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新零は、もう荒北のことが好きなんだと思う
あれだけ悩んで考えている時点で、他の男子のことなんて眼中にない
ただ、あの子は誰かを好きになって追いかけていたから、相手から向けられたそれに戸惑っているのだろう。
早朝ランニングということで、慣れない土地ではあるが外周を走っていた時だった、隣をすごいスピードで走って行く自転車に驚いて眺めているとジャージに箱学の名前が入っていることに気づいた。もしかしたら、これが自転車競技部というのか・・・と様子を見ていた。途中1人、声をかけてきた男がいた・・・名前はえっと・・東堂?だっけか。部員が、ざわざわとしたので喝を入れたけれど、まぁ確かに顔は良かったような気がするが、わざわざスピードを緩めるなんて、どんな女好きだ
外周を終えて体育館傍まで戻って休憩を取った。その途中、自転車が戻ってくるのが見えたのでそっちに足を向けた。もしかしたら、気づくかもなぁなんてバレーボール片手に近寄れば1台の自転車が止まった

「・・・・」
「久しぶり、荒北。私のことわかるでしょ?ずっと新零のこと見てたもんねぇ」
「・・・・・・浅野」
「ご名答」

当然来る質問に答えて、昨日、新零と話したと伝えれば、仲直りしたのかと少し口角を上げた。

「新零から、ちゃんと答え貰いたいならさ、もっと押さないと逃げちゃうよ。あの子。追われ慣れてないからスピード上げて追いついてあげてよ」
「・・・わかってる」
「本当に?」
「ちっ、あぁ。」
「そうだな、野獣荒北が獲物を逃すはずがない」
「あ、あんたさっき声かけてきた人」
「るっせぇ、お前関係ねぇだろ」
「なんだなんだ、靖友、他校生のナンパか?」
「椿さんに言いつけてやるぞ」
「てめぇら、いい度胸してんネ」

「新零チャンのこと、他のやつから聞かねぇようにしてんだけどヨ。これだけ聞いていいか?」
「いいよ、中学からの好で答えてあげようじゃない」
「見込みあるか?」
「あるよ」

にやりと笑った荒北に、エールを送って自分も部活に戻った。







「あ、新零遅い!!」
『ごめん、ちょっとアップしてた』

体育館の使用時間と練習時間を考えて新零を呼び出した。やっぱ、ユニホームは持ってないかと、こっちのを渡せば、驚いていたが押せば、頷いた。部員も手伝ってくれる子を残して戻っていいと言ったのだけれど、せっかくだから見たいと残っているし、箱学のバレー部員も同じように残っていた。そんな注目されるようなものじゃないのに。
しっかし、まぁ新零のスタイルの良さに磨きがかかったというか部員も驚くこの美脚だ。中学のころも男バレのやつがよく見ていたのが懐かしい

『さっき、荒北に会ったんだけど、なんか言った?』
「いいや、私も朝、会ったけど何も言ってないよ」
『本当に?』
「本当、本当。ほら、体育館閉まるから早く」

小さいコートなので私と新零、それからセッターに1人ずつ入ってもらった。新零の頼みで箱学のセッターの子にもお願いした。どうやら球技大会で組んでいたようだ。
『現役じゃないんだから、力抜いてよ。全力でやられたら、朱里の重いボール取れないんだから!!』
「それは、どうかなぁ」

現役じゃないなんて、言いながらサーブといいスパイクといい威力は落ちているけれどコントロールはそれほど落ちていないし、フォームも前より少し崩れたとはいえ驚くくらい綺麗なままだった。あの目も変わってない、ジャンプサーブであれだけ人の目を奪えるのも新零ぐらいじゃないか・・・なんて言いすぎだけれど、本当羨ましい。ただ、顔面レシーブはするし、拾い切れずに床に転がるので、面白い。間に合わないのはスタミナ不足だろう。
それでも、これだけ動けて、これだけ跳べて打てるし、久しぶりなんて言いながらもやっているうちに感覚が戻って来たのか上手くなっていく。箱学のセッターの子も、球技大会の時と違って新零が跳ぶのか徐々に高さを上げて行った。見ている部員も驚いている、もしかしたら部員だったかもしれないのだ、こんな戦力になる子をほかっておけるはずがない。

『朱里、ストップ!!』
「もう、スタミナ切れ?だらしないよ」
『勘弁してください・・・』

仕方ないと残り時間に、遊びでいいからと適当にチームを分けて自由参加で試合を行えば、即興とはいえ中々白熱した試合になり、いい刺激になったんじゃないだろうか。新零のサーブを受けるだけでも、1年生にはいい経験になる。ただフローターサーブの精度が悪いのは練習不足を一番感じた。
しかし、本当に楽しそうにバレーをする新零に懐かしさがこみ上げて途中チームを変えて私と同じ方に加わってもらった。新零の背を見るのも久しぶりだ

