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昔から泣き虫で、泣きたいわけでもないのに勝手に涙が出てくる。相手に泣くくらいつらいんだと訴えたいとか、困らせたいわけじゃなくて、自分の情けなさだったり、言葉にできない不安だったり理由は様々だけど、泣きたくて泣いてるわけじゃない。だから、優しくされても、困らせてごめんなさい、こんな自分でごめんなさいという気持ちが強くなって涙が出る。怒られても、怒らせてごめんなさいって涙が出る。結局のところ治し方がわからない

部屋に戻って、ドアを閉めてすぐにそのままもたれて座り込んだ。同じことが前にもあった気がするけど、理由が違う。好きって言えない自分が疎ましい。今までと違うことばかりでわからなくなってきた


携帯が短く音を立てた
福富くんから?送信者の名前に驚きつつ、文面に目を走らせれば中身は新開くんの様だった。添付ファイルを開ければ、後姿ではあるけれど猫のぬいぐるみを小脇に抱えた荒北が写っていた
これは、かわいい
続けて届いたメールを開ければ添付ファイルのみではあるが写真を撮っていることに気づいた荒北がこちらを向いているが、このあと新開くんは無事だったんだろうか・・・これ、荒北の部屋なんだよなぁ。結構散らかってる気がする・・・。千昭兄の部屋もこんな感じだし、男の子の部屋って、こういうものなのかもしれない。
それから、少しして荒北からのメールが届いた。返事に困っていると再び福富くんからメールが来た。今回は中身も福富くんらしく、新開くんと東堂くんにアドレスを教えてもいいかというものだった。いいよと返信を打てば、2人からも連絡先が送られてきた
これは、女子の中でもレアなアドレスではないかと少し嬉しい。そもそも福富くんも、荒北のアドレスなんてすごくレアなんじゃないだろうか。

『新開くんと東堂くんのアドレスを手に入れた』
「あんた、それファンの子に知られたら囲まれるんじゃない」
『・・・・それは、めんどくさい』
「大丈夫でしょ、荒北くんのアドレスも持ってるんだからさ」
「それも、そうか」
『・・・・・』








「今年は、みんなバラバラか」
『まぁ、仕方ないね。私、理系だし』
「そういう、新零は、あれじゃないか」
『何っ』
「何じゃなくてさ、ねぇ百合さん」
「本当、夏葵さん」
「卒業までには、ちゃんとくっついてもらわないと」
『・・・・・』

高校最後のクラスが荒北と一緒になった。12年間中これが2回目・・・確率的にはかなり低い気がするけれど、すごいタイミングで来たなぁと思う。百合と夏葵と廊下で分かれて、新しいクラスに入れば貼りだされていた名簿を見て知った名前があったので安心していたけれど、その子たちが声をかけてくれたので上手くやって行く自信がついた。自分の席に荷物を置いて、その子たちのところに話しかけに行った。それから、少しして、廊下から自転車部の面々の声が聞こえて、東堂くんってやっぱりかっこいいよねぇと話したクラスメイトに、これが噂のファンクラブというやつかと思いながら、教室に入ってきた荒北と目があった。「同じクラスなの?!」「いいなぁ」なんて、傍にいた子に言われたので、おそらく彼女たちは彼氏とは別のクラスになったのだろう。理系はやはり女子が少ないので次々と人が1か所に集まって来るため、直接話しかけては来なかったけれど、下がっていた口角が上がったのを見て、私も少しだけ笑った。

「椿さんって、自転車部の人たちと仲いいよね?」
『まぁ、委員会とか荒北つながりで、なんだかんだね』
「レースとか見に行ったことある?」
「私、東堂様の応援にいつも行ってるよ。椿さん行かないの?」
『行ったことないけど』
「でも見たくないの?走ってるところ」
『そうだね、1度は見て見たいかも』

そう言われれば、練習で走っているのは何回か見かけたけれど、実際にレースで走っている姿は見たことがない。2年の時に優勝したって言うのは聞いたけれど、それがどんなレースだったのかも詳しく知らない・・・そういう話、したことなかった。そういえば、デートらしいデートもしたことない。とはいえ、部活で忙しいだろう。中学の時の経験とはいえ、高校でも変わりはないはずだ。



『荒北』
「椿・・・」
『同じクラスだね。なんか、変な感じ』
「そうだネ」
『・・・あれ、なんか疲れてる?』
「・・・・・・・新零チャン」
『何?』
「俺と同じクラスで嬉しい?」
『え?・・・うん』
「そっ、俺も嬉しいヨ」
『・・・・・・・・・・』
「やっぱ、そういうことか。耳赤いネ」

にやりと笑って、新学期に合わせて整えた短い髪に手を伸ばした。

『あ、ああ荒北くん』
「ネコありがとヨ」
『うん』
「もう一個のもな」
『う・・うん』
「大事にすっから」
『・・・・うん』

ただ話していただけなのに、壁に追いやられて背中はすでに壁にくっついている。何事だ、今までこんなことなかったのに、あ・・・・

「何してンだよ」
『いや、始業式そうそうネクタイ緩みすぎだと思って』
「・・・・・・・」
『?』
「バァカ、そういうことすんじゃねぇよ!!」
『・・・?』
そう言う割には、荒北の耳が赤くてどうしていいのか、わからなくなった。



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