73 イルミネーションを見ている新零を見れることが楽しいとは死んでも言えない。 前日に送られてきた、着ていく服を教えろなんていうメールに驚いて慌てて服を決めた。どれを着ようと別に変わりがない物ばかりだ、基本的に制服かジャージ、部活関連のものばかりで私服らしい私服なんて荷物になるので数は少ない。そもそも冬なんて、上着を着てしまうので何を着ても同じだという考えが居座っているのだ。適当でいいと写真を送れば、翌日見事に合わせてきた新零に驚いた。 繋ぎ直された手に驚きつつ、握り返した。周りは、似たような連中と女同士ばかりで絶対数からして男が少ない。何が悲しくて男だけで来なければならないのか、そう思う気持ちはよくわかる。男くさいクリスマスばかりだったというのに、今年は一体どうしたのかと自分でも不思議に思う状況に、少しだけついて行けない。隣で、楽しそうにしている新零の様子を見ては来て良かったと思いつつ、いつもよりもずっとゆっくりのペースで足を進めた。もともと普段の歩くスピードについて来れてしまう新零は、あまりそのことに対して文句を言ってくることはなかったが、知らないうちに自分がスピードを緩めていることに気づいたのは最近になってからだった。・・・受験やら卒業やらで、あまり表情のなかった新零の表情が戻って来たのはペットショップにいた辺りからだろうか。 「靖友くん、次あっち」 「だから、くん付けやめろって言ってんだろ!!」 「なら靖くんで」 「っ・・ふざけんな」 「じゃぁ、友くん?」 「ヤメロ」 意地悪そうに笑って、靖友と名前を呼ぶのだから狡いと思う めったに繋がない手が、周りと同じということに居心地の悪さを感じつつも、たまには周りと同じ男女でいることも良いかと思う。心のどこかで恥ずかしいという気持ちが残っているような気もするが、新零を見て紛らわすことにした。新零がいるから、ひまわりへ目を向けたのと同じだ。こいつがいるから、今まで自分が素通りしてきたものが別のものに見えるのだ。自転車と少し似ているのかもしれない。 すれ違う男女でも、その雰囲気から高校生なのか、大学生なのか、社会人なのか粗方判別がつく。下心丸出しの男を指を差して笑ってやりたい衝動に駆られつつ、そんな様子を少しだけ眺めていた。人目も気にせずに、やたらとキスをする連中に新零が酷く引いているのを茶化せば、恥ずかしそうに視線をそらした。 「人に見せつける物じゃない」 「そーだね」 「どの口が、同意してんの」 「あー・・・・そんなこともあったかもな」 「まだ4か月」 「実際1年ちょっとだろ」 「そうだね」 くすくすと笑って、少しだけ擦り寄って来た。なんだかんだ、周りに影響されているんじゃないだろうか?甘えられているのだと気づいて、妙に体に力が入った。 「靖友、あれっ!」なんて、指を差した先には自転車がある。ぐいぐいと引っ張る新零に連れられてそこまで足を運べば、いわゆる自転車発電というやつだった。 「・・・・」 「やってよ」 「めんどくせぇ」 「自転車乗りが何言ってるの!」 「べつに発電するために自転車乗ってるわけじゃねぇよ!!」 「ほらほら、前のお兄さん頑張ってるじゃん。靖友なら楽勝でしょ」 「・・・・・」 「靖友くんの頑張ってるところ見たーい」 「てめぇ・・・」 わざとらしい物言いに顔が引きつるものの仕方ないと繋いでいた手を放した。店員の説明を聞き流しつつ、ペダルに足を乗せた。 「なかなか電気が点灯するほど回せた人いないんですよ」 確かにそうだ、さっきまで必死そうに回していたやつは微かにつく程度だった。このシステム、燃費が悪すぎるんじゃネェの?なんて思いつつ、軽く回し始めて徐々に回転数を上げて行けば「さすが靖友っ!!箱学2番のエースアシスト!」と嬉しそうにしやがった。やってる俺がこれだけ回さなければ安定してつかないというのは、やはりシステムとしておかしい気がする。 「安定供給」 「っせぇ!!」 ざわざわとうるさい周りが、何か言っているようだが電気がついただけで喜ぶ新零もおかしいんじゃねぇのと理解しきれないまま足を止めた。