30 冬休みに入って数日経ち、寮生の帰省が始まった。もちろん私も実家に戻るので、課題や必要なものをキャリーケースにぽいぽいっと詰めていく。ちなみにクリスマスシーズンは、夏葵と過ごした。荒北くんはいいの?と夏葵に何度か聞かれたが特に誘われていないし連絡も来ていないと言えば、不思議そうにしていた。百合はクリスマス前に彼氏の方へ行ってしまったので私達より早くに寮を出て行った。 実家に戻れば私が一番乗りだったようだった。 社会人も大学生も、まだ休みではないらしい・・・まぁ、当然か 千昭兄が明日、秋都兄と和希兄が明後日に戻ってくるらしい 「新零ちゃん?」 『何?』 「も、もしかして・・・彼氏できたの?」 『・・・・え?』 「なんだか急に女の子らしく・・・もちろん、今までも十分女の子だったけど。こう、一段と」 『・・・・で、できてない』 「怪しい」 『怪しくないっ』 「・・・・・」 完全に怪しまれているけれど、とりあえず伏せておく。隠すことなんてないけれど、ちゃんと正式に付き合い始めたら言おうと思っていたのだが、翌日の千昭兄の帰省でばれることになった。 母に買い物を頼まれて戻ってくれば玄関先で自転車を弄っている千昭兄がいた。 『千昭兄、ロード始めたの?』 「新零おかえり」 『ただいま』 「お前、ロードバイク知ってんだな」 『うん、荒北が乗ってるし』 「・・・・・・・・・・・・荒北?」 『箱学って自転車競技部が強くて有名なんだよ。今年のIHも優勝してるし』 「まて、荒北って。お前が昔遊んでた野郎だろ」 『・・・なんで、覚えてんの』 「同じ高校だったのか」 『そうだけど』 「・・・・そいつがロードやってるからって、なんでお前が知ってるんだ」 『それなりに仲いいし。教えてもらった』 「・・・・・・・・新零」 『何?』 「お前・・・、和希っ!!」 『え、和希兄帰って来てるの?!』 バタバタと家に入って行く兄が何か叫んでいる、何事だと言うんだ・・・ 「和希っ!!新零が、彼氏作りやがった!!」「はぁ?!ふざけんな、どこのどいつだ!!」「昔、あいつが遊んでた靖友っていただろ!!」「あんのクソガキ、まだあきらめてなかったのかよっ!!」 『・・・・・・・・・』 そういえば昔は、靖友って呼んでたな・・・じゃなくて、家の中でうるさい兄貴たちを止めるために私も家に戻れば、玄関先で和希兄にお前は正気かと揺すられた。そこに母まで混ざって、微妙な関係だということを説明することになった。 「あの野郎・・・」 『なんで、お兄ちゃんたちが荒北のこと知ってんの』 「そりゃぁ、お前。明らかにお前に気があっただろ」 『・・・・え』 「お前、覚えてねぇの?ちっせぇ頃に怪我してアイツに家まで運んでもらっただろ」 「新零が幼稚園のころの写真にもしょっちゅう写ってただろ」 『・・・そうだっけ?』 正直、全然覚えてない。向こうは、覚えているんだろうか・・・? 本人には言えないが、小さいころほど全体の中の1人としてしか見ていないのでよくわかっていない・・・ 「秋都兄は、結婚すんだろ」 「和希はしねぇの?」 「俺がしたら、新零が悲しむだろ」 『悲しまないよ』 「新零っ!!」 「え、和希お前、彼女いねぇの?」 「・・・今はいない。そういう千昭はどうなんだよ」 「いるけど」 「今、何か月」 「5か月」 同じ両親から生まれたというのに、なぜ秋都兄だけタイプが違うのだろうか・・・・和希兄と千昭兄は似ているし、性格も似ていないというほど似ていなくもない。