18

「なぁ、靖友」
「あ゛?」
「おめさん、椿さんと中学一緒なんだろ?」
「中学どころか、幼稚園から一緒だけどォ?」
「俺と寿一より長いじゃねぇか」
「で、なんだよ」
「椿さんって、昔からあんな感じなのか?背の高さとか」
「元々背は高かったな、小6ン時とか俺より高かったし。ガキの頃なんて、俺らとばっか遊んでっし格好も男みてぇなのばっかで、しょっちゅう間違えられてたヨ」
「へぇ、」
「椿に興味あんの?」
「まぁ、綺麗でかっこいいな。去年の、あの3人組は背も高くてスタイルもよくて顔も良しって有名だったし、偶然、1年の時に椿さんと知り合う機会もあったから聞いてみただけだ。心配するなよ靖友」
「は?なんで、心配しなきゃなんねぇんだよ!!」
「違うのか」
「・・・・・」
「・・・・おい、靖友。返事をしろっ」
「っせぇな」
「・・・・・なぁ、靖友」
「んだよっ!!」
「おめさん、何年片思いしてんだ」
「・・・っせぇ!!」
「否定・・・しないんだな」

自分でも、あれはやりすぎたと椿の表情を見てわかった
同じような流れで、違うと誤魔化し、うるさい周りを蹴散らしたいのと照れ隠しでやった。あれが原因で椿が俺を嫌っているのもなんとなくわかった。自業自得。そんなことはわかっている。
大体、あいつが箱学に来ること自体ありえないと思っていた。地元の高校にバレーの強豪校あったというのに、なんでコイツこんなところにいんだよと1年の初めに思った。
それから、なんだかんだ中学よりも絡むことは多かった気がする。
廊下に座り込んでいる椿を見つけた時も、こんなところで何をしてるんだと思ったが、教室の中を覗けば男どもが固まって何か話をしていた。どうせろくでもない話だろうが、入りづらい理由があったんだろうと仕方なしに教室に入って中の連中に座席を聞いた。
男子トイレの前に立っていた椿に驚いたものの、“女子の制服がなくなった”と不安そうに言うので仕方なしに手を貸した。見る限りには本人の制服は整っているが一応確認すれば、大丈夫だった。おそらく被害にあった女のことを考えているんだろう、このお人好しは。自分の制服はあったんだからいいじゃねぇかよと思った。・・・“元気出せよ”なんて気の利いた言葉は自分には言えなかった。

仕方なしになんて言っても、結局、ほっておけなかった
いや、罪滅ぼしなんて言ったら大げさだが、少しでも落ち切った株を上げたかったのかもしれない
馬鹿みたいに視線が椿を追って、いい加減忘れろと思ってもできなかった
1年の終わりに椿に男ができたと聞いたときは馬鹿みたいに焦って、馬鹿みたいに安心した。
2年に上がって、福ちゃんと椿が同じクラスになって自転車のことで福ちゃんの元を訪れるたび椿を見かけることになった。しかも、勝手に借りていた席が椿の席だなんて自分にも少し運が回って来たんじゃないかなんて、柄にもないことを考えた。けれども今は、自転車のことだけを考えればいい。そのインターハイとかいうやつに出るために何をしたらいいのか、今重要なのはそのことだと言い聞かせて考えないように考えないようにと沈めていった。

椿のやつ、また同じようなやつに惚れてんのか

先輩と呼んだ男に対して、見えない尻尾がぶんぶんっと振られているのがよくわかった




俺に対して露骨に嫌な顔をするくせに、特別無視された記憶はない。機嫌が悪そうな少し低い声で単調に話してくる・・・元々男子に対して、あまり笑わない。笑ったとしても女子に向ける物とは大差がある。気にしたくないところだが、自転車部の連中が揃ってアイツのことを話していた時は喧嘩でも売ってるのかと思った。
実家は、地域は同じだけれど、遠からず近からず。外で見かける時はたいてい部活のジャージで私服を見たのなんて野外研修や修学旅行くらいだったが、小学生の時と打って変わって女らしくなっていた。小学校から同じの奴らは、そのままのノリでアイツに接していたし、女装してるみたいだとまで言うやつがいた。“どう見たって、女だろ”と言い返せない自分がガキ過ぎて嫌になる。あいつらの目は節穴なんじゃないかと何度も疑った

こっちに来てからも、距離的に寮生活だよなと思っていたがやはりそのようで、ホームで帰省途中の椿と会った。確実に今、俺を避けようとしたなとイラつきつつ声をかけて、無理やり荷物を持った。隣に座った時の違和感は、おそらく背が高いだけでなくて足も長いことから来るものだと推測しつつ、叩かれた足を少し閉じた。口で言えばいいものをわざわざ叩くなよと文句を言いながらも、バレーを止めた理由を聞きだせば全く理解できなかった。そんな気持ちでバレーしてたのかヨと言いかけたけれど、そんなことはない、あの目は本物だったし球技大会で久しぶりに見たそれも真剣そのものだった、でもやっぱり理解できそうにない。素人目にも綺麗なフォームだというのにもったいないことこの上ない。
「じゃぁ・・・あ?」
くだらない世間話の途中、とんと肩に当たる物があって何かと思えば椿の頭だった。
寝てるのか?と少し顔を覗けば目を閉じて規則正しい寝息を立てている・・・
近くで見ても、中性的と前は言われていたとはいえ、ショートカットの似合う小さな顔は女の物だし、パーツ1つとっても男なんて感じない。綺麗にカールしている睫が本物かどうか、この距離からではわからないとはいえ、見た目を気にしているのは本人だけだ。女らしくなんてしなくたって、女じゃないか。細い手首だって、ふんわりと漂う甘い匂いだって女のものだ。

こっちの気も知らずにヨ
と、頭を窓ガラスに付けて天上を見上げた



2年の学祭の時、アイツのいう先輩を見上げた椿の耳が赤かった
本当に、この男が好きなのか
可愛い顔しやがってと舌打ちをしたくなった

タイミングよく教室から出てきた福ちゃんに助けられたけれど、化粧1つであんなに変わる物なのかと顔に熱が集まるのがわかった。自分も往生際が悪いと思う
それでも、目で追うのだから、自分が気持ち悪くて仕方がない
ストーカーかよ気持ちわりぃ・・・

いっそ全部吐き出して玉砕でもするか

なんて思い始めた



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