60 「へぇ、それでもう好きですって言ったようなものだと」 「その通りです」 「事故のこと、私達には何も言ってくれなかったのに」 「ごめん、話そうとは思ったんだけど。」 「いいよ。新零が無事で良かったし。しかしまぁ、ここに来るまで時間がかかったこと。ねぇ、百合さん」 「本当。半年くらい経ってるんじゃないの?」 「半年以上だけどね・・」 「そーですか。ところで、決め手は何だったの?」 「決め手・・ねぇ?もしかしたら、昔から好きだったのかもしれないなぁ・・・なんて」 「何それ、ちょっとどういうことよ」 「小さいころの記憶が、どれもこれも荒北とのことばっかだったり。夏休みの誕生日にひまわりもらったり。昔から仲良くて、今も一緒にいるのか・・と」 「運命感じちゃったか」 「別にそういうんじゃない・・自転車乗ってるのかっこいいと思うし。さりげなく優しいし・・・この前も、関節キスでちょっと慌てたりするのもかわいいかなって」 「へぇ・・・あ、もう惚気はいいや」 「本当、新零伝手でこうやって荒北くんの情報入ってくるけどさ、関わりなかったら、そんなイメージ全然ない」 「本当本当。それ他の女子が聞いたら、モテそうだね」 「モテても荒北くん的には、どうでもいいんじゃないの?」 「あ、確かに。6年・・7年越し?で、実ったわけですし?」 「・・・もう、その話やめよう?ね?夏休みの予定の話するんでしょ?」 「だって、新零弄り甲斐が出て来たからさぁ」 久しぶりにこうやって夏葵の部屋に集まって話しているのに、中々離れてくれない話題から逃げるために観光地図をテーブルに広げてやった。楽しいことを考えていなければ受験勉強も身が入らないし、勉強漬けの夏休みもごめんだったのだ。模試の日程だったり夏期講習だったりで自由な時間はそれぞれバラバラだけれど、それなりの日にちが重なることがわかって高校生最後の夏の行先を決めていた。夏葵は、都心の大学で、百合は彼氏のいる方面の大学と言っていた。私は、どうだろう・・・学部と環境で考えているから都心へのこだわりはない・・・と言い切れないのが微妙なところである。流行に速いのも、好きなブランドも東京へ出れば間違いはないけれどと悩むことは多くて、学部を絞った分だけ選択肢は減った。それでも、模試の度に書かされる志望校に頭を悩ませるのだ。荒北は、どうするんだろうかなんて考えるけれど、行先が決まるまでは進学先は聞きたくないかもなぁ。同じになることは、きっとないだろうし。 「新零?」 「うん?」 「大丈夫?」 「・・・うん、ちょっと考え事してただけだから気にしないで」 「今度はさ、なんかあったらちゃっんと言ってね」 「うん、ありがと」 こってりした応援なんて嫌がるだろうし、特に何もしないというのがいいかと、「いってらっしゃい」と前日に声をかけるだけにしておいた。夏休みが始まって少しすればインハイが始まって、王者箱学なんていわれるだけあって応援団も力を入れてるらしい。・・・夏葵と百合も一緒に来てくれることになって、1日目を見に行くことにした。2,3日目もと思ったけれど荒北に来るなと釘を刺された。炎天下に慣れない奴が3日立ってたら危ないなんて言っていたけれど、そこまで柔なつもりはないものの、2人を付きあわせるわけにも行かないので結局1日目だけにしておいたのだ。 「荒北っ、お疲れ様」 「・・・は?」 「?」 「なんで、お前がここに居んだよ?!」 「ちょうど狙ってた旅館がキャンセルで空いたから?」 「は?何、お前、泊まりできてんの?」 「うん。百合と夏葵も一緒にね」 「まじかよ・・大人しく家帰れよ。地元だろ」 「いいじゃんか、たまには友達と泊まりも」 「いつも寮なんだから、泊まりみたいなもんだろ。馬鹿じゃねぇの」 「温泉だし、料理とかさ。私達箱根育ちじゃないから、最後に観光してかなきゃねってことになったの」 「・・・あっそ。