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遠目に見ても、アイツが好きだって言っている先輩サンが廊下で誰かと話しているのを見かけた
特に、それを見るつもりはなかったが進行方向にいるのでそのまま近づけば、奥にいるのが女だとわかる。おいおい、まじかよと通りすがりながら会話を盗み聞きしても、アイツにとって都合の悪い物以外の何ものでもなかった。
このことを伝えるべきかいなか、言ったところで信じるかどうかわからないし、そのうち本人の耳にも届くだろう・・・わざわざ俺が言う必要もない。
ほっとした自分と、またダメなのかと思う自分がいる

「・・・・・・」

忘れていた日直の仕事を担任に今からでもいいからやって来いと言われ、適当にやって部活に戻るつもりだった。さっきの先輩サンが他の男子と話しているのが遠目に見える。またかよと息を吐いて、さっさと部活に戻ろうと足を速めれば、2人のすぐ傍の階段から椿が下りてくるのが見えた。おそらく声に気づいて足を止めたのだろう、人気の少ない廊下では2人の会話は自分にも聞こえてくる

「タイミング悪すぎだな」

短いスカートがふわりと回って、自分の方からは見えなくなった
おそらく階段を下りて行ったのだろうなんて、冷静に考えているくせに
すでに走り始めているのだから、誰かに馬鹿だなって笑ってほしいくらいの気分だ
階段前を曲がる直前にちらりと先輩サンと目が合った
向こうも俺とどこで合ったかを覚えているような顔だった


つーか、追いかけてどうすんだよ俺








下駄箱を開けて、ローファーを手にした椿に声をかければ、ぴくりと肩が動いた
こちらを見るわけでもなく視線は落ちたままで、短い髪が目元を隠している
『何・・・今、忙しい』
「泣くのにィ?」
『うるさい』
「今、何考えてんのかわかんねぇけど。男がみんな同じタイプを好きなるわけじゃねぇんだから、背高くたって、」
『うるさい、』

消えそうなくらい小さくて震えた声を拾いながら少しずつ近づいた
ぽとんぽとんと音を立ててローファーがざら板に落ちる

「昔っから背だとか、顔だとか髪型とか気にしてっケド。もっとポジティブに考えらんねぇの?」
『・・・うるさい、荒北が口挟むことじゃない』
靴を履き終えた椿の手首を掴んで向い合せになる
俯いたままで、顔は見えないけれど、泣いていることはわかる

『放して』
「背高くたって、中性的だって言われても、お前どう見ても女だし、あの先輩わかってねぇよ」
『なんで、知ってんのっ』
「さっきの俺も聞いたつーか、あの先輩が告られてんのも見た」
『・・・・・・・じゃぁ何?私の泣き顔見て楽しい?』
「ちげぇよ!!」
『不細工だっていうんでしょう?振られてやんのって、やっぱ、おとこおんなじゃねぇーかって』
「だからっちげぇっ・・て・・」
『そんなこと、わかってる』
「わかってねぇよ!さっきから、言ってんだろ。お前、顔小っせぇし、睫長ぇし、手首もこんな細っこくって、どうみたって女だろ。それをいちいち背が高いだの、髪の毛が短いだの他人に言われてへこんでんじゃねぇよっ!!好きでやってんだろ!!」
『・・・・・』

一歩引いた椿が顔を上げて、俺の手を振り払った
その数秒で自分が言葉を間違えたのがわかる

『何それ』
「は?」
『意味わかんない。何?私のこと嫌いなくせに何言ってんの?』
「・・・・・」

訝しげに涙の溜まった目をこちらに向ける
眉は顰められて、涙の流れた後が頬に残っており
いつもみたいに少し低い音は涙声になって、震えている

『私に嘘ついといて、今更何?信じろっていうの』
「・・・嘘?」
『じゃぁ、何?なんで、トイレに閉じ込めたりしたの?嫌いなら、気持ち悪いなら、最初からほっとけばいいじゃん』
「・・・・・・」
『嘘つき。私、あの時の事、許すつもりない。』
「・・っ」

外に出て行く椿を止めることもできず、小さく聞こえた“大嫌い”に言葉が出なかった

くっそ、なんでこうなった
ガンっと下駄箱を蹴り飛ばして、反対側のざら板に座り込んだ
あの時と同じだ、小さなガラス窓の向こうで見た椿の顔と口の動き
今でも思い出せる
何を言っていたのかあの時はわからなかったけれど
あれはおそらく“うそつき”と言ったのだ





「靖友、早く部活戻れよ。寿一が探してんぞ」
「・・・・」
「・・・?誰だよ、上履き脱ぎっぱなしにしやがっ・・・・・・」




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