12 「ねぇ、これって椿さんだよね?」 『え・・・うん』 「ほらっやっぱりそうじゃん!」 「いいなぁ背高くてモデルみたいだし、いつもこういう服なの?」 『気分によってまちまちだけど、モノトーンなの好きで』 「化粧違うとやっぱり雰囲気かわるよね。去年の椿さんの男装かっこよかったし」 実家に戻って、夏服を買いに出かけた時に道で声をかけられ、質問に答えて写真を撮られた。もしかしたら、ファッション雑誌に載るかもしれないけどいいかと尋ねられ、了承した結果である。まさか、載るとは思っていなかったけれど嬉しい。 「椿さんっ!!聞いたぞ」 『東堂くん・・何?』 「この美形を差し置いて、雑誌に載ったそうだな!さっき女子に見せてもらったのだよ」 『偶然、道で声かけられてね』 突然声をかけられたので何かと思えば雑誌のことだった それほど大きく写っているわけでもないのに、よく見つけるものだなぁと感心する。一応、私も雑誌買ってみようかなぁなんて、今更すぎて買いづらいので百合か夏葵に頼もうかなぁ・・・寮に戻って、共有スペースにある雑誌をパラパラとめくって、どんな記事だったのかを確認した。その手の人のコメントと評価が書かれていて、なるほどなぁと思う。いつも買う雑誌ではないので少し新鮮だ。 携帯が震えたので、はっとして確認すれば委員会の先輩からのメールだった 内容は、雑誌のことだった。先輩のクラスの女子がこの子どっかで見たことあるというので確認したら私だったというわけだ やっぱり、先輩はモテるんだろうなぁ・・・女子に雑誌を見せてもらうなんて誰でもできるわけじゃない。前に借りた本を読み終えて3年の教室に顔を出したら笑顔で迎えてくれた。持って行った本と交換で、ならこれも読んでみてよ、俺のお薦めと新しく本を受け取って、また先輩に会いに行けると嬉しくてたまらなかった。図書室で勉強しているところも何度か見かけたけれど、勉強はできる方なんだろうか?テストの時に、やばいと言っている人に限って元々ある程度やっていたりするので本当のところは数字を見なければわからない。 “ありがとうございます! 実家に戻って買い物に出かけた時に偶然声をかけられて写真を撮られたんです。 あ、先輩、もしかして女子って、彼女さんですかー?” と、少し探りを入れれば、否定の言葉が返ってきた また、ドキリとして深く聞きたくなる 好きな人はいるんだろうか・・・ 「新零、顔赤いけどどうしたの?」 『百合・・・お風呂上り?』 「うん、彼氏と電話する約束してるから先入っとこうと思ってね」 『そうですか』 「で、何々。あ、例の先輩からぁ?」 『そうだけど・・・』 隣に座ってメールを覗き込んでくる百合をそのままに、どうしようかなぁと膝を抱えた 「好きな人がいるかとか聞いちゃえばいいんじゃない?この流れならおかしくないと思うよ。どんなタイプが好きですかぁ?とかさ」 『・・・だめ、ハードル高すぎる』 「そんなこと言ってたらいつまで経ったって彼氏できないよ」 『うっ・・・』 「新零は色々気にしすぎだって。雑誌、私も見たけどさ、もっと自信持っていいと思う。あ、そうだ」 『ん?』 「東堂ファンクラブって知ってる?」 『東堂くんは知ってるけど、ファンクラブがあるの?』 「そう、あるの。それでね、新零が東堂に話しかけられるのを見てた子たちが、あまりいい顔してなかったから気を付けた方がいいと思う」 『私、何もしてないのに』 「女の嫉妬は怖いからねぇ」 「あ、2人ともこんなところにいたの?」 『夏葵もお風呂行くの?』 「まだ入らないよ、ちょっと男子寮に用があってさ」 「夜這いか」 「違う違う、廊下で拾って本人に返すの忘れて持って帰ってきちゃって。さすがに携帯はまずいからさ。さっきから鳴ってるし」 『誰のかわかるの?』 「一応外の画面に新開って出るから、新開くん呼べばわかるかなぁって」 『ちょっと貸して』 そう言ってる傍から音を立てた携帯を受け取って出てみれば、「あれ?椿さん?」と新開くんの声がした。 勝手に出たのは申し訳ないけれど、これで誰の物かはっきりする 『友達が、携帯拾ったから今から届けに行くところだったんだけど。これって』 「これ、靖友の携帯なんだ・・・あ、靖友、おめさんの携帯、椿さんの友達が拾ってくれたってさ」 『・・・・・・・・・』 電話の向こうで荒北が何か言ってるのがわかる 通話口を塞いで『荒北の携帯だって』「じゃぁ、後は頼んだ」『え、なんで?』「私、荒北くんと話したことないし」『・・・・・・』 「今から靖友がそっち取りに行くから外で待っててくれる?」 『・・・ん、わかった』 通話を終了して、仕方なしに足を椅子から降ろす 夏のルームウェアを着るには肌寒くて、風呂に入る前のつなぎのため上下黒のジャージだけれど相手は、荒北なのだから着替える必要もないかと自分の携帯をポケットに突っこんで『ちょっと渡してくる』と2人に言って寮を出た。取りに来るのだから、こちらからは出向かなくていいか・・めんどくさいしと寮の前にある階段に腰を下ろした。 「椿」 『あー来た来た』 「どこで拾ったんだヨ」 『私じゃなくて、友達が廊下で拾ったってさ』 「・・・中見てねぇだろぉナァ」 『見てないよ。さすがにそんなことしない』 「・・・ありがとって言っといて」 『私には、何もなしか』 「拾ったのは、てめぇじゃないからな」 『あっそう。じゃぁ、私部屋に戻るから』 「あー・・・」 『何?』 「何で、お前さ。バレー続けなかったんだヨ」 『・・・・荒北に関係ない』 「それなりに評価されてんのに、なんでやめたんだって聞いてんだ」 『・・・バレーは好きだよ。私より背の高い人いっぱいいるし、その中でもそれなりにやっていけると思う。でも、』 「・・・?」 『言ったら、荒北怒るから言わない。じゃぁ、おやすみっ』 「ハァっ?!」 スポーツに全力な女の子は、すごいなって思う かっこいいし、引き締まった身体もいいなぁって思う。でも、私はそれができなかった。自分の理想の姿からは離れたくなかった、着たい服が着たい。中学3年間全力でバレーを続けた結果、驚くくらい筋肉がついてしまった。おそらく付きやすい体質だったのだ。みんなで目標を掲げて練習に練習を重ねることも、辛いことも、逃げたいことだってあったけれど楽しかった。それでも、自分の優先したいものはバレーじゃなかった。 荒北にわかるわけない 怪我で野球が続けられなくなったあいつには、私のやめた理由は受け入れてもらえない ・・・違う 真剣にスポーツをしている人には、あまり言いたくなかった なんでこんな思いにならなければならに 私が、好きにしていいことじゃないか 責められるようなことじゃない 荒北のあの目が好きじゃない あの時と同じ目だ ←→ 目次 |