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荒北が部活に向かってから、夏葵と合流するために移動した。我ながら恥ずかしいことを言ったと耳が少し熱い。何かあったのかと夏葵に聞かれ、正直に答えれば「あーもう、お腹いっぱいだから」と苦笑いされた。惚気たつもりはなかったのだが、そう聞こえたらしい。荒北の言動に、未だに慣れずに戸惑ってしまう。あんな簡単に持ち上げられるとは思わなかったし、耳元で言われた言葉も1日経ってもまだ耳に残っている。

「私専用のメイドみたい」
「いいよ、お嬢様」
「お、いいね」
「そう?」
「さっきから他校生牽制してる新零がもうボディガードみたいでさ。私の専属メイドは素晴らしいね」
「お褒めに預かり光栄です」
「様になるからやめてよ」
「夏葵笑いすぎ。はしたないですよ」
「荒北くんには、ご主人様なんて言っておいて。私にお嬢様って」
「それぶり返さないでよ。でも荒北って、ご主人様っていう柄じゃないし。どっちかっていうと、ジャックとか騎士っていうの?護衛する側、私と同じ側じゃない?」
「あー確かにそれはいえるかも。福富くんの前に2人立ってたら、それっぽく見えるわ」

ネクタイを嫌がった荒北に無理やりネクタイをさせて、2日目だからめんどくさいと理由をつけて眼鏡かけたがらないところを無理に押してかけさせたけれど。もう少し、ベストか何かを着せたら様になったかな・・・と少し思ってやめた。どうせ、嫌だって言われるのが落ちだ。

「さて、お嬢様、お飲物なんてどうですか?」と夏葵を誘って見えてきた百合のクラスに入った。他のクラスを周りながらもしばらく話していると、夏葵の中学の友人たちと合流することになった。3年目ということもあって、私も少しだけ話に参加できるくらいにはなった。とはいえ、邪魔するのもなと席を外すことにし、自転車部の様子を見行こうかと足を進めるが、それも邪魔になってしまうかなぁと思いつつクラスを覗いても手伝うことはなさそうだったので向かうことにした時だった。後ろから肩を叩かれて振り返れば、髪色の変わった懐かしい人だった。

「椿、久しぶり」
「・・・・・・先輩」
「メイド服、似合ってるな!」
「あ、ありがとうございます」
「大学のやつら誘ってきたんだけど、はぐれちゃってさ。電話かけても全然でなくてな」
「そうだったんですか」
「お前は?友達いないなんてことないだろ?」
「中学の友達だったり彼氏だったりで、今は1人です」
「・・・お前、彼氏いただろ」
「いますよ?」
「・・・別れたとかじゃないんだな」
「縁起悪いこと言わないでくださいよ!部活の方に行ってるんで、私もそっちに行こうと思って」
「そーいうことか。残念。せっかく椿が1人でいる時に会えたと思ったのにな」
「ナンパですか?遠慮します。先輩って思ってたよりずっと女好きですよね」
「なっ・・そんなことない。そんなことないからな!!」
「必死になるところが怪しいです」
「そーいうなよ。せっかく会えたんだから合流できるまで付き合ってくれないか?」
「・・・・・そ、それは、ちょっと」
「あれ?椿さん、浮気?」
「違うっ!タイミング悪すぎっ!!」
「えー?」

階段の踊り場で先輩と話していれば、後ろから聞きたくない声が聞こえて、思わず声が大きくなった。2人きりでないだけ、良いのかもしれないけれど、あれから転校生とはすれ違っても話していなかったというのに今になって、何だというのか。逃げたい気持ちを押えながら2人を相手に会話を繋いだ。

「誰だ?」
「今年、転校してきた人です。かなり猫被りなんですよ」
「椿さんの浮気相手は誰なの?」
「浮気相手じゃないって、ただの先輩」
「へぇ?」
「へぇじゃないの、勝手に私に触らないでよ。前科持ちが!!」
「だって、メイド服なんて着てさ。誘ってる以外の何があるの?椿さんの彼氏って、かなりヘタレなんじゃないの?僕ならさっさと人がいない所連れてって」
「それ以上いうな、変態」
「仲いいのか?」
「良くないですよ、先輩!!目おかしいですよ」
「ナァニ、新零チャン。俺に3股かけてたのかよ」
「荒北っ、」
「俺に何回校内走らせんだよ、お前いい加減学習しろ。今回は電話もねぇじゃねぇかよ!!」
「今、荒北の方に行こうと思ってたら、先輩に会って、転校生に絡まれたのっ!!」
「君の大事なメイドさん、君が全然襲わないみたいだから僕が代わりに襲ってあげようかと思って」
「ふざけんなっ!!つーか、え、先輩サン?!新零、お前よくわかったな。髪明るいし眼鏡もしてネェじゃねぇか」
「大学デビューってやつだ」
「荒北が、私がロングの金髪にしてもわかるのと一緒だと思う」
「それは、嬉しくねぇな」
「椿さん、すごい修羅場みたいだね」
「誰のせいだと思ってんの!!」
「てめぇの危機管理が疎かなんだろうが!!」
「私のせい?!」

左右に先輩と転校生、正面に荒北、背面に壁である。囲まれた状態ではあるが、少しだけおいしい状況だと思った自分を殴りたい。一番安全なはずの正面の男が、一番怖い顔をしていて、私の顔は引きつった。

「ま、君が来ちゃったなら、僕は退散するよ。元ヤンって聞いたしね」
「っせ」
「先輩、友達にもう1回電話してみたら、どうです・・・・」

言いかけたところで、タイミングよく先輩の携帯が音を立てた。どうやら、場所が分かったようだったので、そのまま手を振って別れた。どっと疲れた気がして息を吐けば、正面から額を指で弾かれた。

「何もないので、ご心配なく」
「・・・信じっから、そんな不安そうな顔すんな」
「でも、どうして?」
「勘」
「・・・・なにそれ」
「なんか、嫌な感じしたから戻って来たら案の定ってやつ?」
「動物みたい」

にやりと口角を上げた荒北に手を引かれて1階の教員用下駄箱の人目に触れない場所に来た。部活の方はいいのかと聞けば、自分より適役がいるからいいのだそうだ。納得していると、すっと背に腕が回って抱き寄せられた。既に外された眼鏡が胸ポケットに入っているようだった。体に挟まれた手で荒北のシャツを掴めば、耳元に頭が寄せられて「邪魔」とヘッドドレスが下に落ちた。何か引っ張られる感じがして反対側から後ろを振り返ればエプロンの紐をゆっくりと引っ張っているのが見えて、慌てて静止を求めれば「別に変なことするわけじゃねぇだろ?」とぎりぎりまで、じりじりと引っ張られた紐がほどける直前で止められた。耳元で聞こえてくる低い声も、その行為にも手に変な力が入った。

「食ったりしねぇから、あんまそういう顔すんな」
「どーいう顔か、わかんない」
「服脱がしてるわけじゃねぇんだけどォ?」
「そんなことわかってる!こんなところで、そんなことしたら一生口聞かない」
「・・・それは、嫌だな」

ぼつりと落ちた言葉が、冗談なんてものではなくて真面目で、心底そう思ってるような消えそうな声に、どきりとして視線を上げて、またそらした。少しだけ背を曲げた荒北に唇を重ねられて、目を閉じた。いつもよりも長い行為に息が苦しくて、口を開ければ驚いて身を引こうとしたものの背にあった手が後頭部に移動して、逃がしてもらえず目を開けた。5センチほど空いた至近距離で息を整えていれば、荒北の舌なめずりが視界に入り、本能的にやばいと思って目をぐっと閉じた。


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