13 用もないのに、わざわざ図書室に行って本を探すふりをして先輩の様子をこっそりと見ては目を逸らした。 やっぱり、かっこいいなぁ こんなに人を好きになったのは初めてかもしれない 家族以外で頭を撫でてくれたのも記憶の中では先輩が初めてだ 「取ろ・・・椿なら届くか」 『せ、先輩』 上の方の棚に入った小説を取ろうと手を伸ばせば後ろから、すっと手が伸びてきて驚いたもののすでに私の手は本に触れていた 『どうしたんですか?』 「勉強ばっかりでやんなったから、なんか読もうかなぁって。そしたら、可愛い後輩が見えたから声かけてやろうかなって」 『可愛いって言うのは、もっと可愛らしい子に言ってあげてくださいよ』 「俺からしたら、お前も十分可愛いもんだ」 『そうですか』 「3年間図書委員やってきたけど、お前みたいなのって珍しいからな」 ニッと笑って、私が取ろうとしていた本を取って渡してくれた 「背伸びする時は、自分のスカートの長さを考えた方がいいぞっ椿!」 『っえ。ちょっと先輩、まさか』 「際どかったがセーフだセーフ」 『先輩の変態』 「忠告してやったというのに、変態とはなんだ変態とは」 怒ったふりをして眉間に皺寄せる先輩に、なんだかおかしくて笑ってしまった 「お、今日はいい日だな」 『何がですか?』 「椿が笑ったからな」 『?』 「なんだ、気づいてなかったのか。お前、男の前でそんな風に笑わねぇんだよ」 『そんなことない・・・?』 「こうニッて感じで、微笑むって感じはあるけどな」 『そ、そうですか・・・』 「こう、もっとふにゃって笑ったらいいんじゃないか?女子にはよく笑ってるだろ」 『無意識ですよ』 手にしていた本を貸出しカウンターに持って行き手続きをしてもらい、足早に図書室を出て寮に向かう。顔が熱い、期待しないわけじゃない、でもきっと先輩は、みんなに対してあーいう接し方をするんだと思う、だから私は好きなんだ。部屋に戻って鞄を床に落とし本を机の上に置いて、その場にしゃがんで顔を覆った。先輩は当然のことながら3年生だから、普段の教室の様子が見たくても見れない、放課に本の貸し借りの時に行って少し覗く程度だ。もっと知りたい・・・先輩のことがもっと知りたい・・・・・ 学期末テストも終わって、2年前期の球技大会も終わり 夏休みに入って数日経った 先輩とはなんの進展もなく、好きな人がいるのかさえ聞くことができなかった 寮でごろごろとしていても仕方がないので、軽く荷物をまとめ宿題をキャリーに詰め込んで実家に帰ることにした。百合も夏葵も実家に帰ってしまっているので、寮にいても暇なのだ。 実家に戻れば両親がいるだけで兄たちは、各々1人暮らしのためのんびりとできるはずだ 2人とは遊ぶ約束しているけれど現地集合なので問題はない キャリーを引いて、最寄駅のホームを歩いていると見覚えのある人物に、足を止めた。気づかれないうちに後ろを通ってしまおうと方向を変えるため視線をずらしたのだが、向こうがこちらに気づいてしまった ここで出会ったということは、最寄駅に着くまで一緒になってしまうというのに 「んだよ、お前も帰ンのォ?」 『寮にいても暇だし、買い物行きたいし。荒北こそ、部活は?』 「部活あるつってんのに、1回帰って来いってうるさくってヨ。用が終わったら、すぐ寮に戻る」 『めんどくさいね』 「だろォだから、嫌だっつってんのに」 『私も、兄がいたらお盆にしか帰らないつもりだったけど』 「あー、そーいや、お前上に3人いるんだったな」 『そうそう、本当むさくるしい』 「一番上って、もうサラリーマンしてんの?」 『うん。2番目も社会人だし、3番目は今年大学卒業。みんな1人暮らししてるから、家には両親しかいないからさ。