39 実家の傍にある塾の春期講習というのに参加してみたけれど、なかなかに良かった。個人塾なので、わからない問題を聞けば教えてくれるし、ポイントになる問題だったりセンター試験の傾向だったりも聞けたので良い機会になった。一斉授業よりも、個別対応の方が私には合っているかもしれない。もくもくと1人でやった方が頭に入る。ただ国語は文章を読んでいる間に眠くなってしまってやる気がそがれていくのを何とかしなければならないのが今の課題だ。 始業式の2日前に寮に戻ることにした。終業式からは1度も荒北には会っていないけれど、変わりなくやっているのだろうか。特に用もなくて、連絡しなかったし、連絡も来なかった。電車に揺られながら、今年のクラスはどうなるかなぁなんて考えていると眠気に襲われてきた。乗り過ごすと面倒だと思い、家から持って来た小さいころのアルバムを開いた。家に揃えてある大きいアルバムには、入っていなかった細かい写真もこちらには入っているようで、枚数も多く眠気冷ましにはなるだろう。見ても覚えているわけではないけれど、確かに私が、その日付にそこにいることがわかるのは、なんだか不思議な気分だ。 『・・・・・・ん?』 誰かの誕生日の写真・・・右下の日付は4月2日になっている 数枚ある写真を見比べながら、誰かわからず、次のページをめくって冷や汗をかいた これは、まさか・・・・ 待て、今日は何日だ。 忘れていたわけじゃない、知らなかったが正しい 『・・・・・・』 どうしよう、過ぎてるし。知らなかったし・・・ プレゼントとか、次の駅で降りて引き返すか 大体、荒北の欲しいものなんてわからない 自転車関連?いや、おそらく気に入ったものを使っているだろうから、私が変に渡して気を使わせるのもあれだ。なら、何がいい・・・ぬいぐるみとか。あ、ちょっと持ってるところ見たいかもしれない・・・・ 春休みも間違いなく部活があるので、荒北は寮にいるだろう。ただ、如何せん遅刻という点と知らなかったという後ろめたさから呼び出すことにためらいが生まれる。しかし、これを持って部活にお邪魔するのも目立つので控えたい・・・と、すれば寮近くの道で荒北が帰ってくるのを待つしかない。サイズ的には、中のものにしたけれど、小さいとはとても言えない大きさがあるが。一目惚れだった、黒くて少し平たいクッションのような猫のぬいぐるみ。実用性のなさはきっと目を瞑ってくれる・・・さわり心地も良くて、個人的に私も欲しい。合せてラッピング用品も揃えたので、寮に戻ってラッピングを整え満足のいく状態になったのを確認して、荒北に部活の終わる時間を確認するメールを送った。午前中に家を出て、すでに夕方・・・・、落ち着いてみると中々疲れていることに気づいてコンビニで買ってきたカフェラテにストローを刺した。 忘れていたから、物を渡せばいいと思ったわけじゃない そう思われても仕方がないかな・・なんて、焦りと共にテンションが上がってここまで来てしまったけれど、いらないって言われたらどうしよう・・・・どうしよう? 春休み中連絡がなくても、淋しいとは思わなかった。きっと部活に勤しんでいるのだろうと思ったから、他の可能性なんて考えなかった。他に理由があったら?数か月付き合ってみて、思っていた私と違うから連絡して来なかったのだとしたら? 嫌だな 荒北が他の女の子を好きになったら嫌だ ・・・わからない 中学の時も、先輩の時も。好きで好きで好きだった、見ているだけでドキドキして、話しているだけですごく緊張して、その反応に一喜一憂して。だから、こうなることが好きになることだと思っていた。 なのに、一向に荒北に対してそうはならなかった 一緒にいて嫌じゃないし、口調の割に優しく触ってくるところも、安心感も、ちょっと嬉しそうにしているのも好きだなと思う。どうしてだろう 好きだと言われるたびにドキリとするのに・・・ 携帯が短く震えた 吸うわけでもなく咥えていたカフェラテのストローから口をはなして、メールを確認した。 