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「椿さんって、もしかして、バレー部だったりするのか?」
「中学ン時な」
「どおりですごいわけだ」
「その道じゃ有名な選手だったんだよ、あいつ」

後期の球技大会が始まり、通りがかったコートの盛り上がりに足を止めれば椿が跳んでいた。あれを初心者同然のやつに捕れって言う方が無謀だ。学校ルール上、ローテーションしているもののボールコントロールといい、チームの空気作りといい本当に上手くこなす。本気でやったら試合にならないことをわかっているから手を抜いているのも中学の様子を知っていればよくわかる。ブランクが長いとはいえセンスそのものが落ちるとは思えないので、落ちているのは主に体力だろう。

コートチェンジで椿が、自分に近い側のコートに移動してきた。ボールを持っていた椿が、こちらに気づいてニヤリと笑った。すっと目つきが変わって遊びじゃない、部活中に見せていた鋭い目が相手コートに向けられた。エンドラインから数歩のところにいたギャラリーをどけ、数歩下がる
すっと高く投げられたボールと、それに合わせて飛び上がる体、その高さと綺麗なフォームはやはり練習とセンスの塊で、ブランクなんてものは感じさせず。一連の動作のしなやかさと集中している椿の目は、あのころと変わりはなく、瞬きを許さないものだった。再びこちらを見た椿が、またニヤリと笑った。
バレーなんてド素人、体育でやるくらいの自分が、惚れ惚れするのだから詳しい人間がいれば、なおさらのことだろう。ギャラリーもざわざわとしている中、学生らしい応援合戦が始まった

「スポーツ女子が好きな、男からしたら。今のはたまらんだろうな」
「だろうネ。俺も好き」
「なんで、バレー部に入らなかったんだ?」
「筋肉つきすぎて、好きな服着れなくなったのがショックだったんだとヨ」
「・・・・・・」
「マジだからな」
「すげぇ宝の持ち腐れじゃねぇか」
「だろ?けど、本人に言うんじゃねぇぞ」

あんなイキイキとしているのに、なんでやんねぇんだよと答えを聞いていても思う。あいつと一緒に中学でバレーやってたやつが不服なのは当然だろう。
椿の試合も途中に場所を離れ、自分の割り当てに間に合うように別の場所に移動した。結局のところ寒さに耐えられずに教室で暖をとっている時間の方が長かった気がする。クラスの女子が女バレはA組が優勝したと話していたので、まぁそうだろうなと納得する。あと少しで球技大会も終わる・・かったりぃ・・・


「・・・・どーしたの、それ」
『・・・・・・・』
「すっげぇ、不細工」
『・・・・・・・』
「は?」
『・・・馬鹿北。不細工とは何よ。仮にも彼女に向かって不細工って酷くない?ブス北』
「るっせぇ!じゃねぇよ、顔どうしたわけ?なんで、そんな腫れてんだよ!」
『試合終わってから、バスケの応援行って。見てる間に横から飛んできたボール気づかなくて』
「ぶつかったのォ?」

コクリと小さく頷いた椿の目元が赤くなっているうえに、痛みを思い出したのか瞳が揺れた。腫れた痛々しい頬をタオルにくるまれた保冷剤で隠しながら不機嫌オーラを放ってくる

『わざとじゃないし、避けなかった私も悪いけど。痛い。あと、膝も』
「だろうね・・・膝?」
『サーブ、見てたでしょ?』
「おう」
『サーブで久しぶりに跳んだら、着地で古傷にきた・・・』
「そら、ブランクあんだから暖めずにやったらなンだろ」
『・・・・そーですね』
「ナァニ、俺がいたから跳んでくれたのォ?」
『違う』
「顔赤いけどォ?」
『腫れてんだから仕方ないでしょ!!』
「腫れてねぇ方の話」
『・・・・・』
「まじで、顔パンパンだな」
『うるさいっ!!・・・あぁあ、最悪、痣になったらどうしよう』
「・・・俺は、気にしねぇけど?」
『・・・・・馬鹿じゃないの、そこは早く腫れが引くといいねとかじゃないの?!本当、慰めるのへたくそ』
「俺にそんなもん求めんじゃねぇよ」
『口下手』
「るっせ・・・・新零チャン、もしかして鼻血でたの?」
『ん?』
「赤いのついてる」
『うそっ?!どこっ?』
「あぁ、ほら動くんじゃねぇヨ」

左手で的外れ場所をこすっている手を抑え、右手で微妙にジャージの袖を少し引っ張って手をひっこめ出っ張った部分でこすれば、慌てた椿が、何を思ったか目を閉じた。え、何この状況

『取れたっ・・・?!』

目を開けた椿の至近距離で目が合い
びくりとして保冷剤が足元に転がった

『・・・・・約束違反』
「何もしてねぇだろ」
『未遂』

耳真っ赤じゃねぇか・・・すげぇ挙動不審。出た、困り顔
あ・・・

「椿、落ちつけ」
『は?』
「ゆっくり、口で深呼吸をしろ」
『なんでっ!!』
「あんま、興奮すんな」
『してないっ』
「してっから言ってんだろっ!!」
『だから、・・・?』
「ほら言わんこっちゃねぇじゃねぇかヨ!!バァカ、鼻血出した奴が暴れっからこうなんだよ!」
『荒北っ、ティッシュ出して』
「どこにあンだよ!!」
『右のポケット』
「ンなもん自分で出せよ」
『だって、鼻抑えるのに右手使っちゃったんだから、左手じゃ出せない』
「やってみてから言えよ!!」
『・・・・・・・・・・ほらっ、届かないっ!!』

待て、こいつ何言ってんだ?俺にジャージのポケットに手突っ込めって言ってんの?は?際どすぎんだろ・・・馬鹿じゃねぇの。早くしろと入っている方の脚を苛立たしげに揺すっているが、そう言う問題じゃない。慌てて何言ってんのかわかってねぇだろ

「バァカ!!ちょっと待ってろ」
『?』

椿を廊下に残して、自分の席から箱ティッシュを持ってきて数枚、椿に渡し、ついでに落ちたままの保冷剤を拾ってやった。俺に背を向けてごそごそしている様子を眺めながら、試合中の椿の面影を探しながら自分も落ち着かせる。・・・そういや、古傷ってことは膝痛めてたってことか。それなら、サポーターくらい持ってこいよ。センスがあっても、それだけ練習積んだのだろう・・・そうでなければ高校の強豪校が近いだけあって、バレーやってるやつが多かった中、2年でレギュラーなど取れないはずだ。
すっと手を伸ばして、頭に手を乗せ少しだけ撫でてやればティッシュで鼻を抑えた椿が、ちらりと振り返った。反対側に持っていた保冷剤を背中側から頬に当ててやった。

「新零チャン、今日散々だな」
『でも、勝ったよ』
鼻を抑えているせいか、変な声ではあるが。その通りだ、勝ちを取りに行く、あの目は健在だった。球技大会なんて遊びのような試合でも勝ったことには違いない。

「そーだね、おめでと」
『ありがと』



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