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添削するつもりだったメールには余計なことがたくさん書いてあった。文字にすれば少しだけすっきりしたので、後で消そうと思っていたのだ。昨日は、呼び出されたことよりも荒北の事を考えていただとか、ひまわりのことだとか、ここ数日、荒北の事ばかり考えていただとか、他の男子のことは考えていないだとか。あとで消そうと思っていたことばかりだった。途中書きのメールは、事故前の事までで、それ以降について書く前に眠気に勝てず意識を放したようだった。荒北に起こされるのは、これが3度目だなと、まだ眠気の残る頭で考えながら、肩から顔を上げた。15分と言いながら、あれから20分ほど経っていたのは、教室に誰も来なかったので寝かしてくれたのかもしれない。向い合せに荒北の顔をまじまじと見て、なんだか恥ずかしくなってきた。教室の隅で、私達は何をしているんだ・・・早く動かなければ誰か来るかもしれない。そもそも、私と荒北が教室で2人っきりなんてところを見られたら、何をしていたんだと言われてもおかしくないんじゃないか?

「あんまこっち見んな」
「・・・うん。あ、私、ちょっと別のところ行ってくる」
「あ?あー・・・」
教室を見渡して、なんとなく察したのか俺も行くと先に腰を上げた。差し出された手を取って立ち上がり、荷物を持って2人そろって教室から出た。外にある自販機へ向かって歩きながら、くだらない話をする。夏休みが近づくということは、インハイも近づくということだ。私は、なんて声をかけたらいいんだろうか。インハイの結果に対してどう声をかけたらいいんだろうかとまだわからない結末に対しての言葉選びをしてしまう。勝ちは勝ち、負けは負け。2年ならまだしも3年の勝負ごとは、勝ち負けの価値が別格な気がする。3年の最後の試合を思い出しては、ずきりと膝が痛んだ。荒北は、何のためにペダルを漕ぐのだろうか、いつか聞いてみたいところだ。

「メンバーの調子はどうなの?」
「悪くねぇと思うぜ」
「怪我とかもない?」
「ねぇな」
「1年生の子ってさ、ポジションじゃなくて、えっと・・何?」
「クライマー」
「東堂くんと同じ」
「そ、」
「2年の子は?」
「スプリンター」
「新開くんと同じ」
「正解・・・・、葦木場。お前、こんなところで何してんだ?」

後輩?の子と話しているのを眺めているけれど、背の高さにプレッシャーを感じる。壁だ。壁

「・・・新零チャン?」
「・・・ん?」
「さっきのやつ2年の葦木場ってやつな」
「そうなんだ・・」
「どうかしたのか?」
「・・こう、すごく圧迫感とプレッシャーを与えられた気がする」
「そんなやつじゃねぇけど、背たけぇからなぁ」
「ネット越しにいられたら、すごいぞっとする」
「バレーならな」
「打ち破りたくなるよね」
「バレー好きだね、本当」
「当然。楽しいからね」

今日は、授業終わったらさっさと帰れよなんて言う荒北に返事をすれば、「お前、俺の言うこと聞いた試しねぇけどな」なんて言ってくる。転校生くんとの時に、電話しろって言ったからちゃんと電話したと反論すれば、あれは偶然だっただろと低い声で言われ何も言い返せなくなった。

「まぁ、俺もお前のこと上手く慰められた試しがねぇけどな」
「そーだね・・・・あ、でも」
「?」
「秋都兄の結婚が決まった時のは、悪くなかった気がする」
「・・・・あんま覚えてネェ」
「それは、残念」
「俺、何言ったぁ?」
「さぁ?」

自分の髪をかき混ぜながら、覚えてネェとぼやく荒北を少し見上げる。4月の身体測定の時点で、私と荒北の身長差は8センチだった。私の背は、170で止まった・・・正確には170.4であるけれど。前より背を気にしなくなったのは、百合や夏葵と友達になったというのもあるけれど、荒北との付き合いが始まったからと言うのが一番大きいのかもしれない。同性と異性はやはり何かが違うのだろう。

「あ、私それ飲んだことない。ちょっと頂戴?」
「・・・・・・・・あ?」「え?」


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