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『・・・そこ私の席だって言ってるでしょ!』
「あ゛?今、福ちゃんと話してんだよ」
『これ言うの何回目だと思ってんの!』
「すまない、椿。次のレースの話をしていてな、」
『それは、いいけど。もうすぐチャイム鳴るよ』
「!」
「っせぇな、どけばいいんだろ、どけばヨ!!」
『そうそう、どいてくれればいいの』

そう言ったところで、本当にチャイムが鳴ったので荒北はクラスに戻って行った。あいつが座ったせいでずれた机を直した。

「椿は荒北と仲が悪いのか?」
『うん、でもなんで?』
「いや、荒北と話している時の椿の声に違和感があったからな」
『嫌いな相手に楽しく話しかける人なんて、あんまりいないんじゃないの』
「・・・・・」
『・・・福富くんの友達に対して嫌いとか言ってごめんね。でも、昔色々あったからさ。向こうも私のこと嫌いだろうし、私も好きじゃないの』
「・・・いや、構わないが」

続きを聞きたそうにしているけれど教師が教室に入って来たので、私は前を向いて授業の準備をした。彼と荒北が仲がいいとなると、しょっちゅう顔を合わせることになるのかと思うと嫌になる。確かに高校に入ってから話す機会は何度かあったけれど、それでも小学生の時の恨みは消えそうにない。自分で思っているよりも根に持つタイプのようだ。少なくとも昔は一緒に遊ぶ数人の中の2人だった、教室の外から“外行くけど椿も来るかぁ?”とボールを見せながら誘ってくれる男子の中にあいつはいたし、声をかけてくれることもあったはずだ。嫌なら最初から誘わなければいいのに、仲間に入れなければいいのに




その日の授業を終えて、委員会のために図書室に向かう
「新零が男捕りにかかったな」『うっ・・別に捕るつもりはないけど』「けど、品定めするんでしょう?」『品定めって誤解を招く言い方しないでよ、私はただ』「文学男子が見たいってか」『・・・・・』
という会話をしたが、その通りで、不純な理由で図書委員を選んだ。昼休みや授業後に時間を取られるが、何かしらの出会いを期待したのは事実である。私自身、本を読まないわけではないが少し苦手で読むペースは少し遅い。

「椿、今日から当番だっけ。お前、図書委員初めてなんだろ?」
『はい、でも大体説明聞いてわかったので大丈夫ですよ。先輩は貸出ですか?』
「じゃぁ、椿の仕事第一号ってことで」
『大げさです』
「・・・あ、それじゃなくて、そっち」
『・・・・・・わ、わかってます』
「本当に?仕方ないから先輩がしばらく付き合ってやる」
『えっ?!い、いいです。自分でやります』
「ま、どうせ寮戻っても本読んでるだけだから、ここでも読んでても変わらねぇし」
『・・・そうですか』

3年の図書委員の先輩。
図書委員は当番で時間を取られる関係で、本好きで、部活に入ってない生徒が好き好んでやるため、私のように未経験者が突然なることは少ないらしい。顔見知りばかりの委員会に背の高い女が入って来たものだからいい意味か、悪い意味でか目立ったようだ。そして、この先輩はなんだかんだ構ってくれて、今もこうして私の横で引き出しの説明をしてくれている。

「椿って、背いくつあんの?」
『170です。』
「やっぱ高いな、モデルみたいでかっこいい」
『・・・・先輩は?』
「俺は確かこの前の身体測定で・・・179.6だったな。確か、あと少しで180だってのに中途半端でさ、あと数ミリくらいなんとかできたのにって」
『ずるはいけませんよ、ずるは』
「計る直前にストレッチして背伸びしとけば、少しくらいなるだろ」
『あれって、本当になるんですか?私、やったことない』
「迷信は信じないと意味がないんだぞっ」
「2人とも、図書室では静かにでしょう?委員がしゃべってどうするの」
『あ、すいません』
「すいません」

顔を見合わせて、少し笑ってお互い違う本を開いた
黒髪に眼鏡で長身で話もしやすくて、よく笑う文学男子である先輩を好きになるまでに時間はかからなかった。


「椿っ!」
昼休みに教室に顔を出した先輩に驚きながら、近寄れば、この前メールで言っていた本を持って来たのだと、わざわざ来てくれた。それを受け取って、少し話をして夏葵の元に戻れば、興味津々という様子で迎えられた。「やだぁ、新零ちゃんが女の顔してる」『うるさいっ。やっぱり先輩かっこいい』「恋する乙女はかわいいねぇ」『ちょっと夏葵、声大きいっ』



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