帰ろうかなって』 「うちは、下ばっかだからな」 『よ、お兄ちゃん』 「っせ」 心底嫌そうな顔をして見下ろされた せっかく、ちゃんと妹の私が呼んであげたというのに 『荒北、ちょっとぴしっとして』 「は?」 そう言いながらも姿勢を正した荒北の横に立てば、身長が確実に伸びていることがわかる。本当に、上に伸びただけというくらい細くて折れるんじゃないかと思う 『背、伸びたね』 「当然だろ」 『気づいたら、東堂くんにも抜かされてたし。本当男子の成長期って怖い』 「お前は、もう伸びてねぇの?」 『伸びてないっ』 「今は?」 『170』 「6cmか」 『何が?』 「俺との身長差」 『・・・なんか関係あんの?』 「前は、あんま変わんなかったろ」 『中学の話?』 「そうそう」 『今日は、ヒール履いてないから、荒北がだらってしてなければね』 「そーだネ」 ホームに電車が入ってくるスカートの裾を少し押えてキャリーのとってを縮めれば、横からひょいっと荒北が持って行ってしまう「どうせ、行先一緒だろ」『そうだけど、それくらい自分で持てるって』「・・・」 比較的空いている車内でなぜに、この男の隣に座らなければならないのか 仲がいいならまだしも、むしろ悪いというのに・・・・・邪魔なくらいに開いている荒北の足が私の足に当たるので、叩いてやれば文句を言いながらも少し狭まった。いつも、うるさいくらいに声が大きいし、喧嘩を売るような話し方をする癖に今日はなんだか静かで、口調も気が入っていないように感じた。 「お前のサーブといいスパイクといい相変わらず容赦ねぇな」 『バレー?』 「球技大会ン時、見かけたつーか、すげぇ盛り上がってただろ」 『あの試合は楽しかったよ。現役部員の子もいたし、メンバー的にも揃っててさ』 「バレー、なんでやめたの?」 『・・・それ、ぶり返すの?』 「別にお前が何て答えようが、怒らねぇし。個人の自由ってやつだろ?」 『怒らないっていうのは、怒るフラグじゃない』 「バレーやってる時の椿の目、好きだったんだけどォ?」 『・・・・・』 「責めてンじゃねぇよ。ただなんでか知りたいだけだっての」 『私がどんな目してバレーしてたかなんて知らないけど。バレーやめたのはさ本当に嫌いでやめたわけじゃない』 「球技大会見てりゃわかんだよ、それくらい」 『・・・体型が変わるのが嫌だった』 「は?」 『筋肉つきやすいみたいでさ、バリバリ中学3年間やったら驚くぐらい筋肉ついて、それが嫌だった。突き指して指が太くなっちゃうかもしれないっていうのも嫌だったし』 「・・・・・」 『ほら、怒った』 「怒ってねぇヨ。全然理解できネェけどな」 『でしょうね』 「動かねぇと太るんじゃナァイ?」 『運動はしてる。程度ってものがあるの』 「できるくせに、やらねぇってのは腹が立つけどな。椿にとっては、バレーよりそっちが大事だったんだろ」 『うん』 「・・・・・・・・」 『荒北は、自転車楽しい?』 「さぁな」 『のめりこんでやってるから、てっきり楽しんでると思ったんだけど』 「まだわからねぇよ、わかんねぇことばっかだヨ」 『そうなんだ。でも、ちょっと安心した』 「・・・・・・・」 最寄駅に着くまで、ぽつぽつと会話をしていたけれど途中から記憶がなくて ふと目を覚ませば、荒北が着いたヨと声を荒げていた どうやら肩を借りていたらしく、改札を出るまでぐちぐちと文句を言われた 『私、向かえに来てもらうんだけど。荒北も乗ってく?』 「いい、歩いて帰れる距離だろ。そうやって車で送ってもらってると太るんじゃねぇのォ?」 『うるさいっ、じゃぁね』 こちらに背中を向けたまま、手を振る荒北を睨みつけながら母に電話をかけた ←→ 目次 |