クリスマスイブにこんなところでバイトをしている方もあれだが、発電機の自転車を回すことになった俺もあれだなと、息を吐いた。 「みんなすごいって言ってた」 「っせぇ、そーいうのいらねぇ」 「鼻赤い」 「てめぇがやれつったんだろうが!!」 「かっこよかったよ」 「・・・・・っ」 自然に握られた手にピクリとして隣を見れば、先ほどの発電システムの方を見ていた。「全然つかないねぇ」と意地悪そうに笑ってこちらを見上げた。 「もうぜってぇやらねぇ」 「えー・・・」 「えーじゃねぇよ!!・・・つーか、なんでお前んな嬉しそうなんだヨ」 「だって、他の彼氏さんは安定して電気つけられなかったのに、私の彼氏さんはできたっていうのは。嬉しいじゃないですか」 「・・・・・」 「あ、照れた」 「っせぇ、余計なこと言うなら口塞ぐぞ」 「うわぁ、御遠慮」 「あ゛?」 「人の多いところでやったら、」 「・・・・・」 「・・・・・」 「・・・・・」 「?」 「帰ったらな」 「・・・あっそう」 不思議そうに首を傾げた新零の頬が寒さとは別の理由で赤くなった。 新零が受ける大学を知らないわけじゃない、自分と違って人と話す事の多い新零の声は自然と耳が拾ってしまったのだ。その中に、自分と同じも受ける大学があった。おそらく学部は違うだろうが・・・それにお互い、そこが第一志望かと言われたら怪しいところだろう。ただ、もし同じ大学ならと思わずにはいられなかった。違ったらそれでいいと頭のどこかで思っていてもそれでも少なからず落胆はするだろう。 「こんな日が来るとは思ってなかったな」 寒空を見上げながらぼそっと言った新零に視線をやれば、独り言だったのかそれ以上言葉が続くこともなく、そのまま空を見ていた。 「不満かよ」 「ん?」 「俺じゃ不満かっての」 「そんなこと言ってない」 「・・・新零チャンは、俺でいいの?」 「・・・・・・」 視線を俺に向けた新零の目が驚いたように大きく開かれた。 「俺でいいの?って言われても。私、彼氏できるの初めてだから比べようがないんだけど」 「・・・そういう意味じゃねぇよ」 「・・・不安なんだ」 「・・・・・・」 「・・・・正直、私だって不安だよ。靖友が思ってるような人間じゃないから、きっと」 「?」 「きっと、なんだこんなやつだったのかって思うときが絶対あるから」 「ねぇよ」 「あるよ」 「・・・あったとしても、それはそれだろ」 「・・・・」 「・・・・別にお前に何かしらを期待してるわけじゃネェし」 「うん」 「そのままでいいし、いいところも悪いところもねぇ方がおかしいだろ」 「・・・靖友は、一番大事なところがぶれないね」 「あ?」 「なんでもない。・・・靖友が何を気にしてるのか知らないけど。あれだけ時間貰った結果が今ここにあるんだから、それじゃぁだめ?」 「・・・・」 少し困った顔をされれば、ふっと肩の力が抜けた。それもそうか・・・こいつも器用なやつじゃねぇんだから、誰でもいいからなんてことは言わない。「そうだね」と返事をすれば、ふわりと笑った。 別れ際に触れた体温は周りの空気よりも、温かく、それでいて気恥ずかしさの抜け切らない余韻を残した。腕の中に抱き止めれば、自分の背に同じように腕が回って服を掴んだのがわかった。少し伸びたセットされた髪に手を入れて軽くほぐしてやれば大人びて見えた新零にあどけなさが戻って来たような気がした。化粧を落とせば、なおさらだろう。他のやつがやったら怒るだろうことをしても、許されるという優越感、いや自分に会うためにセットされた髪だから怒らないのかもしれないなんて、都合のいい解釈を鼻で笑いながら体を預けてくる新零の頭部に顔を寄せた。 「お互い口下手だから、苦労するかもね」 「そーかもなァ」 好きだとか、愛してるだとかいう、その手の言葉を口にするのが恥ずかしくて、これ以上どうしていいのか、わからない自分たちが随分と子供のように思えた。 ←→ 目次 |