で、ここまで何で来たわけ?」 「タクシー」 「お前、何してんの。わざわざ来たわけ?!お前は暇でも、俺は暇じゃねぇの」 「邪魔ならすぐ帰るけど?お風呂上りみたいだし」 「会えなかったらどうしてたんだよ」 「フロントで箱根学園の生徒ですけどって生徒手帳見せたら教えてくれるかと思って」 はぁっとため息をついてロビーの椅子に座ったので、合せて私も座ることにした。他のメンバーもお風呂だったり、部屋だったりと自由にしているらしいのでミーティング中というわけではないらしく少し安心した。邪魔だけはしたくなかったのでタイミングとしては丁度良かったのかもしれない。 「感想言った方がいい?」 「ンなもんいらねぇ」 「じゃぁ、何も言わない。あ、これだけ。怪我してない?」 「かすり傷程度はしたかもな。風呂で沁みた気がする」 「そっか、ならいいや」 まだ湿っている髪をタオルで拭いている様子に、ちゃんと乾かすんだなぁと見てしまう。見んなと顔をそむけられたけれど、手はちゃんと頭の上で動いている。風邪引かないように気を使ってるんだろうと、少し手を伸ばして濡れた髪に触れたけれど特に何も言われなかった。次に会うときは、勝敗が付いているのかと思うとドキドキする。個人の賞があるとはいえ、団体競技としての緊張感は独特だと思う。 「夜なんだから早く帰れよ。危ねぇだろ・・・インハイ中で俺らくらいの連中がたくさんいんだから」 「タクシーだし、そうでもないよ?旅館の前から前までだったし。昼間見てた時も誰も声かけられたりしなかったし」 「そーかよ。・・何、明日のスタートも来んの?」 「スタートのあたりだけ見れたらとは思うけど?そっちに顔は出さないから」 「あっそ」 「?」 「お!椿さんではないかっ!!」 「東堂くんだ」 「だから、早く帰れつったんだよ」 「何?」 「何でもねぇから、お前は早く旅館に戻れ」 「荒北に会いに来たのか?」 「うん。驚かせようと思って」 「なんだ、椿さんじゃないか」 「新開くんだ」 「・・・・・・・」 しばらく2人と話していると、私が手にしていた携帯を荒北が引っ張って、どこかに電話をかけている。会話からして、タクシー会社だ。 「ちょっと人の携帯で、勝手にタクシー呼ばないでよ」 「もういいだろ。どんだけ居座んだよ」 「そうせかさなくてもいいだろう荒北よ」 「そうだぞ靖友。せっかく来てくれたんだから泉田たちにも」 「っせ、もう呼んじまったから新零チャンは大人しく旅館行き」 ぐいぐいと手を引っ張られて荒北たちの泊まり先を出た。不機嫌そうなところを見ると、今日の走りは納得がいっていないのだろう。どこが?と素人目にも他人目に見てもわからないけれど本人が気に入らないのなら仕方がない。とは、いいつつなんだかんだ、外まで見送りに来てくれるところが優しいと思う。 「怒ってるわけじゃねぇからな」 「うん」 「あいつらに見つかると面倒だから早く帰れって言った。別に・・・なんだ。その、わざわざ来てくれたっていうの・・・そーいうの、あれだ」 「照れ隠し」 「っせぇ」 「なんとなく、荒北のことわかってきた気がする」 「全然わかってねぇよ!!バァカ、わかってたまるかよ」 「あ、タクシー来た」 「・・・じゃぁ、気をつけて帰れよ。寄り道するな、まっすぐ旅館に戻って部屋に戻れ。」 「了解です。荒北も、布団蹴っ飛ばして風邪引かないでよ」 「んな寝相悪くねぇよ」 「どうだか」 軽く手を振ってタクシーに乗り込んで、しばらくしたころにメールが届いた。それくらい口で言えばいいのにと思いつつ、画面を眺める。かわいいなぁと思ってしまうけれど、本人に言ったら嬉しくないって言うのだろう。つまり、少し冷たかったのは礼を言うタイミングを計っていたということなのだろう。その最中に東堂くん達が来てしまったと・・・そう言うことなのだろう。メール画面にある“ありがとネ”に思わず笑ってしまった。 ←→ 目次 |