23 逃げられる前に捕まえようと思い、A組の前まできた。教室を覗いても見当たらず、廊下を見渡しても目線に入ることがない・・・逃げられたかと思って視線を下げれば、廊下に設けられた個人ロッカーからごそごそと何か取り出している椿がいたので、そっと近寄って傍に立った。 『・・・・・・・・』 「・・・・・・・・」 『・・・・・・・・・』 「・・・・・・・・・・・っ、ちょっと来い」 『えっ・・』 半ば強制的に腕を引っ張り、人の移動の多い廊下をぐんぐんと進む。腕が振り払われないことに少し安心して、速度を落とした。遅れて歩いていた椿が横に並び、『どこ行くの?』と聞いてくるが特に答えずに手の力を弱くした。口もきいてくれるらしい 階段側の廊下を通る途中、下の階から階段を上ってきた先輩サンが視界に入り椿が気づかないうちに先へ進もうと強く引っ張ろうとした時だった。空気よまねぇのかよ、この先輩サンは!! 「あ、椿!良かった、間に合った。借りてた本、読み終わったからさ。返そうと思って・・・・椿大丈夫?金曜日の当番もいなかったから心配したんだけど」 何もなかったように椿に話しかける相手にイラつくが、向こうは事情なんて何も知らないのだから悪意があるわけじゃないはずだ。立ち止まって下を向いたまま返事をしない椿に「いいのかヨ」と声をかけ顔を覗き込めば、思わず顔が引きつった。泣かないように口を強く閉じているものの目には涙が溜まっているため誤魔化しようがない。仕方なしに掴んでいた腕を放し、両肩に手を置いてぐるっと先輩サンの方に椿を向けさせた 「中学の担任が病気で亡くなったって今話したところなんで、酷い顔してますけど良ければどうぞ」 「あぁ・・・そうか。それは辛いな・・・・」 「病気開けで余計弱ってるんで、気を付けてクダサイ」 とんっと背中を押してやれば制服の袖で涙を拭って少し顔を上げた 「椿、あんま擦ると目赤くなるから」 『はい・・・すみません』 「ハンカチいるか?」 『大丈夫です、持ってます』 「タイミングが悪くてすまん。本、面白かったからな!元気出せよ!」 『・・・・はい』 椿の頭をぽんぽんと優しく触れてから、俺に視線を上げた先輩サンは、俺が泣かせたとでも思っているんだろうか、厳しい目つきでこっちを見てくるので睨み返しておいた。お前のせいで泣いてんだよと大声で言ってやりたいが、それこそ後戻りできなくなるので、ぐぐぐっと我慢して先輩サンがいなくなるのを待った。 『荒北ぁ』 「何だよ」 『慰めるって、あーやるんだと思う』 「っせぇ。一々泣いてんじゃねぇよ」 『荒北・・・』 「何だよ、1回で言えよ!!」 『ありがと』 「うっぜ、泣くかしゃべるかどっちかにしろヨ!!」 ごそごそと鞄からタオルを出して目元を覆った椿の腕を再びつかみ、人気のない廊下に移動した。この時間に人がいないということは、掃除も部活もないということだろうと腕を放せば、そのまま廊下の壁に背を付けて、床に座り込み膝を立てて顔にタオルを広げた。 「ったく、泣き虫だネ。椿チャンは」 『うるさい』 横に座り込んで様子を窺うが、この前ほど泣いているわけではなさそうだ 『それで、ご用件は』なんて、タオルを顔に当てたまま話すせいでくぐもって聞き取りにくい 「あー・・」 『何、忘れたの?じゃぁ、私が先に言う』 「は?お前、先に自分が言いたいだけだろ」 『大嫌いは言い過ぎた。ごめん』 「・・・・・・・・」 『嫌いだけど、そんなに嫌いじゃない』 「どっちにしろ嫌いなんじゃねぇかよ。お前、よく本人目の前にして言えんネ」 『言われるようなことしたんだから、胸に手当てて考えてよ』 大きく息を吸ってから、タオルから顔を上げて綺麗に4つに折りたたんで膝の上に置き『それで?』とこちらに視線を送る。 「お前が怒ってるのってよ、小5ン時の閉じ込めたやつの事だろ」 『なんだ、覚えてるじゃん』 「・・・・どっから話したらいいか、わかんねぇんだけど」 『?』 「あれの少し前に、なんで女のくせにそんな恰好してんだって聞いたこと覚えてっか?」 『・・・・・・・・・覚えてる』 「あの時、いつも遊んでた連中いただろ?」 『いたね。中学も一緒だったし』 「あいつらに、話してるところ見られててよ。あの後、“お前、椿のこと好きなのか”って散々冷やかされて、頭にきちまって、お前に暴言吐いて閉じ込めた。ガキのころだから許せとか言わねぇけど、・・・その、なんだ」 『・・・照れ隠しでやった』 「・・・・・・そーだヨ。