」
「痛いけど、なんか、あんまり感じない」
「・・・石頭?結構な音したけど」
「でこって、頭に入る?」
「くだらないこと言ってないで、さっさとでこだして」
「・・・はい、ごめん私のタオル出せばよかった」
「いいよ、使ってないのあったから」
「・・・・・・」
「・・・・・・」

赤葦の手が、濡れたタオルを私の額につけた。思わず目を閉じれば、額の痛みがジーンと伝わってきた

「赤葦って、興味のないものには無頓着?」
「・・・また、いきなり何」
「梓沙にさ、私と赤葦を選んだ理由を聞いたから、ちょっと気になって」
「選んだって、あの時の?」
「そう、です。赤葦、タオル受け取るから手、放して」
「放すよ」
「うん」
「・・・無頓着ってほどじゃないけど、どっちでもいいって感じかな」
「・・・・・」
「人間みんなそんなもんじゃない?」
「そうかもだけど」
「少なくとも、嫌いなものに時間は割かないかな」
「私は、嫌いなものにも時間割いちゃうから、興味のないものとして処理する」
「へぇ・・・」
「梓沙曰く、興味ないものとあるものに対してのテンションの落差が私たちは似てると思ったってさ」
「まぁ、あながち間違いじゃないと思うけど」
「そう?」
「うん」
「そうなんだ」
「椿、ついでに顔も拭いていいよ」
「・・・・汚い顔でごめん」
「・・・良かった、ちょっと元気そうで安心した」
「・・・・いつもそうだよ、赤葦に話すと気持ちが楽になる。ありがと」
「どういたしまして。・・・じゃぁ、家まで送るから」
「時間いいの?」
「平気、親には連絡入れておくし」
「うん。タオルは、洗って返すから」


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