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もう夏だ。初夏の暑さにだれていたら、この先の暑さなんて越えられない。毎年、どうやって乗り切って来たのか思い出せないけれど、ここまで生きて来たのだから、どうにかして超えてきたのだろう。今年の夏休みは、実家か寮かどちらで過ごそうか。インハイの応援に箱学からバスが出るらしいので、少なくともそれまでは残ろうと思う。通りかかった花壇に咲いた早咲きの黄色い花を見つけて、そういえばあれは誰に貰ったのだろうかと少し気になった。


「昔、遊ぶのに夢中で転んだこと忘れてて帰り際になると思い出して泣き始めると、何泣いてるんだって家まで送ってくれる子とか、遊具で遊んでたら雨降ってきて出られなくなった時に傘持って向かえに来てくれた子とかいたんだよ。花壇にホースで水やってたら急に出なくなって、なんでかと思ったら、そのホース踏まれててさ、口の部分覗き込んでたせいで顔面から水被ったこともあったし。かくれんぼして、そこから降りられなくなって大人呼んでもらったこともあったし、ボールで窓ガラス割っちゃった時に一緒に謝ってくれる子もいたっけなぁ・・・懐かしい。小さいころって本当、色々あるのにさ、しっかり覚えてないのが残念だなって」

授業後に、荒北が忘れ物を取りに1度寮に戻るというので一緒に帰ることにした。帰り道の途中、母親数人と子供たちが反対側を歩いているのを見て、特に意味もなく昔話をしていたのだが途中一度も荒北が言葉を発しないことを不思議に思い横を確認すれば、様子がおかしい。
どうかしたのかと声をかければ盛大に舌打ちをされて、何かぼそっと言った

「何?もう1回言ってよ」
「1回で聞けよ、バァカ、耳ちゃんと掃除してんのかよ!!」
「してる!!それで、何」
「・・・それ、全部俺だって言ったんだよ」
「へ・・・」
「家に送ったのも、傘持ってたのも、ホース踏んだのも、呼びに行ったのも、謝ったのも、全部俺だって言ってんの!!」
「・・・・・・・・・・・え」
「だからぁ・・・・・・おーい、新零チャン」
「全部?」
「そう、全部。忘れてんのかよ・・・つーか、俺も今言われて思い出したけどヨ」
「・・・・全部、荒北?」
「あ?だから」

脚を止めて振り返った荒北と目が合う
起きた事は、断片的だけれど少しは覚えていた。でも、それが誰までは覚えていなくて、一緒に遊んでいた何人かの中の誰かだと思っていて

「・・・・・もしかして、さ」
「?」
「写真に、荒北の誕生日会の写真があったんだけど」
「それで気づいたんだろ?」
「そうなんだけど・・・・そのアルバムにさ」
「早く言えヨ」
「ひまわりの写真があって」
「・・・・・!」
「それも、荒北?」

一瞬ぽかんとしてから、思い出しているのだろう眉をひそめて視線が横に流れた。ひどく心臓がうるさい

「クラブの帰りに、どっかで引きちぎって」
「引きちぎってって」
「あれだろ・・こう、ちょっと小ぶりな感じで・・・・あのじいさんが結局、」
「・・・・・」
「人に渡すつったら、3本くらい切ってくれたっけな」
「・・・・・・・・・」
「違ったら・・・・・」

荒北だ
花瓶に挿した、ひまわりと満面の笑みの私が写ってる写真
誕生日が夏休みにあるから友達に祝ってもらえないって小さいころからよく拗ねていた。だから、きっとすごく嬉しかったのだと思う。自分では覚えていない、写真で知ったことだけれど・・・どうしよう

「・・・・新零チャン?」
「・・・・・」
「俺も、今言われて思い出したんだけどヨ。引きちぎった時に、じいさんに糞怒られて、そっちばっか覚えてて忘れてたな」
「・・・・・荒北、私の誕生日、覚えてるの?」
「8月25日」
「・・・・・なんで、即答するかな」
「俺も、春休みだから忘れられるっつう、仲間意識?」
「なんかもう、荒北が怖いわ」
「は?」
「寮、戻るんでしょ」
「ンだよ急に慌てやがって」
「何でもない」

立ち止まっていた荒北の横を抜けて寮への道をさっさと歩けば、すぐに追いつかれる。顔を見られたくなくて、歩く速度を上げれば当然の様に追いつかれて最終的に走っていた。女子寮前の階段に足を引っかけて転びかけた体が後ろに引っ張られ、とんっとぶつかった。

「疲れんだろォが!!走んな、つーか馬鹿じゃねぇの、急に走るわ、転ぶわ・・・ここで、前も転んだんじゃねぇのかよ」
「なんで、追っかけたのっ」
「はぁ?!てめぇが勝手に走るからだろ!!」

荒北から離れて、段差を上がって助けてもらったお礼だけ言って中に入った。後ろから、声がするけれど、聞こえないふりをした。顔にどんどん熱が集まって行くのがわかる。部屋に戻って扉を背に座り込む、膝には傷はないけれど耳が熱くて手で触ってもわかるくらいに熱い。
なんとなく口にしただけだったのに、なんで・・・荒北のことばっかり覚えてるみたいじゃんか。みたいじゃなくて、事実なのだけれど、本人前にして言ったのかと思うと恥ずかしい。心臓がうるさい
「もしかして・・・」
もしかして、昔から好きだったとか・・・?
だから覚えていた?いや、単に痛いとか怒られたとかむしろ嫌な思い出として覚えていたってことで、荒北のことを覚えていたわけじゃない。なのに、この気恥ずかしさは何だ
しかも、荒北放置して部屋戻ってくるとか、明日どの面下げて教室行けばいいんだ。なんで同じクラスなんだ・・・・・・そういや、私、さっき荒北に片手一本で支えられたのか・・・

「・・・・・・・」
顔の火照りが全然引いてくれない



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