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座り込んでいた靖友を見つけて声をかければ、反応がない
どうかしたのかと聞こうと思ったが、1か所だけ空いたままの靴箱を見て視線を落とせば、脱いだままの上履きがあった。まぁ誰かと話していてうっかり忘れることもあるか・・・なんて思いながら拾い上げ箱の中に戻そうとして、それが椿さんの物であることに気づいた
何かあったんだろうか
そういや、図書室で先輩らしい人と仲良さ気に話しているのを見かけたが、まさか靖友のやつ告白して失敗したのか・・・?失恋ってやつか?だが、普段の様子からして椿さんが靖友を良い様に見ているとは思えなかったし、おそらく本人も気づいていただろう

「なぁ、靖友」
「るっせ、何でもねぇよ!!さっさと、部活戻ンぞ!!」
「あ?あぁ」

バッと立ち上がった靖友に驚きながら返事をして、後を追う
付き合いは長いというほど長くはないが、それでもどこかへこんでいるように見えた
部活が終わってから聞いてみるか















自分が、何が悲しくて泣いているのかわからなくなってきた
早く寮に戻って落ち着きたい
止まってくれない涙を手で拭いながら、早足に慣れた道を歩く
我慢しようとしても視界はどんどん歪んで行って
分かっていたはずの寮の手前の階段に足を引っかけてころんだ
誰かに会う前に部屋に戻ろうと、すぐに立ち上がって走ったので
幸い声をかけられることもなく済んだ

扉を閉めて、そのまま背中を預けて座り込んだ
擦りむいた膝から血が出ていることに気づいて、急に痛みを感じ始める
転んだ衝撃で泣き止んでいたのに、痛くて痛くてまた涙が出てきた

流れてしまった部分をタオルで拭いて、ティッシュで傷口付近の血を吸わせ
絆創膏を求めて床を這った
少し血が止まるのを待って消毒しないで貼る絆創膏を貼りつけた

ここまで泣きながらやって、やっとベッドにたどり着いた
座って、横にパタリと倒れる
スカートに皺ができるなんて思っても、もう動きたくない
すごく体が怠い
目も腫れぼったくて、掛布団をひっつかんでそのまま目を閉じた






鞄に入れていた携帯のバイブの音が、かすかに聞こえて目を開けた
目が重たいし、頭もぼうっとしていて動きたくない
けれどもだんだんと振動音が嫌になって、そろそろと布団から抜け出たが
鞄に触れたころには音は止まっていた

百合と夏葵から何回も電話がかかってきている
ふと、携帯の時計を見て
すでに朝8時を過ぎていることに気づいた
もう、朝なのか
そういえば制服のまま、お風呂にも入らず、あのまま寝てしまったのかと・・・
姿見に写った自分を見て嫌になる
酷い顔だ。寝癖も、服装も、ぐちゃぐちゃで、学校に行けそうもない
顔をよく見れば、泣いたことがわかるくらい腫れているじゃないか
喉も痛くて、膝も痛い

百合と夏葵に学校休むとメールを入れ
制服を脱いで部屋着に着替えベッドに戻った。
寮生は学校を休むと実家に電話が行くようになっているため、もしかしたら母から電話が来るかもしれないと、携帯の電源を落とした

横になって、昨日のことを思い返す
私、何が悲しいんだろう・・・
先輩に彼女ができたこと?
後輩としてしか見てもらえていなかったこと?
そんなこと初めからわかっていたことじゃない・・
失恋には違いないかもしれないけれど

大体、荒北はなんであの場にいたんだ
どうして追いかけてきた
なんで、あんなことを言った?

『・・・大嫌いは言い過ぎたかな』

私もそれだけ余裕がなかったのかもしれない
でも、あいつも先輩も嘘つきだ、裏切った
自分で言った癖に、結局っ

少しでも早く腫れを引かせたいから我慢したのに
涙が堪えられそうにない

傷つかないように嘘を言うくらいなら、最初から本当のことを言ってほしかった
そうすれば、傷つくのは1回で済むのに


『先輩に彼女かぁ・・・・っ』
私、中学からこんなのばっかりだ
それも、それもあれだ
小さい女の子ばっかり・・・

『・・・・・』

コンコンとドアをノックする音が聞こえて、涙を拭った
声からしても寮母さんなのでためらいなく戸を開けた、ここで開けないとスペアキーでどっちにしろ対面することになる。“あらあら、目が真っ赤ね”と優しく笑ってくれた寮母さんと少しだけ話をして、熱があるかどうか風邪ではないかというチェック項目に答えた。“今日は、泣いて泣いて泣きなさい。風邪ってことにしてあげるから”とウインクをして戻って行く寮母さんに感謝して、自然に止まるまで泣くことにした。その結果、知らないうちに眠ってしまって起きれば夜中の1時だった。シャワーだけ浴びたくて、シャワー室へ向かうため部屋を出れば、何かが下に落ちた。拾って、確認すれば夏葵と百合の名前が書かれた手紙だった。そう言えば携帯の電源を切ってしまったから心配をかけたのかもしれない・・・
良い友達と出会えたなぁなんて、やっと少し笑うことができた









