66 前よりも荒北に時間ができたこともあって、少しだけ一緒に過ごす時間が過ぎたような気がした。お互いどちらかというと黙々と勉強するタイプなせいか、一緒に勉強しようと思っても無言で時間が過ぎるため息抜きのために会うことが多かった。もちろんクラスが同じなこともあって毎日顔を合わすのだけれど。不思議と、志望校の話しはあまりしなかった。高校を卒業したら、どうしようね?なんて話をしたくなかったのかもしれない。そもそも高校が同じなだけでも偶然が重なったからなのだ。 教室掃除が終わって帰ろうと荷物を手に取れば、荒北が戻ってきて席についたので不思議に思えば少し残って行くと言うので、私も残ることにした。 「新零、この問題ってよ」 「ん?」 「わかるか?」 「・・・それ、解いた気がする。ちょっと待って」 「あ、やっぱいいわ。なんか、わかった」 「・・・・そーですか」 人の事は言えないけれど、お世辞にも綺麗と言えない字を眺めた。マークシートも雑に塗るんだろうか?案外綺麗に塗ったりするんだろうか、なんてどうでもいいことを考えながら荒北の書く計算式を目で追っていく。数学より危ない科目があるんじゃないかと思いつつ、入試にいらないなら問題ないかと開けっ放しの荒北の筆箱から、サブのシャーペンを取り出して同じ紙の空きスペースに落書きを始めた。別段うまくない絵だけれど、猫と駒を矢印で繋いで、また矢印の先にマウスを描いた。す、すっと思いながら次の矢印を書いていると、勝手に何かが書き足された。 「・・・・すいか?」 「おう」 「問題は?」 「解けた」 「良かったね」 次の問題に取り掛かった荒北を見ながら、自分もやろうと英語の長文問題を開いた。数問解いたところで行き詰って、荒北の方を見て矢印の続きにカメの絵を描いた。再び問題に目を移して今日のノルマに向けて頭を回す。前よりも覚えた単語が増えたからか読めるようになった気がして消えかけるやる気を繋ぎながらの作業である。少し進んで、ふと視線をずらせばカメの続きに矢印と絵が足されていた。 「新零、寮戻んぞ」 「・・・・?」 「お前、1日にこなす量多すぎんじゃねぇの。その付箋のとこで区切ってんだろ?」 「・・・・・」 「まだ寝ぼけてんのかよ」 「寝てた?・・・どれくらい?」 「15分くらいか?・・・つーか、お前コレ何?わかんねぇんだけど」 「アルマジロ」 「んなもんわかるかよ」 随分と続いた絵しりとりの最後が?で終わっている 「荒北こそ、難解な絵描きすぎ」 「お前も人のこと言えるかよ。あげく気持ちよさそうに寝やがって・・・オーバーワークは、あんまよくねぇだろ。体が資本だぞ、体調崩したらどうすんだ馬鹿」 さくさくと参考書を鞄に片付けて行くのを見て慌てて自分の荷物を鞄に詰め込んだ。残り3分の1か・・・とため息をつく。模試の結果が思わしくない英語に頭を悩ませる毎日である。 「もうすぐ、学祭の準備始まるね」 「そーいや、そうだな。お前1年の時も喫茶店だったろ」 「そうそう、どっかの誰かさんに不細工呼ばわりされた1年の学祭ね」 「・・・・・」 「ま、気にしてなかったんだけどね。この野郎、嫌いなくせに絡んでくるなとは思ったけど」 「・・・・・・」 「何も言い返せないのー?」 「っせ」 気まずそうに苦い顔をした荒北を弄りながら寮への道を歩く。特に手は繋いでいないけれど、自然に車道側を歩く荒北には、毎回にやにやとしてしまう。今年のクラスでは、最終候補まで劇と喫茶店が残っていた。1年が喫茶店だったこともあって劇か・・と思ったけれど例えばであげられた演目が恋愛絡みのものばかりで顔が引きつった。あげく「新零が王子様やれば?」なんて友人に言われ冗談じゃないと反論した。結局、喫茶店に落ち着いたものの王道に走ってしまった感じがある。 「新零ちゃんも、衣装合わせお願い!」 「はーい」 衣装係の子に呼ばれて別の教室で他の子たちと一緒に当日の衣装を確認する。やはり、背丈の関係で、みんなよりもスカート丈が短くなるけれど、元々長いからか違和感なく着れた。どちらかというと、男装じゃないぶん短すぎる髪の方が気になった。変じゃないよ?と不思議そうに言われても自分が気になるのは、どうしようもない。まだ学祭まで時間があるしと色々と考えながら寮に戻った。女子はロング丈のメイド服もどき、男子は制服に近い服・・きっちりしていれば何でもいいけれど眼鏡装着となっている。提案したのは断じて私ではない。メイド喫茶は先に決まったけれど男子はどうするのかとなったときに、女装なんて言葉や執事なんていうのも上がったけれど、それをこなせる人員がいるのかという話になり、同じような路線でということで眼鏡に落ち着いたのだ。 当日、朝から支度を済ませて、あとは学校に着いたら着替えるだけだ。百合や夏葵に驚かれただけでなくて、他の友達にも驚かれたけれど、お世辞かどうかわからない「かわいい」を頂いた。自分でも見慣れない姿に、なんだか恥ずかしい。やっぱりやめれば良かったかな・・と上履きに履きえながら思った。今ならまだ元に戻せる、そもそも外せばいいだけだ。隣で、クラスメイトが下駄箱を開けて下に上履きを落とした。 「・・・・・・・」 ローファーを下駄箱に入れて扉を閉じて落ちたままの上履きに目をやって、視線を上に上げた。 「おはよ、荒北」 「・・・・・・・・・」 「・・・う、やっぱり変?」 「・・・・・髪、どーしたんだよ」 「ウィッグつけてみたんだけど、」 「・・・・・」 硬直状態の荒北を少し見上げて、いつもよりもずっと長い髪の裾を弄ってみた。こんなことしたことないのだけれど、なんとかなくだ。 ←→ 目次 |