ただこの2人と秋都兄は重なるのは顔つきと身長くらいだろうか・・・ さらに翌日、秋都兄が相手の人を連れて戻って来た。優しそうな人・・・・ ほんわりとして暖かそうな人だった。両親と話しているのを隣の部屋で兄たちと耳を澄ましていた。あの人が、義姉になるのか・・・急に開いた扉から、父が顔を出した。少しあきれた様子で笑いながら中に入れてくれた。少しの間、大勢で話していたのだが、母に昼食の手伝いをしてくれと駆り出された。私も手伝いますと優月さんが席を立とうとしたのを、さすがにお客様に手伝ってもらうわけにも行かないので母が断った。優月さんの話しをしながら準備を終え、無事に昼食も終わったころ家のインターホンが音を立てた。ドアホンの傍にいた私が受話器を取ればモニターに荒北が映り、速攻で受話器おろし部屋を出た。「誰だった?」なんて、千昭兄の声が聞こえたが聞こえないふりをした。 『どうしたの、急に!』 「これ、お前の兄貴の?」 玄関先に止まっていたロードバイクを荒北が眺めている。そうだと答えて、それで、何しに来たのかと聞けば、“お前、携帯に電話しても出ねぇから来たんじゃねぇか”とめんどくせぇと悪態をつかれる。 『今、秋都兄と優月さん来てたから。ごめん・・・それで?』 「小野原が、お前の部屋、鍵掛かってなかったから閉めといたってヨ」 『え、嘘』 「ほら、鍵預かって来た」 目の前でぷらぷらと揺れるそれは間違いなく自室の鍵で、本当にかけ忘れたんだと思った。まぁ、盗られるようなものはないからいいかと鍵を受け取った 「新零チャン、俺が話す前に受話器置いただろ」 『だって、同じ部屋にみんないたし。昨日、荒北のことばれたし』 「なぁに、その知られたくないみたいな言い方はヨ。嫌なわけェ?」 『そうじゃないけど、私が返事してからの方がいいと思ったの。それに、荒北が』 「よう、靖友じゃねぇか。お前、でかくなったな」 『・・・・・・・・・・千昭兄』 「どうも」 「新零のこと好きなんだってな」 「・・・・・」 「お前、昔から好きだっただろ」 『ちょっと千昭兄は引っ込んでてよ!!』 「そうっすけど」 「千昭、誰だった・・・・・・・・・・てめぇっクソガキが!!新零に手出しやがって!!」 『あああ・・・もう、和希兄まで来ないでよ!!めんどくさい』 「靖友、お前いいロード乗ってんのな。聞いたぜ、今年のインハイって箱学が優勝したんだってな。来年、出るのか?」 「出なきゃ意味ねぇんで」 「へぇ・・・・・ところで、新零のやつ学校で泣いたりしてねぇ?」 「は?」 「あいつ、泣き虫だからさ。秋都兄の結婚決まって、相当へこんだんじゃねぇかと思ってよ」 「泣いたっぽいっすよ。次の日、ずっと机に伏せてたんで」 「やっぱそうか。・・・そのなんだ、俺は別にお前が新零を好きだろうといいけど。和希が黙ってねぇから、気をつけろよ」 「っす」 「てめぇら2人で何話してんだよ!!」 「もう、玄関先で兄弟喧嘩なんて近所迷惑でしょう?・・・って、あら」 『ちょっと、お母さんまで出てこないでよ。和希兄つれて部屋戻って。千昭兄も!荒北は私に用があるんだから!!』 「靖友くんもせっかくだから、上がって行きなさいよ」 「あ、いや俺」 『お母さん!!もう、3人とも邪魔しないで』 「新零、俺が邪魔だっていうのか!」 「すんません、新零チャンちょっと借りてくんで」 『?!』 後ろからぐいっと腕を引っ張られて門の方に引っ張られる 自転車を回収して、そのまま門の外に出て少し歩くことになった 「お前の兄貴まじでおっかねぇな」 『・・・申し訳ない』 「なんで、ばれたのォ?」 