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授業中、ふらふらと廊下を歩いて行く椿が見えた。どうかしたのだろうか
額に手を当てているようにも見えたが、熱でもあるのだろうか・・・と、すると向かった先は保健室だろう
次、昼だってのに待たなかったつーことは、相当悪いんだろうか

「椿なら、体調不良で保健室に行った」
「やっぱそうか。昼食べ終わったら、ちょっと覗いてくるわ」
「あぁ、そうしてやるといい」
「荒北くん、新零の様子見て来てくれるならさ、携帯渡してきてくれる?」
「おう、いいぜ」
「荒北くん、頑張ってね」
「・・・・」
「事情は新零から聞いてるからさ。応援してる」
「お、おう」




体育で怪我した連中が保健医に手当されている横を通り過ぎて、椿のいるベッドの場所を聞けばすんなりと教えてくれた。これ、誰にでも教えんだとしたら不用心すぎんだろ・・・いくら、すぐ傍にいるつってもカーテンで影になって、良からぬことができてしまう。
するつもりはいない

カーテンの隙間から、そっと中を覗けば眠っているようだった。
赤く染まった頬からも、額に貼られたソレからも熱があることがわかる。中に入ってベッドに腰掛け、そっと手を伸ばして手の甲で頬に触れれば、やはり熱をもっていた。ふと布団の中から電気コードが出ていることに気づいて中に何が入っているのか気になった。
「・・・・・・・・」
思わず唾をのみ込んだ自分を殴りたい
携帯を枕元に置いてやり、顔を覗き込んだ。ここまできても人の気配に気づかないものかと、まじまじと眺めてしまう・・・薄く開いた唇に目が行ってしまう。耳の裏あたりから首にかけてのラインから掛布団で隠れて見えないはずの鎖骨まで想像してしまい、ぞくりとする。掛布団から少しだけ出ている手が軽く握られ、ガキみたいだなと思う。やっぱ睫なげぇ・・・肌もすげぇ気使ってんだろうな・・・・・今、キスしてもバレねぇかもな、なんて考えがさっきから行ったり来たりしているので、そろそろ戻った方がいいかもしれない。

シャッと音がして、保健医がカーテンを開けた。ちょうど体を起こしたところで、特に怪しまれてはいないだろう。

「微熱だから、それほど心配しなくても大丈夫よ。予鈴が鳴ったら戻りなさいね」
「っす・・あの、このコードってなんすか?」
「あぁ、電気あんかのコードよ、お腹暖めるのに使ってるから引っ張らないでね」

風邪じゃないのかと少し安心したものの、毎月こんな重いもん抱えてんのかと思うと、可愛そうに思えてくる。そんなことを言えば、男にこの苦しみはわからないとかなんとか言われるのだろう。前に妹に言われた。

『・・・んっ』と声を漏らして、寝返りを打った椿に煽られている自分を抑えながら顔にかかった髪を払って、剥がれかけた額のそれの隅を軽く押してやった。さっきまで下になっていた耳が赤くなっている。起きねぇかなぁっという思いと、このまま眺めていたいような思いに2分にされながら、ふぅっと息を吐いた

そろそろ予鈴の時間かとベッドから腰を上げ、携帯はあの場所で落ちたりしないかと考えながら寝顔をもう一度眺めてカーテンに手をかけた時だった
『・・・っやす・・とも』
寝ぼけていたか、ガキのころの夢か何かだろう・・・妙に熱を孕んだ切れ切れの言葉に片手を顔に当てる。勘弁してくれよ、馬鹿みてぇに顔が熱い、ギリギリの理性を突いてくるような寝言にため息が出た

5限の授業中、耳に残った自分の名前が復唱され授業の内容など一切耳に入らなかった



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