『部活、お疲れ様』 「おう・・・今日、戻ったのか?」 『うん』 「で、どーしたんだよ」 『あ、あのですね』 「?」 『・・・4月2日、』 「・・・・・」 『荒北が誕生日だって、覚えてなくてさ・・・ごめんなさい。今日、気づいたの』 「謝んな。俺、言ってねぇし」 『・・・・・』 「新零チャンさ、彼女らしくしなきゃとか思ったりしてない?」 『え?』 「そういうことしなくていい、なんつうの?」 『・・・・・』 「俺は、お前に彼女のフリをしてほしくて、付き合ってって言ったつもりねぇの。何かしてほしいわけじゃねぇから、そーいうこと気にしなくていい。」 『でも、』 「彼女なのに忘れててごめんなさいって顔してんだよ。そういうのいらねぇ」 『だって、・・・だって彼女らしくしてないとっ・・・・・・っ』 「は?だからァ、俺の話し聞いて・・・・おい、新零っ」 『私、全然っ・・・、なんで私泣いてんのっ』 「・・・・・・」 『私、荒北のことっ・・好きになりたいのに、全然なれなくて。もう5か月以上経ってるのに・・・っ答えられないし、先輩のこと終わらせたのに・・・まだ、だめで。待たせてばっかりで、彼女のフリしてなきゃ誰かにっ・・・誰か他の・・・・・それにっ、』 泣くつもりなんてないのに、泣いたら荒北が困るって知ってるのに。全然、止まってくれない・・・荒北の困った顔が見たくなくて、顔を上げられない。声まで震えて、本当かっこわるい・・・ 「バァカ、俺がいつ新零のこと嫌いになったつったんだよ。あ?5か月も5年も変わらねぇんだよ!別に焦ることじゃねぇし、なんで泣くんだよっ!!お前、俺が慰めんのヘタだって知ってんだろっ」 『彼女っぽいことしたら、荒北、喜んでくれるかなって期待した。そしたら、違う・・・違うところ見えるかもしれないって、知らないところ知れるからって・・・・そしたらぁ・・・・・・好きになれるかもしれないって・・・・・・だからっ』 「新零が俺の6年間どう思ってるか、わかんねぇけどヨ。お前がそんな焦る必要も特別なことしなくてもいいの」 伸びてきた手が下を向いていた私の顔を上げさせ、目元の涙を拭い、とんっと引き寄せられて頭を寄せられた 「俺さ、そっぽ向いてたお前が、俺の方に振り返ってくれただけ嬉しいわけ。あんなに俺のこと嫌いだって訴えてたっつうのに、俺の言い訳聞いて、向き合ってくれんのも、こーやって話してくれんのも嬉しいんだヨ」 『・・・・・』 「照れっから一々言わねぇし、そういうの口にすんの苦手だし、わかりにくいかもしんねぇけど。よそ見するつもりネェし、付き合い始めて5か月経ってもお前のこと好きだし。卒業式ン時にお前が先輩に告るとか言ったときは正直へこんだし、あー言ったけどよ、誕生日ン時もやっぱどっかで期待してた。けど、それ言ったらかっこわりぃし、忘れたお前が悪いみたいな言い方になっちまうし・・・結局、言ってんだけどよ」 『なんで、そんなに私のこと好きなの・・・?泣き虫だし、こんなんだし、バレーやめた理由もあれだし、荒北の気持ち察してあげられないし』 「・・・それ聞くのォ?」 『聞きたい』 「そんなんとか、くだらねぇとか言うなよ」 『うん』 「新零チャンの笑った顔が好きだったから」 『・・・・・』 「ボール持って誘いに行ったら、いっつも嬉しそうに笑って行くって返事してんの見て。こう、なんつうの?ガキながらにドキっとしてヨ。男みたいな恰好してるっつってもハッキリ理由言うし、バレーやってるときの真剣な目とか、誰かのこと好きになってる新零チャンも嫌いじゃねぇし、スタイル良くてセンスいいのもお前らしくて好きィ・・・・・・・あぁっくっそ、もういーい?俺死にそうなんだけどォ」 死にそうなのは私の方だ 耳がカァアアっと熱くなって、恥ずかしくて、布団にもぐって丸くなりたい 荒北が素直になったら、私、生きていける気がしないかもしれない 首まで赤いよ・・・荒北くんや ←→ 目次 |