体育館の閉館時間になって、床に転がっている新零を引きずって外に出した

「新零チャン、完全にスタミナ切れか」
「あーもしかして、試合見てた?」
「途中からな」
『それ、覗きって言うんだよ』
「・・・・・」

荒北と東堂?ともう1人、さっき荒北を弄っていた人の3人で来ていたようで荒北の後ろで話している。

「ほら、新零、着替えは後でいいから寮戻るんでしょ」
『戻るけど、脚震えて力入んない』
「そりゃぁ、現役でもないのにあんなに動いて試合してたら当然でしょう。しっかし、この脚はよく跳ぶし、さらに磨きあがった、この美脚は何よ。羨ましい」

太腿に手を這わせれば、くすぐったいと笑うので女バレの時みたいに調子に乗ってくすぐっていると、男子の笑い声が聞こえて何かと思えば、後ろで話していた2人が笑っていて、それに対して怒って荒北が何か言い返している・・・あぁ、そういえば、この子、ユニフォーム来たまんまだったか。

『朱里、くすぐったい』
「新零ちゃん、本当、罪作りだね」
『何の話し?』
「あーあ、もう立てる?」
『ん、立てる』
「力入んないなら、荒北におぶってもらったら?」
『大丈夫、歩ける・・・、ごめんね部活大丈夫なの?』
「平気、副部長のが私よりしっかりしてるから」
『うわぁ・・・』
「新零、本当に大丈夫?膝平気?」
『平気、サポーターしてるし』
「その割には、足元おぼつかないなぁ・・・」
『疲れただけだから』

男子たちと話している新零を見ても、中学の時と違って男子とも、あんな風に笑ったりするようになったのかと少し驚いた。ふらついた新零にさりげなく手を貸した荒北に感心しながら、後ろから眺めていると喧嘩別れしなければよかったなぁと後悔が残る。卒業式の時に写真撮ろうと声をかけた新零を無視して横を通り過ぎたのだ、新零は何も悪いことはしていない。私が嫉妬して拗ねていただけだ

「背負ってやろうか?」
『遠慮する』

あの子があんなテンション高いの久しぶりに見たな・・・








「アップしてるときに、偶然会ってヨ。お前とバレーできるって、すげぇ嬉しそうにしてたぜ」
「・・・・・そう、なんだ」
「なんつうかさ、俺もあいつがバレーやらねぇの正直、宝の持ち腐れだしふざけんなって思っちまうけど。あーやって楽しそうにやられっと、何も言えねぇんだよな」
「それわかる。でもやっぱり悔しいよ、あのセンスが羨ましい」
「つってもお前、今日手加減してただろ」
「当然、本気でやったら、顔面レシーブ喰らってただで済むわけないじゃない」
「だよな」
「新零の泣き虫って健在?」
「おう、健在健在」
「やっぱり、そうか。荒北って公式戦見に来たことないよね」
「ねぇな」
「新零ってコートの上じゃさ、すごい楽しそうなのに目がマジでなんだよね。しかも、勝っても負けても泣くんだよ・・・そういうところもさ、勝負にまっすぐで、すごく羨ましかった。中学の時の新零の試合、見てほしいなぁ荒北に」
「公式戦じゃなくても、新零はいつも真剣にバレーやってんだろ」
「まぁ、そうなんだけどね。最後の試合の時にさ、私たちも新零を頼りにしすぎたのがいけなかったんだと思うんだけど。あの子、かなり疲労溜まってて、もしかしたら視界もしっかりしてなかったのかもしれない、本当だったら交代するべきだったの。でも新零を下げたら次がなかった。そんな状態でスパイク打って着地した時に失敗したみたいでさ。その試合が終わったあと、新零すぐに立たなくて、いつもみたいに泣いてるだけだと思ったんだけど、本当は痛みで立てなかったんだよ。幸い重傷じゃなかったから安心したんだけど・・・本当は、高校行って今度は新零に頼らなくていいバレーがしたかった。だから、バレー続けないって、同じ高校に行かないって言われて裏切られたみたいな気持ちに勝手になってさ・・・」

誰にも言ってなかったことを、なんで自分は荒北に話したんだろう。自分の彼氏にも言ってないのに、なんで、しかも視界が歪んできた。

『ちょっと、荒北。朱里のこと泣かせんな!!』
「俺じゃねぇよっ!!」
「新零っ!!」
『朱里、なんで泣いてんのっ』
「ごめん、新零のこと無視してごめんねっ!!」
『・・・っ朱里・・・っ』
「なんで、新零まで泣くわけ?!」
『だって、今日、一緒にバレーできたし。朱里普通に話しかけてくれたし・・・っ』
「本当もう、泣き虫っ」
『朱里も泣いてるくせに』

新零に抱き着いて、謝れば新零まで泣き始めて。なんでこんな青春してんだろう
私が泣き止んでも、新零がボロボロと泣いていて荒北に助けを求めてそっぽを向かれた。昔より泣き虫に拍車がかかっているのは気のせいだろうか・・・

『朱里、今日・・ありがとう。楽しかった』
「私も、新零とバレーできて良かったよ」


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