『千昭兄が、ロード始めたみたいで玄関先に止めてあったからうっかり』 「・・・・レースに出てるわけじゃねぇんだろ?」 『うん。とりあえず、通学用みたいな感じだって』 「だよな。綺麗すぎっから、気になったんだよ」 『・・・・・・・』 「どうかしたのォ?」 『向かえから来るのってさ』 「・・・・・・・次の角で、曲がンぞ」 『うん・・・・・・・走って来たよ』 手遅れな様だった 前から来た3人は、明かに知り合いで、一緒に遊んでいた男子の中の3人・・・色々あったから荒北も会いたくないかと思って隣を見たけれど、そうでもなさそう・・・? 「お前、椿だろっ!!」 『うん・・・久しぶり』 「見ないうちに、えらい美人になったな・・・」 「椿さん久しぶり、てっきり地元の高校行くんだと思ってたらいないって聞いて驚いたよ」 「そうそう、朱里のやつ怒ってたよな。バレーの推薦貰ってたくせに余所の学校行ったって」 『朱里、元気にやってる?』 「あぁ、あいつバレー頑張ってんの。つーか、こいつの彼女」 『え、まじで』 「・・・って、お前まて」 「お前、靖友だよな・・・・は?」 「お前らのおかげで、新零チャン手に入ったんでお礼言うぜ」 「なっ!!まじかよっ」 「ふっ、お前馬鹿みてえぇだな。靖友と椿が仲いいからって邪魔した結果がこれかよ」 『は?』 「へぇ〜そう言うことかヨ」 「中学ン時のアピール、全然気づかなかっただろ!!」 『うん。え、彼女いたんじゃないの?』 「気が引きたかったからに決まってんだろ」 「ご愁傷サマ」 「椿がいないって、一番へこんでたのこいつだよな」 「そうそう、しかも寮入ったって聞いて絶望してたな」 『ご愁傷様』 「椿、考えなおしてくれ」 『ごめん。今、荒北と付き合ってるから無理』 「ま、そーいうことだからァ。邪魔すんな」 『じゃぁね』 なんだなんだ、今年はモテ期だったのか?3人から告白されたぞ・・・ ちょっと自慢気な荒北がかわいいので横目で眺める。 「お前、バレーの推薦貰ってたのかよ」 『うん』 「・・・そら、怒るわな」 『・・・うん。朱里とは、まだ進学してから話してないから。理由も言いづらいし』 「だろうネ。球技大会ン時に、中学ン時のお前のこと知ってる奴がなんでバレーやってないのかって話してたしな」 『・・・・そんな期待されてたの?私』 「そうじゃねぇの」 『そっか・・・でも、やらないよ』 「俺は、椿がバレーしてんの好きだけどォ?」 『・・・・・・』 たしかに体育でやるような遊びのようなバレーじゃなくて真剣勝負がしたいなって思うことも確かにある。前期の球技大会の様に、両チームにバレー部がいたことで久しぶりに勝負らしい形で試合ができたので楽しかった。・・・でも今更だし。優先順位というものがある。 「まぁ、好きなことできんのが一番いいかもしれねぇケド、好きと得意とできると、やりたいは違うからな。好きと得意が一致するとも限らねぇし・・・・・。そういや新零チャン、なんで俺が怪我で野球できなくなったって知ってんの」 『・・・っへくしゅ』 「・・・・・」 『ごめん』 「わりぃ、お前上着着てなかったな」 『平気』 「貸してやるから、戻ンぞ」 荒北の首元から私の首元に移ったマフラーに驚きつつ顔をうずめれば、すごく暖かかった。荒北の匂いがする。 『野球部の子に聞いた。グラウンドから荒北の声が聞こえなくなったなって』 「・・・・そうかよ」 『自転車、楽しい?』 「さぁな。ま、悪くわねぇヨ」 『そっか』 ←→ 目次 |