悪かった、・・・・・・まじで謝る」 『・・・・・』 「それと、お前らしくていいと思ったのは、嘘じゃねぇ」 『・・・・・・』 「だから、この前のあれも嘘は言ってねぇ」 『・・・・・そうですか』 お互い反対側の廊下の壁を見ながら、独り言のように話していた さて、どうしたものかと少し顔を上げ、そっと隣を見たが 膝を抱えて反対側を見ているため椿の様子は全くわからない 「そういや、お前、膝の怪我どうしたんだヨ」 『・・・・寮の前で転んだ』 「どんくせぇ・・・」 『・・・・・・・・』 「あのヨ、椿」 『何』 「お前、なんで俺の事、無視しなかったわけ。嫌いなんだろ?」 『・・・・・・・荒北ってさ、すぐ暴言吐くし口悪いけど』 「・・・・・・」 『困ってる人見たらほっとけないタイプでしょ?口では色々言ってるくせにさ。だから、その部分に対しては、無視しちゃいけないなって』 「ンだよそれェ」 『一応、褒めてる』 「・・・・あっそ」 『許すつもりないよ、私。照れ隠しだろうがなんだろうが、やったことはやったことだと思う。あの日、家帰ってさ、親に心配されるくらい泣いたんだよ。なんでかわかる?』 「・・・・・わかんねぇよ」 『荒北が、“お前らしくていいんじゃなぁい”って言ってくれたの、すごく嬉しかったんだよ』 「・・・・・・」 『だから、それが嘘なんだって思ったらすごく悲しかった。お母さんにもお兄ちゃんたちにも、なんで、そんな髪短くするんだって、この服はどうだって、かわいらしいピンクのワンピースとか薦めてきて、妹らしくしてくれって言われてさ。好きでやってるのに、どうして色々言われなきゃいけないんだろうって。だから余計反発してさ・・・・だから、嬉しかったんだよ』 どんな表情で話しているのかはわからないが、あの時の笑顔の理由がわかってきたと共に、あれ、これ振られてんじゃないの?って今度は俺が泣きたくなる。そっぽ向いていた椿が顔の向きを変えてこちらへ視線を向けた。 『勘違いして、ごめん。でも、嘘でも照れ隠しでもしてほしくなかった』 「・・・・・」 『でも、もう嫌いとは言わかないから。友達やりなおそう?』 膝から顔を上げ差し出された椿の右手を見て、その手をとるべきか悩む。言いたいことが伝わりきってない、そりゃぁ当然だ、言葉らしい言葉にしていないし、あれが起きたのも小学生のころの話だ。不思議そうな顔をしている椿の左頬を引っ張って「そうじゃねぇよっ」と声を張り上げてしまった 『?』 驚いた顔でこちらを見るのは・・・まぁ、当然で ぽかんと俺に引っ張られたまま瞬きを繰り返している。頬から手を放して、身体ごと椿の方に向けた 「そうじゃねぇの。照れ隠しだって、お前が言ったんだろ。そこまでわかってて、友達つーのは、それは」 『・・・・だ、だって5年生の話で』 「中学でお前が好きだったやつは、2人とも黒髪メガネで長身で、教室で本ばっか読んでるやつだったな」 『あぁああ・・・なんで、知ってんの?!』 「しかも、そいつらに彼女できたろ。小っせぇ女の」 『・・・・・人の傷をえぐっ』 「修学旅行で、男バレのやつに告られてたろ」 『あ・・ああ、あれは』 「ついでに女にも告られたな」 『だから、なんで知って』 「わかんねぇのかよ」 『す、ストーカー』 「ちげぇよ」 『・・・・・・・』 なんとなく察したのか視線が泳ぎ始めた 眉が下がって、困り顔も新鮮だなぁなんて思いながら名前を呼んだ 「椿」 『何』 「好きだ」 『・・・・・』 「付き合って」 『・・・・・っ』 「だめ?」 『・・・だめっていうか、だって、え?』 「新零チャンのこと、多分あんときから好き。いつからかはっきりわかんねぇけど」 『・・・・・意識したことない』 「だろーね。お前、俺見るたびに声低くなるわ、機嫌悪そうだわ」 『だって、嫌いだったし』 「お前が俺の事好きって言うまで何もしねぇよ。他の奴を好きになったら、それでいい。しゃぁねぇから手放してやる」 『・・・・なんで、』 「今更1年、2年そう変わらねぇし。俺がお前のタイプじゃねぇことも知ってんの」 『・・・・・・・・・』 「嫌なら、さっさと振れ。そしたら、あきらめっから」 『ちょっと待って、』 「ダァメ、今答えろ」 『なんで、そこだけ厳しいの?!』 「なんでもいいから、早くしろっ。考えたって、どうせ答えでねぇんだから。考えて出んだったら、あの先輩サンにもさっさと告っただろ」 『もう、またそうやって話をぶり返すっ!!』 「御託はいらねぇからな。イエスかノーか」 慌てながらも考えてんのかわかんねぇけど 頬が少しずつ赤くなってきたことに少しだけ満足した ←→ 目次 |