部活中、なんら変わった様子も見せなかったものの更衣室に戻ってからは、やはり様子がおかしかった。部活が終わって、晩飯も終わって、さっさと部屋に戻って行く靖友を見ながら、そのおかしさに尽八や寿一も気づいているため、その後一斉に私室に押し掛けた。寿一を先頭に中に入って座ってしまえば、靖友が出てけと唸ってもあきらめるだろうと判断し、決行した。

「で、揃って、何しに来たんだヨ」
「椿さんと何かあったんだろ?」
「お前が椿さんのことが好きだという話は、隼人からすでに聞いている。女子のことは、この美形に聞くと良いぞ荒北!」
「るっせ、何もねぇよ!!」
「何もないわけないだろ。お前の様子といい上履きといい」
「荒北、悩み事は早めに解決した方がいい。」
「福ちゃんまで、何言ってんのォ・・・」
「ところで、荒北。いつから好きなのだ?」
「・・・・・お前ら俺から全部聞くまで居座る気かよ」
「あぁ、もちろんだ!」
「うっぜ」
「うざくはないな。で、どうなのだ?」
「小5」
「「「・・・・・・・」」」
「・・・・お前ら黙んなよっ!!!あ゛?!!聞いといてシカトかよ!!」
「す、すまん・・・だが、それは単純計算で6年以上ということか」
「別にいっつも、そのこと考えてるわけじゃねぇけどな」
「・・・・・一途だな靖友。で、今日のは何だったんだ?」
「俺が聞きてぇヨ」

ずーんという音が似合いそうなくらい落ちている靖友が、気のない声で説明し始めた。つまり、あきらかに失恋した椿さんを慰めようとして怒らせたと。・・・もうどうにでもなれよと視線を変なところに飛ばしている様子からして、相当きていることがわかる。ずっと好きだった女子に大嫌いとまで言われば確かに、そうとうくるかもしれない・・・

「とりあえず、明日、謝るしかねーけど。口聞いてくれっかわかんねー・・・」
「しかし、荒北よ。嘘つきというのは、お前が何かしら覚えているのではないか?」
「それが、わかんねぇの。思い出せネェし」
「だが、それがわからずに謝ったところで許してはくれんのではないか?」
「それに、そのトイレに閉じ込めたってのが照れ隠しだって説明しねぇと椿さん完全に勘違いしてるだろ」
「そうだな。2年の頭に、荒北と仲が悪いのかと聞いたら、そうだと言っていた。それと同時に、お前も椿のことが嫌いだろうと言っていた」
「・・・・・」

情報として言ったのだろうが、嫌いの一言に靖友の上に石が落ちたのがわかる

「なぁ、椿さんは、あの先輩に対しても嘘つきって言ったんだろ?」
「・・・あぁ」
「部活行く前に図書室言ったんだが、そこで椿さん、先輩と話してんの見ててさ。外見より中身が重視とか背がどうのとか聞こえたんだけど。廊下で話してた内容と関係あったりしねぇ?」
「・・・・・・・しっかり覚えてねぇけど、椿はかわいい後輩だからーとか、綺麗でかっこいいとか、別に嫌いって話じゃねぇし。あー・・・・・・」
「なんだ、心当たりでもあるのか?」
「・・・小さい子がどうのってやつか」
「それだな。まぁ、俺らより、おめさんの方が椿さんには詳しいだろうからわかんねぇけど。似たようなことがあったんじゃないか?」
「それが“嘘”ってことだと俺も思う。しかし、椿さんも背を気にせずとも、あの美脚と体のラインはモデルみたいで綺麗だがな。ショートカットが似合う女子は、俺も好きだぞ!・・・だが、人の好みとは千差万別だからな」
「その先輩も、椿さんを傷つけねぇようにって言ったんだろうけどな。なぁ、靖友、その椿さんに暴言吐いたって言う前に、逆の事言ったんじゃないのか?」
「お前が、慰めようとして具体的に何を言ったかはわからんが。信じられないということは、言っていることが一転二転したということだ。それを思い出せば、椿さんも鬼ではないだろうから少しは変わるんじゃないか?」

そこまで行ったところで、何かしら考えるように窓の方へ視線をやった靖友を残して部屋を後にする。「あいつも不器用な男だな。俺なら少なくとも、上手く慰められたな」「ま、泣いてる椿さんをほっとけねぇってところが、靖友らしいんじゃないか?」「ところで、誰も椿さんの連絡先は知らんのか?不思議なことに俺たちは揃って友人だというのに」「そういや、聞くの忘れてたな。そういう尽八も知らないんだろう?」「まぁな。荒北もおそらく知らんだろう」「俺は去年の委員が同じだったからな、当番の時に聞いた」「「!!」」







翌日、椿さんは学校に来ていなかった
寿一の携帯でメールを入れても返事はなく、彼女と仲良くしている小野原さんに聞いても、昨日の夜から連絡が取れなくて、朝のホームルームの前にやっと学校休むとメールがあったと聞いた。




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